第一二四話 ドリーとキャス
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ドリとキャス
十一月八日の日曜日。
俺と立花さんは、ランテスビルの会議室に備え付けられているモニターへゲーム機の接続をしている。
俺は、あまり積極的にゲームをする方ではないので、立花さんにほぼおまかせだ。
「これがドリーミングキャスターですか。白い本体が目立ちますね」
「インターネット機能が充実しているそうなんですが、ここでは使えなさそうです」
立花さんが接続作業が終わったゲーム機、ドリーミングキャスターの本体をまじまじと観察している。
俺は、コントローラを手に取り、感触を確かめる。
ゲームステーション系に慣れている俺としては、かなり扱いにくいコントローラに感じるが、これはこれで気に入る人もいるのだろう。
「ところで、まだドリキャスって発売前ですよね。何で桐峯さんが持っているんですか?」
「東大路グループのバンタイがセダに技術協力をしたんですよ。それでその技術の集大成であるドリキャスをいくつか発売前に贈ってくれました」
「そんなことがあったんですね……。それじゃあ、起動させてみます」
ゲームソフトをセットしてからドリキャスを立花さんが起動させる。
セダ独特の起動音が鳴り、本体と一緒に渡された格闘ゲーム、ヴァーチャルヒーローのタイトル画面がモニターに映し出された。
「俺はこのゲーム、よくわからないんで立花さん、一人で少し遊んでもらえます?」
「了解です」
立花さんがプレーを始め、それを俺が見守る。
動きは滑らかだし、悪くはなさそうだ。
「うーん、新機能のいくつかに慣れるまで時間が掛かりそうですね」
「そうなんですか……」
それからも立花さんのプレーを眺めていると、桃井さんが現れた。
「桐峯君、立花さん、それが例のゲーム機ですか!」
「俺はゲームをやらないんで、桃井さんやってみますか?」
「はい!」
桃井さんが立花さんとプレーを代わり、ゲームを始める。
立花さんは、説明書を読み始めた。
「あっ! このゲーム、よくある対戦モードがないようです……。その代わりに乱入モードで対戦するみたいですよ」
「え、どんな感じなんでしょう?」
「やってみます。桃井さん、乱入しますね」
「わかりました!」
それから、立花さんが余っていたコントローラを持ち、操作を始めると画面が切り替わり乱入モードが始まった。
こういう仕組みもあるのか……。
対戦モードがなくてこのモードしかないのは、不親切に感じるな。
それから二人の対決は、桃井さんの圧勝で終わり、俺も試しに参戦してみたが、キックとパンチを出すのが精一杯だった。
この手の格闘ゲームは、慣れていないと本当に難しいよな。
その後も、ペンギンが走り回るゲームをしてみたり、内容はよくわからないが映像が綺麗なゲームをしてみたりと、ドリキャスを一通り楽しんだと思う。
このドリキャス、秋川康をプロモーターに呼んでおきながら製造が間に合わず、品不足になり気が付いた時にはゲームステーション2が発売されてシェア争いにもならずに終わって行くんだよな。
さらに俺の以前の記憶にあるドリキャスよりバンタイからの技術協力で高性能になっているのだが、そこが災いして品切れは加速するだろう。
さて、今日は、ゲームをするためにランテスビルにやってきたわけではない。
実は、ゲームに関する話があると立花さんと桃井さんから受けたので、その話を聞きにきたのだ。
そのついでに、丁度良くドリキャスが届いていたので、試してもらっていたのだった。
「それでゲームの話ですよね」
「私から話します。この秋葉原にはいろいろなゲームが売っているんですが、一言で言うと大人向けのゲームもあるんです」
それから桃井の話を聞き続ける。
この頃のPCゲームには、大人向けを含め美少女ゲームと言われるジャンルがあり、恋愛シュミレーションゲーム、選択肢を選んでいく恋愛アドベンチャーゲーム、ただ読んで行くだけのノベルゲームなどがあるそうだ。
正直言って、それらがどう違うのか全く分からないが、中にはパズルゲームやRPGまであり、美少女のイラストやアニメーションがあれば、美少女ゲームとされるらしい。
これらのゲームには、イメージソングが用意される時があるそうで、そういう楽曲を手掛けてみたいという話だった。
俺の以前の記憶を掘り起こすと、確かにそういう文化はあった。
初めは、文字とデジタル音楽にイラストが付いている物だったのが、後に声優の声が付き、音楽もそれなりのクオリティーの楽曲が用意され、イラストもアニメーションになり、3Dも使われるようになったはずだ。
問題は大人向けと言う点か。
「桃井さんが必要と考えるのなら、それはきっと必要なことなんだと俺は思うんです。でも、大人向けとなると後々の活動に響くこともあると思うんですよね」
「そうですよね。それで何か良い方法はないでしょうか? 最悪、ランテスとの契約を切ってそちらの道へ行くことも考えたのですが、ここは桐峯君が気を配ってくれるおかげで居心地が良いんです。穏便な方法を考えたいんです」
「ランテスは、メジャー向けのアニメや特撮、ゲーム音楽などを取り扱うために作ってもらったんです。ですので同人活動やそれに類する活動、わけありの活動は対象外なんです。ですが……」
そう、だからと言って将来に芽吹く者たちを放っておく道理もない。
ならば、その者たちに合わせた場所をこちらから提供したら良い。
メジャーレーベルとは、日本の音楽出版を主に扱う同業者団体に登録されている会社のレーベルのことであり、その団体に登録していない会社のレーベルをインディーズレーベルと言う。
ランテスは、設立の経緯やレジーなどのバンドが所属しているため、メジャーでしか活動ができない。
だが、このランテスビルは、東大路グループの持ち物であり、他の会社が入ってはいけないわけではない。
そこで、このランテスビルの一室にインディーズレーベルの会社を立ち上げてしまう。
ついでに大人向けアニメやゲームを専門にしている声優たちのために声優事務所も立ち上げてしまえば良い。
正し、メジャーとインディーズで芸名の使い分けを徹底してもらい、顔出しも絶対拒否とする。
残念なことだが、この世の中の大人向けコンテンツへ対する偏見は、甘いものではない。
声が同じなら、いつかバレることもあるかもしれないが、特にコメントを出さなければ良いだけの話だ。
これらのことを桃井と立花に説明していった。
「なるほど、それなら私も過去によく似たことをしたことがあるから、大丈夫だと思います。早速、準備ですね」
「細かいことは、スタッフの方々にお任せすることになりますがこれならいけるでしょう」
「もう一つ、お話があるんですが良いですか?」
「はい、どうぞ」
「ゲーマースのフロッコリーって会社知っています?」
「確かアニメやゲームのグッズを売っているお店でしたっけ?」
「それですね。最近、トレーディングカードも売り出したみたいで、バンタイもどうかなって思ったんです」
「うーん、バンタイだと、カードの自動販売機のカードデスがあるから、どうなのかわかりませんが問い合わせてみます」
「可能ならバンタイが権利を持っているアニメのカードを作ってほしいなって思ったんです。桐峯君はバンタイにコネがあると以前に言っていたのを思い出したので……」
「わかりました。その辺りも聞いてみます」
フロッコリーか。
俺の以前の記憶が城沢のデビュー作品とフロッコリーに関係があったと言っている。
ほとんど記憶にないが、何かがあるのだろうから良く調べた方が良いかもしれない。
後日談になるが、インディーズのの会社はアトランプロダクションとなり、立花と千原のユニットは魔女企画で活動し、桃井はモアイで活動することになった。
魔女とかモアイとか、もう俺にはよくわからん!
発想が斜め上過ぎるのだ!
そして、フロッコリーとバンタイは業務提携することになった。
さらに、フロッコリーは、ゲーマースのマスコットキャラの声優を探していたらしく、それを城沢が務めることになった。
ユニット解散後もアイドルとして活動することになっていた城沢だが、なぜかやる気をみなぎらせているようで、これで良かったんだと思う。
目からビーーーム!!出ないにゅ……。