第一二八話 ワンページ
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ワンページ
一九九九年一月十六日の土曜日。
一九九八年が終わり一九九九年となった。
東大路の親族が集まる新年会は例年通りに行われたが、洋一郎さんも美鈴も帰国していなかったので年始は、美香と地元の実家へ一日だけ戻っていた。
実家では、高校時代の友人たちや美月の友人、美香の友人たちが我が家に押しかけ騒がしい一日となった。
来年は、横浜に実家が移ることになるので、楽しくも騒がしい正月は今回限りになるのが惜しく感じてしまう。
横浜では、両親と俺が資金を出し合い、防音室のあるちょっとした豪邸が建築中だ。
三月半ばには、入居が可能になるそうなので、少し楽しみにしている。
そんな中で、ブラウンミュージックへ大物新人が現れた。
俺からの情報で鮫島さんが動き、十二月の初めにスカウトが成功していたオオブクロだ。
この二人は、社会人としての日常があるため、ブラウンミュージックへの見学とテストが正月明けになってしまった。
大渕さんと袋田さんの楽曲と歌声は、かなりの迫力があり同系統となるユズキとは全く別物と考えた方が良いのかもしれない。
この二人は、ユズキとの違いを明確にするために俺とは違う他のオンガクプロデューサーが担当することになり、ミストレーベルにも所属しない方針になっている。
少し残念な気持ちもあるが、どんな二人になるのかデビューを楽しみに待とうと思う。
宇都宮の森山愛美も見学とテストにやってきてくれて、見事な原石ぶりを披露してくれた。
彼女の民謡の先生は、かなりの指導力のある人物のようで、中学の間は地元で暮らしてもらうことになった。
こちらからは、演歌歌手が歌うポップソングやポップシンガーが歌う演歌風の楽曲などを集めてもらい、それを渡すことにした。
代表的なこの手の人物としては坂本夏美が有名かもしれない。
彼女は演歌歌手として有名だが、様々な楽曲を歌いこなす人物でもあり、森山には、彼女の様な人物を手本にしてもらいたいと思っている。
スポーツの世界でも動きがあった。
東大路グループのサッカークラブである北海道札幌コンサドールは、無事に総合順位を中盤に付け、J1リーグ残留が決定した。
前日本代表監督を来年からの監督に呼ぼうとする動きがあるようだが、常勝チームを作る必要はないと思うので、どうなるのか注視したいところだ。
問題になっているのは横浜を本拠地とするマリノとフリューゲルだ。
合併が発表されたが、サポーターからの反対が根強く、取り消しになる可能性も高くなってきてしまった。
俺の以前の記憶では、多少強引な様子はあったが合併は無事に完了し、マリノを母体とするチームになる。
だが、この時間軸では、ハマサンの影響力が低い。
確かこの数年後に新たなサッカーチームが横浜に生まれ、プロリーグに参戦する流れがあったはずだ。
もしかしたら、フリューゲルは、残り続ける可能性もあるのかもしれない。
政財界では、洋一郎さんが仕掛けた伝通包囲網がいよいよ動き出した。
切り込みは、報道系雑誌の特集からだった。
一九九一年の過労による入社二年目の社員の自殺事件について、事件の発生当時の様子からその後の裁判の経緯、退社した元社員の証言などをまとめた特集で、一月の間の連載企画となっている。
この記事では、発生から八年近くがたつのに最高裁で裁判が争われ続けていることを大きな問題としている。
この手の裁判は、時間がかかるのは仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、そもそもそこがおかしいとも言えてしまうのだ。
伝通側の非協力具合はかなりのものだったようで、法整備の重要性も記事内で訴えられている。
さらに、アメリカではベルミーグループのケーブルテレビ局で、過労をテーマにしたドキュメント番組が放送された。
過労問題は、日本だけではなく世界的な問題でもあり、それなりに注目された。
この番組の製作を成立間もないベルミーコニュニケーションズが請け負っていることが少しおかしいのだが、問題は事実なので、あまり気にされなかったようだ。
アメリカでも話題になったことで、東大路と同業の松中グループ、ソニーズグループ、自動車を中心に活躍しているユタカグループが伝通との取引見直しを表明する。
さらに、角菱グループ、常陸グループなどの本体規模だけなら東大路グループよりも大きなグループが伝通との取引見直しを表明し、世界的に活動している企業たちがこれに続いた。
そして現在は伝通包囲網が完成し、水面下の交渉が繰り広げられている状況のようだ。
だが、一番のキーパーソンとなる洋一郎さんが日本に帰国していないことで長期戦の様相も見え始めている。
ちなみにだが、伝通との取引を大手企業グループが一斉に見直しをしたとしても、各テレビ局などは、独自の広告代理業会社を持っているし、広告代理業会社には、他の大手と言える白鳳社などの会社もあるので、大きな混乱になるほどではない。
今回の伝通包囲網で、黒いうわさがある大手企業は、生き残るため、一斉に業務改善を行い始めたようなので、白鳳社なども大丈夫なようだ。
洋一郎さんは、ここで終わりにするつもりはないようで、まだ攻撃を続けると詳細不明の情報が流れてきている。
俺の秘密ノートから読み取った情報を元に、今後の日本や世界の状況を少しでも良くさせるために洋一郎さんは命を削る覚悟で動いているようなところが見える。
だが、大きく変化をさせてしまえば、それはそれで問題になるので多少ましになる程度が自分のやれる範囲だとも思っているようだ。
真の大人物の生き様を、しっかり見させてもらおうと思う。
こうして、俺の一九九九年は騒がしい世の中からスタートした。
「あの漫画ですか……」
「間違いなく取りに行くべきだと思うんですよね」
ミストレーベルの企画室では『魔導師オーエン』の納品が終わり、弛緩した空気が流れていた。
そんな中で、営業の胡桃沢さんが興味深い話を持ち掛けてきた。
それは、今年の十月からアニメ化が計画されている作品のオープニングとエンディングを獲得すべきと言う話だ。
作品の名は『ワンページ』と言い、ファンタジー世界の海賊団の船長を主人公とした話だ。
地球と似ているが全く違う世界、その世界は大航海時代を迎えていた。
そんな中で、全ての海を制したと言われる海賊団の船長が捕縛され、様々な罪状があるために処刑される。
船長の遺品の中に航海日誌があり、その最後のページがなぜか破り取られていたのだ。
航海日誌の内容から、破り取られた航海日誌の最後のページには財宝の隠し場所が書かれてあったのではないかと憶測が飛び交い、やがてそれは真実とされるようになった。
本物の最後の一ページが不明のまま、海賊たちは財宝探しの航海にでる。
そうして主人公となる少年も大海原へ繰り出したのだった。
以前の俺の記憶の中にあるこの作品は、二〇二〇年になっても放送時間を変えながら続いていた記憶がある。
確かに取りに行くべき作品とは言えるのだが、このアニメの初代オープニングソングは日本のアニメ史に残るほど有名な曲になったはずだ。
それを覆して良いのかが迷うところだ……。
ある程度曲調を似せて、文句のつけられないミュージシャンに歌ってもらうことで俺自身を納得させるか。
例えば、レジーやカゲさんなら、文句は付けられないだろう。
さらに文句を付けられにくくする方法を考える。
確か現在、佐久間書店からの企画で『大怪獣ガメーラ』の新作映画を撮影していたはずだ。
その宣伝用ドキュメント映像をなぜか『神巨兵エヴァリオン』の安野監督が引き受けていた。
おそらく安野監督は、特撮好きで有名だから、ドキュメント映像の仕事を受けたのだろう。
レジーとカゲさんなら、特撮の曲も歌っているから、安野監督にドキュメント映像を取ってもらえる可能性は高そうだ。
エンディングには、舞のデビュー曲を使うのが良いかもしれない。
そろそろデビュー時期を考えないといけなかったんだよな。
美香は、いっそ行けるところまで声楽でやってみようと言う話が出てきているので、てっちゃんの母校へ入学させてからのデビューで良いだろう。
これらのことを胡桃沢さんへ、俺の記憶の話を抜いて話す。
「なるほど。レジーかカゲさんですか。そこに安野監督まで巻き込んでしまう……。絶対に話題になります! 実績もある方々ですから原作者の先生も製作会社に出版社、どこも文句がつけられないですね」
「ついでと言うには贅沢ですが、舞もこの機会にデビューさせようと思うんですよね」
「実績のある方々と桐峯アキラ秘蔵の新人、良い組み合わせになると思います。それに舞さんは、十分な下積みがありますから大丈夫でしょう」
舞は確かにコーラスだがライブツアーに参加した経験もテレビ出演の経験もある。
一人で歩かせるのが不安なところのある舞だが、しゃべらなければ大丈夫だろう。
それに、舞には長く歌えるアニメの曲を担当してほしかった。
東大路グループがメインスポンサーになってくれるなら、これも可能だろうからそのあたりも相談だな。
海物王に俺はなる!!
海産物の王様のことですね……。