第一二三話 お菓子をくれナイト
誤字報告、感想、ブクマ、ポイントなどなど励みになっております
ほんわりと書き続けておりますので、のんびりとお付き合いお願いします。
アイディアも募集中です♪
お菓子をくれナイト
十月三一日の土曜日。
現在、俺たち極東迷路は、セイカモードの録音作業の大詰めを迎えている。
今回のセイカモードは、クリスマスをテーマにしたコンセプトアルバムとなっている。
しかも、完全オフヴォーカルのインストゥルメンタルであり、半分が俺の曲で残りはカヴァー曲なのだ。
そして、木戸のヴァイオリンを中心に楽曲を組み立てている。
それに今回のプロデュースは、セルフプロデュースなのだが、蜜柑が主導して作っているのも特徴だ。
とは言え、国内ではインストゥルメンタルはなぜか売れないので、海外での売り上げを重視して作り上げている。
今回は、木戸のエレキバイオリンのメーカーがアルバム自体のスポンサーとなり製作を要望してきたので、作ることになったが、今後はこのアルバムの売れ行き次第になるだろう。
「これを引っ提げて世界の木戸セイカ様になれるか勝負をするわけだが、どんな気分だ?」
「正直言って逃げ出したいよね。でも、こんな機会を逃しちゃいけないとも思う。えっと、幸福の女神様は前髪しかないだっけ。チャンスはいつもあるわけじゃないんだよね」
「そうだな。今、世界的にデジタル楽器の進化がハイペースで進んでいるんだ。今はまだ木戸さんと同じスタイルは少ないが、もうすぐしたら一気に広がる。今が最後のチャンスかもしれない」
「そうなんだ……。ところで、幸福の女神様って、前髪しかないすごい髪形なんだろうね。女神様なのに悲しいと思うんだ」
「木戸さん、幸福の女神様は前髪しかないんじゃなくて前髪をたらしているんだと思うぞ」
「え、じゃあ、神様パワーがあるのが前髪だけってこと?」
「うーん、よくわからないが、そうなのかもしれないな」
「そうだったの! 知らなかった……」
木戸のこのアホ可愛い感じは何だ……。
なぜか木戸の人気が高いのは、これが原因か。
もっとメディアに出しても良いのかもしれない……。
「静香ちゃんの出番だよ。さっくり録音終わらせちゃおう!」
「はい、蜜柑さんお願いします!」
アルバムの録音は順調に進んでおり、その後に細かい調整をしてから完成となる。
発売は、十二月の上旬に間に合わすつもりだ。
世界同時発売を目指すので、ハイペースで進行するのだろう。
今回は、ライブツアー中から、曲の練習をしていたのに、レコーディングが今頃になるとは本当にスケジュールがいつも甘い俺なんだよな……。
それから、レコーディングは蜜柑たちに任せて、ミストレーベルの企画室に戻る。
最近は年末が近いからなのか、世間が騒がしい。
大きな銀行がまた一つ倒れた。
東大路グループからの救済も視野に入れられたが、どうも政府の方から手出し無用とされたらしい。
俺の以前の記憶にある流れとあまり変わらないが、それでも政府は本気をだして改革を急いでいる様子に見えるので、良い方向に向くことを信じてみよう。
横浜のプロ野球チームが日本シリーズで優勝をした。
東大路グループには、大きな影響はないがハマサンのお膝元での出来事なので、こまかい出費はあるようだ。
それよりも重要な出来事が起きた。
横浜にある二つのプロサッカーチーム、フリューゲル横浜と横浜マリノが合流することが発表された。
フリューゲル横浜の大口スポンサーが降りることになり、クラブの維持が難しくなったそうだ。
今後は、全く新しいチームとして活動するのか、単純に吸収合併として活動するのか、運営会社の横浜マリノパートナーズは、大混乱だそうだ。
この流れは、俺の以前の記憶でも同じなのだが、一つ違うのが横浜マリノのメインスポンサーからハマサンが降りていることだ。
メインスポンサーから降りたと言っても出資は続けているので、無関係ではいられない。
どんな結論になるのか、見守って行こう。
企画室のドアが勢いよく開かれ、舞と美香が魔女っぽいコスプレをして現れた。
「兄上! お菓子をくれないと、いたずらしちゃいます! 具体的には、兄上のお部屋にあるプラモデルの足を全部外しちゃいます!!」
「じゃあ、私は……、兄さんの部屋にあるジオググにドドムの足を付ける!」
「今日はハロウィンだったよな。お菓子は後で買いに行こう。足を外すのは勘弁してほしい。ジオググにドドムの足を付けるのは、罪深い行為なんだ!」
「それではあっくん、ライブハウスに行きますよ。お菓子はその後でお願いします」
ぬっと魔女帽子を被った美鈴も現れて、そのまま皆がお世話になっているライブハウスのフリートに連行されていった。
いつからハロィンが日本で広まったのかわからないが、まだ渋谷でコスプレ軍団が練り歩く時代ではない。
それでも、ハロウィンパーティーをやっているところは、それなりにありフリートでは、コスプレライブが開催されていた。
「おう、桐峯君たちも何かするか?」
「寺津さん、お久しぶりです。今日は付き添いって感じです」
「今日は、リーフビートだけで告知をしていて、シークレットゲストがベルガモットとハニービーなんだよな。うちで育ったやつらが立派になっているのを見ると本当に嬉しい」
「俺も嬉しいです。来年はリーフビートもデビューすると思います」
「そうか。エーデルシュタインもやれば良いのに」
「極東迷路のレコーディングを俺以外のメンバーがやっているので、本当に無理なんですよね」
「エーデルシュタインは、三人が極東迷路のメンバーだからな。また期待しているぞ!」
それから、奥にあるゲスト用の観覧席に入ると、いつもは音響をやっている我藤さんがいた。
「我藤さん、お久しぶりです」
「おう、桐峯君。久しぶり。ベルガモットはよく売れているらしいな」
「おかげさまで調子は良い感じです。来年には、また新しいガールズバンドが予定されているのでよろしくお願いします」
「来年もか。四年連続になるんだな。桐峯君も大変だろうが応援しているぞ」
我藤さんは、長身で長い髪を首のあたりで一つにまとめている男性だ。
普段は寡黙だが、話してみると良い人なのが伝わってくる。
「島さんは?」
島さんと言うのは、照明担当の女性で、フリートは、寺津さん、我藤さん、島さんの三人が中心になって他のスタッフと運営している。
「あいつは、夕方からになる。俺も今は休憩中だ。桐峯君は、のんびりしていくと良い」
「わかりました。のんびりさせてもらいます」
それからライブハウス内の観客の様子を見る。
全体的にハロウィンのダークホラーなイメージの服装を身に着けた女子中高生が多いようだ。
そんな中でもパンクやロックを意識した服装をしている観客が目立つのがライブハウスらしくて良い。
「あっくん、ジョゼのいるイギリスだとどんな感じなんでしょうね」
「あっちはハロウィンの本場なんだろうから、もっとお祭りって感じなのかもしれないな」
「いつか参加してみたいですね」
「そうだな。蜜柑は去年、イギリスでハロウィンを体験しているはずだから、後で様子を聞いてみよう」
「はい、そうしましょう」
それぞれが思うハロウィンのイメージのままに、いろいろなアイテムを身に着けている。
三角帽子はわかる。
角のあるカチューシャやケモミミのカチューシャもありだろう。
眼帯や包帯、ここまではわからなくはない。
だが、ボルモンのお面やスーパー戦隊のお面は、どうなんだろうか。
日本のハロウィンは、こうしておかしな方向へ進んでいくんだろうな。
その後は、ベルガモットのステージの時に呼び出され、なぜかライブハウスの皆と童謡の『故郷』『赤とんぼ』『村祭り』を歌うことになった。
この謎な感じが、ベルガモットなんだよな……。
ライブ後、皆でパンプキンパイを頂いているときにベルガモットのヴォーカルのユイから『故郷』の冒頭の歌詞にある『うさぎ負いし、かの山』を『うさぎ美味しい、かの山』だと、ずっと思っていたと聞かされた。
わかる、すごくわかる、俺がトウモロコシをトウモコロシだとずっと思っていたのと同じだよな。
このことを話すと、なぜかその場にいた全員に渋い顔をされた。
解せぬ……。
ハロウィンの日本での普及は、サンリオ→ディズニー→ハリポタ→各業界が参戦って流れでしょうか。
今じゃバレンタインと経済効果は同じくらいとか、ハロウィン恐ろしや!