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第一二五話 演歌娘

誤字報告、感想などなどありがとうございます!

ほんわり書き続けておりますので、のんびりお付き合いお願いします。

アイディアも募集中です♪

 演歌娘


 十一月二九日の日曜日。

 先日、慶大の推薦入試があった。

 妹の美月は学内推薦で、カレンと島村は自己推薦で受験をし、三人とも無事に合格通知が届いた。

 美月はともかくとして、カレンと島村は、俺が学業にも重きを置いていることを知っていたので大学に進学しても問題ない程度の学力は身に着けているそうだ。

 大学進学後の美月は、華井奏社で和楽器奏者として本格的に活動を始めることになる。

 おそらくだが、免許皆伝を受けるのと同時に、ブラウンミュージックに移籍をするつもりなのだろう。

 今の華井奏社は、技術習得のための場としては優秀のようだが、演奏活動をするための芸能事務所としては、弱小団体になってしまっている。

 若手を追い出した結果、自らの首を絞めることに繋がったのだから、こちらから手を貸すつもりはないが美月の邪魔をするのなら容赦はしない。

 華井宗家と母親は、良好な関係なのだから、美月は宗家に直接行けば良いと思うのにあくまで華井奏社に入る意思を固めている。

 華井奏社の頭の固い先達の方々が問題を起さないことを願うばかりだ。


 ランテスでは、インディーズレーベルのアトランプロダクションが設立されたことを受けて、レコード会社のランテスレコードと芸能事務所のランテスプロダクションに分けることが決められた。

 今までは、ランテスがどちらの機能も持っていたが、これからは純粋なレコード会社と声優や歌手などを扱う芸能事務所の二つになる。

 これを受けてフロッコリーでは、プロアマ問わずのマスコットキャラのための声優オーデションが催されることが決められた。

 城沢美幸が、すでに内定状態なのだが、一応オーデションにも参加することになった。


 そうして、年末が近くなると聞こえてくるのがレコード大賞と紅白の出場者の話だ。

 今年は、CDバブルと呼ばれるほどにCDがよく売れる年となった。

 俺たちミストレーベルの面々も例にもれず、かなりの売り上げを出している。

 中でも、極東迷路とベルガモットが強い。

 この二つのバンドは、国内外で好成績を収めている。

 水城と島村は、国内よりも海外の方がなぜか強かったので、去年と比べると二人は勢いが弱いように感じられた。

 そして、今年は小村哲哉率いるグルーヴも売り上げが伸びた。

 情報番組などでは、今年のレコード大賞は小村哲哉と桐峯アキラの直接対決になると騒がれている。

 実際のところは、国内だけを見るとグルーヴの方が売り上げは高い。

 だが、海外の売り上げを合算すると、極東迷路の方が圧倒的になる。

 この状況は、今後の日本の音楽業界を見据えるとかなり慎重に選考をしなければいけない状況になったと言える。

 これからの日本の音楽は、日本だけでやって行くのか、それとも海外と歩調を合わせてやって行くのか、選考者たちは難しい選択を突き付けられているわけだ。

 海外との同調は、インターネットが普及され始めている現在の世界を見ると無視はできない。

 結果がどうなるのか、楽しみに待っておこう。


 もう一つ気になるのは、最優秀新人賞だ。

 おそらくベルガモットが受賞することになると思う。

 この時間軸では、てんくのアイドルユニットのポジションにミストレーベルのガールズバンドが入ることになるのかもしれない。

 テレビやラジオの出演、ファッション雑誌のモデル、ハニービーとともに、とにかく手広く仕事をこなしている。

 リーフビートの期待値も高く、ブラウンミュージックの養成所への問い合わせも去年の今頃から急増しているそうだ。

 彼女たちは作られたアイドルではなく、あくまで本質はミュージシャンだ。

 今の時代は、基本的に不景気であり、何をするにも萎縮している人たちが目立つ。

 そんな中、自らの意思で自由に楽器を奏でている彼女たちを見ると嫉妬の気持ちよりも切望の感情の方が強く現れるのかもしれない。

 こちらも期待をしておこう。


 紅白は、ミストレーベル全員が出るには枠が少なすぎるそうで、極東迷路、水城加奈、ベルガモット、ブリリアントカラーは当確で、その他はまだ未定らしい。

 その他では、ラルアンシェルが当確しているそうで、大御所の皆さんを合わせると、今年のブラウンミュージック勢は絶好調と言えるようだ。


「十一月の宇都宮ってこんなに冷えるんですか……」

「東京よりは体感温度が低く感じます。桐峯君は宇都宮へきたのは初めてなんですか?」

「地元の隣県だからでしょうか、こちらにくる用事がなかったんですよね」


 現在、俺と鮭川さんは、栃木県の宇都宮にきている。

 ミックスパイが今月末で移籍するために、中沢に演歌を歌ってもらおうと言う俺の思惑が頓挫してしまった。

 それなら、将来に演歌歌手として名を上げる人物を鮭川さんにスカウトしてもらおうとお願いをしていたのだ。

 その人物は、現在中学二年生の森山愛美と言う。

 俺の以前の記憶にある彼女は、高校生の時、民放テレビ局ののど自慢に出場し、好成績を収める。

 その後、なぜかプロレスラーとして有名なアントニー猪木さんの事務所で修業をし、演歌歌手としての道を歩き始めることになる。

 それからの彼女は、演歌歌手としても有名になるのだが、タレントとしても活躍をする。

 有名なエピソードとして、情報番組のとあるコーナーで、アメリカの有名歌手であるシンディ・ルーパーに会いに行き、彼女の前で歌う。

 そして、彼女の見事な歌声に感動したシンディは涙を流しながら喝采したと言う。

 俺も彼女の歌声は、しっかり記憶に残っており、日本を代表する演歌歌手の一人として覚えていた。


 とは言え、俺の方針としては彼女を演歌歌手として扱うつもりはない。

 まずは、水城加奈と同じ現代音楽から始めて、ある程度の知名度が出てから演歌を徐々に歌ってもらう。

 言わば二刀流といったところだろうか。

 将来の日本を代表する演歌歌手の一人をスカウトすることに抵抗がなかったわけではない。

 だが、演歌と現代音楽の二刀流の歌手は今の時代でもいないわけではないので、割り切ることにした。

 待ち合わせ場所となっている喫茶店に入る。


「桐峯君、森山さんは、音楽教室に通っているようで中学卒業まではこちらで、高校からは東京となるのでしょうか?」

「宇都宮なら週末だけ通ってもらっても良いとは思うんですが……、本人に決めてもらうのが良いかもしれないです」

「確か清恵さんが、週末だけ通ってもらっているんでしたよね。彼女は厚木でしたっけ」

「清恵は、厚木から毎週通ってもらっています。来年の春からは下宿にしてもらうか、ちょっと迷うところです」

「何か問題でも?」

「清恵の知り合いに音楽の才がある高校生が二人、いるはずなんです。彼らの様子を見てから考えたいんですよね」

「なるほど……。いつ頃に動けばよいのでしょう?」

「うーん、清恵に一度該当する人物がいるかどうか聞いてみます。鮭川さんには、その後にお願いします」

「わかりました。本当に謎な情報網を持っていますよね」

「まあ、そこは知らないふりをしておいてください」


 それからも鮭川さんとスカウトの話をしていると、女子中学生とその母親らしき人物が、喫茶店に現れた。


「彼女たちですね。呼んできます」

「お願いします」


 鮭川さんが親子に近づき声を掛けてこちらのテーブルへ案内をしてくれた。

 森山愛美と思われる少女は、かなり小柄で、水城と同じくらいかもしれない。

 あまり小柄なイメージはないので、今からまだ伸びるのかもしれないな。


「ブラウンミュージックの桐峯アキラです。今日は、ありがとうございます」

「森山愛美です。よろしくおねがいします」


 それから、森山愛美の母親とも挨拶をして話を進める。


「音楽教室に通っていると言うお話ですが、どんなところなのでしょう?」

「民謡の先生がいろいろなことを教えてくれています」


 栃木の民謡には詳しくはないが、八木節が栃木と群馬の民謡として有名だ。

 八木節は、聴かせるための唄と言うよりも踊るための唄で、盆踊りなどでよく歌われるらしい。

 それにしても、森山愛美の声は、いわゆるアニメ声のようでインパクトがある。

 特徴があれば、声優に向いているというわけではないらしいが声優の勉強もしてもらっても良いかもしれない。


 それから、音楽への考えを聞いたり、生活の様子を聞いていった。

 プロの歌手になりたい気持ちはかなり強くあるようで、今回のスカウトは願ってもない話らしく、母親も実際に俺が現れたことでほぼ契約の意思を固めたようだ。

 訓練については、本契約のためにブラウンミュージックへ一度見学にくることになり、その時の様子で決めることになった。


 鮭川さんからの事務的なお話も終わり、森山親子に連れられて餃子の美味しい店に案内してもらった。

 水餃子も美味しいが、焼き餃子も美味しい。

 道中に見かけた餃子のビーナスとやらの像は、何が何だかよくわからなかった。

 どのあたりがビーナスなのか、全く持って不思議なオブジェだ。



餃子がすごく食べたくなりました……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 森山愛美 モデルになった人は、今でも偶にNHKの「うたこん」で歌ってるの見ますね この世界では演歌路線には行かないんですね。演歌界は結構なダメージだけど、彼女はもっとメジャーな舞台でも活躍し…
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