第一二六話 ミックス娘
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ミックス娘
十二月二一日の月曜日。
アニメのオープニングソングは、約九十秒で作られる。
なぜ、この長さになったのかは不明だが慣習ということになっているようだ。
そして、オープニングソングには、そのためだけに作られた本編とは別物のアニメ映像が付けられることが多い。
結果として、美麗なオープニングソングを彩る映像が流れたのに、本編ではあまり動きのないアニメ映像が続くということもあるようだ。
そして年末も近いこの時期に俺たち極東迷路とエーデルシュタインのメンバー、コーラスとして舞と美香、サポートにラルアンシェルのメンバーまでがレコーディングスタジオに集まり、楽曲のないオープニング映像を皆で眺めている。
なぜ、こんな状態になっているのかを順を追って思い返す。
十二月に入り、最初のセンヤンの放送日である十二月六日日曜日にミックスパイの解散とてんくが選んだ新たなメンバーとのユニット結成が発表された。
その中で、城沢だけは、方向性の違いとしてユニットから離れて芸能活動を継続することも告げられた。
この時に新たなユニット名となる『ミックス娘』も公表された。
ミックス娘は、元ミックスパイの六人、てんくの選んだアイドルユニット候補三人、ミックスパイ追加オーデションで合格した一人の十人でスタートとなった。
番組内では、穏便な話し合いの末に上森明菜からミックスパイを託されたと言うシナリオを演出し、最後にメンバー一人一人による今後の意気込みコメントを流して放送は終了した。
月曜日の情報番組などでは、多少の話題にはなったが大きく騒がれることのないまま金曜日になり、それは時限爆弾のように爆発した。
始まりは、十二月十一日金曜日の朝の情報番組で乱キューのベーシストが暴行事件で逮捕されたと言う報道が流されたところからだった。
その後に放送された各局の情報番組でも大きく取り上げられ、世間にも人気バンドのベーシストが逮捕された事実は、かなりの衝撃を与えたようだった。
そんな金曜日の夜、乱キューはタモさんが司会をする生放送のニューズステーションへベーシスト抜きでの出演を強行する。
タモさんは、ベーシストがいないことに触れず、何もなかったかのように番組の放送は終了した。
だが番組の裏では、乱キューの生放送出演に対するクレームの電話が鳴り響いていたそうだ。
その後、土曜日日曜日と乱キューの所属する事務所でもクレームの電話は続き、月曜日にベーシストの無期限活動休止が発表された。
この発表で逃げ切ることを考えた事務所だったが、写真週刊誌が逃がしてはくれなかった。
ほぼ正確にミックスパイ移籍から解散、新ユニットの参加の経緯を暴露してしまったのだ。
センヤンのメインスポンサーで大手広告代理業の伝通から出向している番組プロデューサーが強権を使い、乱キューのメンバーとともに上森明菜にミックスパイの移籍を迫った。
上森明菜は、愛弟子であるミックスパイが今後の仕事を取りにくくなることを避けるために涙を呑んで移籍を承諾する。
ただ、一番年少の城沢だけは、芸能界の理不尽さに振り回すには若すぎるとして、断固移籍を拒否したとのことだった。
要約するとこんなことが書かれてあったのだが、実際はもっと辛辣な言葉で綴られており、内容もほぼ間違っていないので反論のしようがない。
そうして伝通は、センヤンの番組プロデューサーを番組制作会社の人物に譲り、乱キューのメンバーは、ベーシストだけではなく、全員が無期限の活動休止となることが発表された。
伝通は、番組プロデューサーの撤退をしたがメインスポンサーからは降りてはいない。
意地を張って傷が深くなるよりも影響力を残すことに決めたようだ。
今回のことは、あまりにも内情が正確すぎることから関係者は、内部からの暴露だろうと予測しているが誰なのかはわからないそうだ。
センヤンの製作会社には、桐峯アキラがデビュー前の高校一年生のころから付き合いのある高橋と言う人物がいることを関係者の皆はなぜか忘れているらしい。
本当に不思議だが、人の記憶なんてそんな物なのだろう。
この出来事では、東大路グループを筆頭とする伝通包囲網は、まだ動き出してはいない。
洋一郎さんからしたら前哨戦にもなっていないのだろう。
さて、これが一連の出来事なのだが、アニメオープニングソングとのつながりが見えてこないのはなぜか?
それは、九月の出来事も関係しているからになる。
東京のライブの直前に『宇宙要塞ナデシコ』の映画を見に行った俺は、営業の胡桃沢さんに今年の十月から放送開始する『魔導師オーエン』の後期オープニングソングが取れそうならお願いしたいと頼んであった。
そうして動いてくれた胡桃沢さんだったのだが、結果は、かんばしくなく前期後期ともに乱キューがオープニングソングを担当しており、前期後期のエンディングソングも乱キューの事務所のミュージシャンが担当することになっていた。
さらにアニメ全体の音楽担当も乱キューのギターリストであるハタさんが担当しているそうで、完全に入り込む余地がない状況だったのだ。
この話を聞いた時には、ミックスパイの移籍の話が進んでおり乱キューのベーシストが逮捕されるのもほぼ確定している未来として考え始めていた。
そうして、乱キューが俺の以前の記憶よりも過酷な状況になることを踏まえて準備をすることにし、胡桃沢さんには悪いのだが、もう一度制作会社へ行ってもらい万が一があればと念押しをしてもらっておいた。
結果、十二月の後半になってアニメ制作会社から後期のオープニング、エンディングだけではなく音楽全般を担当してくれないかとダメ元の話がきたのだった。
はっきり言って、オープニングとエンディングの曲だけなら急な依頼もあり得るのだが、音楽全般の依頼を受けるのは不可能と答えるのが当たり前と言えてしまうほどに簡単な仕事ではない。
だが、そこを条件付きで担当することに決めた。
この条件を出した俺も酷いと思うのだが、合意した制作会社もかなり酷いと感じてしまう内容になっている。
条件はこんな感じだ。
販売版では、前期のオープニング、エンディングを含め、音楽全てを桐峯アキラが担当すること。
これに伴い乱キュが関わる音源を全て桐峯アキラの音源に差し替えること。
クレジットでも乱キューとハタさんの名前を消し、桐峯アキラのみとすること。
今後の魔導師オーエンシリーズの音楽は、全て桐峯アキラ及び、その指名した人物または後継となる人物に帰属すること。
この条件の内、不祥事を起こした乱キューが関わる条件は、場合によっては販売中止になる可能性もあるので問題なく合意されたのだが、最後の条件が問題になるのはわかっていた。
だが、この最後の条件には裏がある。
アニメ制作には、それなりの予算が必要だ。
さらに今回の作品では人気バンドの楽曲を使うことになっていた。
ある程度までは不祥事が絡んでいるので、回収は見込めるが代役の予算となるとかなり厳しくなるのが実情だ。
そこを作品全般の音楽権利と引き換えに格安で引き受けることにしたのだ。
俺としては、そろそろ映像作品のサウンドトラックに挑戦してみたかったこともある。
実験に使うには良作過ぎる作品だが、この機会を有意義に使わせてもらいたかった。
ある程度、売れなければ赤字になる予算で引き受けることになっているので、ブラウンミュージックも必死になるだろう。
そんなこともあって、予算の心配がいらなくなった制作会社は、原作者を必死になって説得して桐峯アキラへ依頼することが決められたのだった。
この作品は、シリーズ化することを知っているので、俺としては多少強引でも受けたかったのだ。
ちなみに、乱キューの活動休止は、半年から一年ほどになるとみている。
それまでミックス娘はセンヤンのアシスタントのみの仕事になるらしい。
全く仕事がないよりは、はるかにましなのでこれで納得してほしいところだ。
「オープニングは、エーデルシュタインで、エンディングが極東迷路か」
「オーエンの世界観って、魔法のあるファンタジーな世界なんですよね。俺の曲の中で一番そういう世界観に近いのがエーデルシュタインなんですよ。極東迷路は、蜜柑の曲を使うんで、俺の色とは違う雰囲気になるから選びました。
「良いと思う。明菜さんの敵討ちのつもりで俺たちも全力でサポートさせてもらう。早速、録音を始めるか!」
今回は、ラルアンシェルのテツオさんがディレクターとなり、全体の指揮を取ってくれることになっている。
他のラルアンシェルのメンバーは、それぞれのパートのサポートに付いてくれるので、録音から調整までかなりスムーズに進むだろう。
問題なのは、オーケストラが入る楽曲なのだが、譜面は完成しているし後半が始まるのが一月の下旬かららしいので何とか間に合うだろう。
一連の事件で一番、心を痛めているのが明菜さんなのだが、世の中の意見としても明菜さんを擁護する声は強い。
特に年少の城沢を守り切ったことは、評価を上げることになり明菜さんの精神的な復帰も早くなることを願うばかりだ。
乱キューのモデルのファンの方、ミックス娘のモデルのファンの方、ごめんなさい!
言い訳をします。
どこかを上げるとどこかが下がると思うんです。
特にトップ争いをしている集団だとそれが顕著に出ると思うんです。
なので、こういう流れになりました。
とは言え、どちらもそれなりの活躍は物語中でもするはずなので、ご容赦くださいませ。
あと桐峯君が腹黒なのは、そういう設定なので、小声で『黒峯!』とか言ってあげてください。
美鈴様が喜びます。