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第一三〇話 ブッチー

誤字報告、感想、ブクマにポイント、励みになっております!

ほんわり書き続けておりますので、のんびりお付き合いお願いします。

アイディアも募集中です♪

 ブッチー


 二月一二日の金曜日。

 伝通を取り巻く一連の動きが、佳境を迎えた。

 国連のジュネーブに本部を置く国際労働機関から、非公式の調査団がやってくることになってしまった。

 表向きは国連職員の勉強視察となっているため、非公式となるらしい。

 日程の詳細は知らされていないが、官僚や国会議員との懇談会が予定されているそうで、大手企業のいくつかにも視察に入るそうだ。

 もちろん伝通にも入ることになり、これでチェックメイトとなるのだろう。

 今回の視察の目的は、国際労働機関から今年に発表する二〇〇〇年代へ向けた提言のための調査が目的だそうで調査視察だということを使節団は隠す気がないらしい。


 この視察団の来日報道に最も早く反応をしたのは、東大路グループではなく角菱グループだった。

 角菱グループは、取引見直しの交渉が不調に終わり、伝通との取引を終了すると発表した。

 この発表を受けて、常陸グループも取引終了を発表し、東大路グループ、ソニーズグループ、ユタカグループもそれに続いた。

 この流れは止まらず、他の取引見直しを発表していた企業たちも取引終了を発表し、伝通は年度末決算で大赤字だけではなく不渡りを出すことを発表することになった。

 現金化できる証券や資産があっても、すぐに換金できるわけではないので、これは仕方がないのかもしれない。

 さらに、多くの大手企業から見放された伝通は、資金調達もままならなくなり近いうちに二度目の不渡りを出し事実上の倒産になるか、規模を大規模に縮小して生き残る道を模索することになりそうだ。

 そんな中で、やっと洋一郎さんが帰国する。

 そして、その日の内に洋一郎さんに呼び出された。


「彰君、これから少し面白い人物に会うのだが、一緒に行ってみないか?」

「面白い人物ですか……。美鈴じゃなくて俺なんですね?」

「ああ、あちらの娘さんが君のファンらしくてな。今日の会食自体には意味はない。わしと彼が会った事実があれば良いだけだ。気楽にしていたら良い」

「わかりました。お供します」


 それから、由緒正しい料亭と言った雰囲気の建物に案内される。

 中に入ると座敷の個室に通されて襖が開かれた時、思わず叫びそうになってしまった。

 そこには、時の内閣総理大臣大渕恵三が娘の祐子と共に座っていたのだ。


「東大路さん、今日はありがとうございます」

「大渕君、久しぶりだな。時の内閣総理大臣に呼ばれたなら、いくらわしでも恐縮くらいはするぞ」


 個室の中に入り、大渕親子と向かい合って座る。


「さて、そちらが娘さんか?」

「ええ、祐子、挨拶をしなさい」

「大渕恵三の秘書をしております大渕祐子と申します。今日はよろしくお願いいたします」

「うむ、大渕君がここに連れてきたということは、後継に?」

「これかこれの婿に後継をと考えています。まだまだ勉強中ですな。そちらは……?」

「娘さんがファンだとか言っておっただろう。それなら本人をとな。それにまだ一般には公表をしとらんが、うちの孫婿になる男だ」

「……なるほど。若い者同士の顔合わせにはちょうど良い場になりましたな。桐峯君、祐子と仲良くしてくれるとありがたい」

「はい、桐峯アキラとして活動しております桐山彰と申します。今日はお邪魔させて頂きます」


 大渕恵三は、確か来年に他界するんだったな。

 彼は地味な印象が強いが、この時代の政治家の中では悪くない人物だった覚えがあるので、倒れた時は残念に感じた。

 だが、労働者派遣に関する法律の扱いは、もう少し未来を見て欲しかったとも思う。 

 もし彼の命脈を保とうとするのなら、洋一郎さんが先に動いているはずだ。

 俺から何かを言うのは、やめた方がよいだろう。


「さて、面倒な話は、先に終わらせましょう。伝通のことをどうするお考えでしょうか?」

「あの会社は、大戦が終わって五十年以上が経つのに、いつまで軍国主義をやっておるつもりだ。いまの規模でこの先も放置したなら日本の政財界に悪影響しか及ぼさんぞ。だからといって政治家や実業家の子息令嬢たちの受け皿になっていたのも知っておるからな。それはそれで必要なのだろう」

「本気で潰すつもりではないのですね。助かりました。ある程度それでお偉方は納得してくれるでしょう。受け皿についてのお考えは?」

「天下り先とか言ったか。そういうところが受け皿にはならんのかな?」

「あれは官僚たちの管轄なので、難しいかもしれません……」


 それからも洋一郎さんと大渕総理の話し合いは食事を挟んでも続き、伝通は現在の規模の三分の一に縮小、軍国主義的な社風の改善、受け皿としての機能は相談継続となった。

 話し合いは、中国と韓国のことにまで及んだが、現在の消極的干渉を継続することになった。

 また、労働者派遣法の話題では、急激な構造改革は不幸しか生まないと洋一郎さんの発言を、真摯に受け止めている様子も伺えた。


「それにしても国連まで動かすのは、やりすぎです。角菱なんて怯え切っていますよ」

「知り合いに成り行きを話したら、偶然にジュネーブまで話が届いてしまったようだ。積極的に動かしたつもりはないぞ」


 国連が簡単には動くとは思えないが、それを何とかしてしまうのが東大路洋一郎と言う男だ。最後のトドメに用意していたのだろうな。

 真の大人物は、考えるスケールが違う……。


「桐峯君、政治家と話すのは初めてかな?」

「東大路の婿になることは決めていますが、企業経営の根幹に関わるつもりはありませんので、あまり積極的に政治家の皆さんとはお会いするとは思っておりませんでした」

「そうか。我々政治家も人間だ。君たちの音楽だって聴く。あまり遠い存在だとは思わないでくれるとありがたい」

「わかりました。交流する機会がありましたら、そう思うようにします」

「彼は、こんなことをいっておるが音楽の才だけではない男だ。政治の世界には入れるつもりはないが、娘さんの世代になれば良い相談相手になるだろう」


 祐子さんが俺に向かって微笑んでから、口を開く。


「桐峯君、頼りにさせてもらいますね」

「はい、こちらこそ何かありましたらよろしくお願いします」


 大渕祐子は、悪い政治家ではないのだが、世間と少しずれているように感じるところがあった。

 そこさえ気にしておいてくれたなら、日本初の女性総理大臣を狙える人物なのに惜しい印象がある。

 もしかしたら俺が時間逆行した二〇二〇年以降に総理大臣になる未来が待っているのかもしれない。

 そうして、味の分からない会食は終わり、帰宅することになった。

 帰りの車内で洋一郎さんから話を聞く。


「伝通のことは、これで終わりだ。元受けの仕事は入りにくくなるだろうが下請けで生きていける。それにあそこは頭の良い者たちも多い。今回のことで目が覚めただろうな」

「色々とありがとうございます。未来の労働環境は、必ず良くなると思います」

「ああ、そう願うばかりだな。それと彰君、アメリカでCIAの職員から君に届けてほしいと言われた手紙がある。不穏な内容が書かれてあるかもしれんから、今の内に読んでおいた方が良い」


 洋一郎さんは、ビニール袋に入った封筒を俺に渡してきた。

 CIAからとは、不幸の手紙にしか思えないのだが、言われた通りに内容を読む。


『親愛なるAへ

 まず、突然の手紙に驚いたかもしれない。だが我々は君の敵ではないことを明記させてもらう。

 こちらが君を認識しているのに、君がこちらを認識していないのは不公平だと思い、手紙を送らせてもらった。

 ただ君の行動を基本的に支持している立場の者がいることを知っていてくれたらそれで良い。

 我々は緩やかに世界が変化することを望んでいる。

 もちろん、君の母国での『311』からの悲劇は、ぜひ止めてほしいとも思っている。

 君もそろそろ気が付いているのだろう。

 君たちから見て西の国は、なぜ今の状況なのか、よく考え直してほしい。

 それが我々からの答えである。

 何かあれば、メッセンジャーに渡した物を使ってくれたら良い。

 君を同志として迎えよう。

 それでは、また手紙を送る。    Rより」


 全文が英語で書かれた簡単な文章で、微妙に言葉を選びながら書かれている。

 未来の意味を持つ単語が一つも使われていないのが見事だ。

 だが、『311』が書かれている時点で、この手紙の送り主がどんな人物かわかるようにもなっている。

 これで時間逆行者が複数いるのは、確定した。

 幸いなのは、俺と敵対する意思がないことか。


「洋一郎さん、これを渡してきた人物は、他にも何かを渡してきたと思うのですが……」

「ああ、これだ」


 洋一郎さんが出したのは、封筒に入った書類だった。

 俺に渡された手紙を洋一郎さんにも読んでもらうために渡し、交換で封筒を受け取る。

 封筒の中には、アメリカ永住権の取得許可証らしき書類が入っていた。

 だが、これがどういう物なのかよくわからない……。


「これってどういうことなのでしょう?」

「東大路全員と彰君の分を渡されたが、初めて見る書類だ」

「これを持って移民局とかへ行けば良いんでしょうか……」

「CIAの職員が入国したらすぐにやってくるのかもしれんぞ」

「それもありえそうですね。永住権が必要だとは思えないんですが、一応パスポートに挟んでおきます」


 アメリカ永住権は、メリットだけではなかったはずだから、慎重に取り扱った方が良いのだろう。

 そもそもアメリカに永住するつもりがないので、貰っても困るのが本音だ。


「それが良い。こちらの手紙は、解釈に悩むところだな。文面の通りにまずは受け止めるしかないのだろう」

「そう思います。敵ではないからと言って味方でもないとも思うので、支持をすると書いてあるのですから文字通りに今は受け止めておきます」


 文面にあった俺の国から西と言うと、中国と韓国になる。

 確かにおかしいところがあるとは思っていた。

 日本の企業が東大路グループの影響で中国進出をしないのはわかるが、欧米の企業もレアアースなどの採掘業者とそれを支える分野の業界だけが積極的に進出しているように見える。

 もちろん他の業種も参入はしているが、全体で言えば消極的と言わざるを得ない。

 確かにこの状況は、俺の知っている時の流れとは明らかに違う。

 この状況が東大路グループの影響だけではない証拠となるのだろう。

 手紙の送り主であるRが何を考えているのかわからないが、わざわざ永住権と言う退路を用意してくれたのだ。

 いまのところは、俺の支持者だと思うしかない。


 こうして、センヤンから始まった伝通と俺との因縁は、終わりを迎えたのだった。


初めての政治家の登場は、この方になりました。

冷えたピザでも、そこそこ美味しいとおもうんですよね……。


さて、この章はこれにて終了です。

あまり深くは考えず、のんびりお付き合いおねがいします!



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― 新着の感想 ―
[一言] 乙でした D2滅ぶべし、ジヒハナイ 冷めたピザ ビートたけしは後に「あれは海辺のラーメン。だった。食ってみたら美味かった」とブッチホンを評していたから、長生きしていたらほぼ確実に長期政権を…
[一言] 手紙を寄越したのは多分、CIAの名を出す事で「(君は日本人だし恐らくそんな事はしないだろうが)こちらの邪魔はするな」という牽制も含まれているんでしょうね。 CIAを動かせるようなポジションに…
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