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第一二二話 電気式

誤字報告、感想、ブクマ、ポイントなどなど、励みになっています!

ほんわりと書き続けておりますのでのんびりとお付き合いお願いします。

アイディアも募集中です♪

 電気式


 十月一八日の日曜日

 この電気街とも呼ばれる秋葉原と言う街にもうすっかり慣れてしまった。

 以前の俺は、秋葉原へ出向いたことは数えるほどしかなかった。

 気が付いた時には、ネット通販全盛の時代になっており、どうしても秋葉原じゃないと手に入らないと言う品がなかったのが大きい。

 それなのに今生では、月に一度は確実にきているし、毎週どこかできているような気さえする。

 そうして俺は今、秋葉原にあるランティスビルの会議室で、とある音源を桃井さんと聴いている。


「この音源は、どうやって桃井さんのところへきたんですか?」

「サテライトスタジオで放送をしていたときに、『僕が作った曲です。聞いてください!』って書いてあるコピー用紙を掲げている人がいたんです。気になってスタッフさんに取りに行ってもらって、後から聴いたんです」

「それがこれなんですね」

「そうです。悪くなかったからコピー用紙の裏に書かれてあった電話番号へ連絡して、いろいろと聞いていると、どうもカレンちゃんの知り合いらしくて……」

「なるほど、わかりました。俺も彼に会いたかったので助かりました」

「それで桐峯君はどう感じました?」

「うーん、完成度は高いですし、悪くはないと思います。でも、もう少しってところがありますね」

「何が足りないんでしょう……」

「難しいところですが、壁を蹴り破る覚悟ってところですかね」

「わかるようで、難しいですね」


 この音源の持ち主の名は、立花広葉と言う。

 芸名なのは、間違いないようで本名も書かれてあった。

 俺の以前の記憶では、カレンが活躍するバンドのギターリストで音楽プロデューサーとしても活動していた人物になる。


 桃井さんの話によると、今年の春に大学を卒業し、東京で音楽とは関係のない会社に勤めているようだ。

 この音源は、俺の予想になるが、たまたま夏に実家のある中部地方へ帰省していた時に、名古屋でのチャリティーライブで俺たちを見かけ、触発されて作ったのだと思う。

 あのステージ上から俺は、彼と思われる人物を見つけていたが、カレンも見つけていたそうだ。


「アキラさん、桃井さん! 捕獲してきました!」

「あ、え、本物だ……」


 俺を見つけた彼は、予想以上に普通の反応を示した。

 人見知りが激しくて、カレンのスカウトの時に現れなかった人間にしては普通過ぎる。

 会議室の椅子へカレンに無理やり座らされた彼と話し合いを始める。


「初めましてブラウンミュージックの桐峯アキラです」

「あ、はい。立花……、広葉です。よろしくお願いします」


 何となく落ち着かない様子で、周囲をきょろきょろしているが、会話は成立すると思って良いようだ。

 細身で背は高く、頭髪も服装も整っていておかしな人物には見えない。


「じゃあ、早速ですが音源の話からしますね。悪くはないのですがもう少しって印象があります。この先のこととか考えはあるんでしょうか?」

「えっと、ありがとうございます。もう少しなんですね……。この先のことは未定です。思いついて作ったのを桃井さんへ届けるだけしか考えていませんでした」


 彼の作った曲は、優しさの中に激しさが同居するような不思議な感覚のある曲で、クオリティーはかなり高い。

 だが、無理にバンドで演奏することを想定した作りになっているようで、そこが残念に感じる。

 この曲調なら、シンセサイザーなどを使ったデジタルだけを意識した作りの方が良さそうだ。

 それと気になったのは、かなりの高額な機材を使っているようで素人が持ち込んだ音源にしては音質が良すぎる。

 おそらく実家が裕福なのだろうな。


「すぐに稼ぎになるわけではないのですが、ひとまず楽曲を作ってみませんか。ヴォーカルも必要なら紹介します」

「え、その、良いんですか! 僕、いえ私は、女性ヴォーカルの方がイメージが膨らみやすいようで、できれば女性をお願いしたいです」

「わかりました。ブラウンミュージックの訓練生に経験を積めば良い感じになりそうな女性ヴォーカリストの心当たりがあるので、連絡を取ってみますね」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!!」

「アキラさん、大丈夫なんです? 私の知り合いだからって……」

「当てはあるから問題はない。それにチャンスは誰にでも配っているわけじゃないからカレン、安心してくれ。桃井さん井之上さんは今日、どうしています?」

「上の部屋にいると思いますが、呼んできましょうか?」

「お願いします」


 それからしばらくして、井之上さんが現れ、ランテスの預かりと言うことで仮契約となった。

 その後、ブラウンミュージックの養成所に問い合わせ、千原美乃梨がきているかを尋ねる。

 どうやらあちらへいるとのことで、こちらへきてくれることになった。


 千原が到着するまで、待機時間となり、俺は会議室から出て別室で休憩することにした。


 実は、千原のことで美月から相談を受けていたのだ。

 現在高校三年生の千原は、進路を大学にするかヴォーカルの勉強ができる専門学校にするかを迷っているとのことだった。

 その話を聞いて、千原の音源を聴いたのだが、残念ながら覚醒前と言った状態だった。

 今の段階で、ヴォーカルの専門学校へ行ってもブラウンミュージックの養成所とあまり変わらないだろう。

 正直お手上げ状態で、困っていたところに立花の話が舞い込んできた。

 彼とは、初対面だが悪い印象を持たなかったし、カレンが身元保証をしてくれるので、万が一も起こりにくい。

 美月の友人でもある千原を預けるなら、最善とは言えないまでも悪い手ではないと思う。

 それに彼は、アニメやゲームなどのオタク文化に精通しているらしい。

 桃井のよき理解者になってくれるだろう。


 応接室が空いていたので、そこに入りぼんやりと最近のことを振り返る。

 ミックスパイの解散と所属事務所の移籍時期が決まった。

 ブラウンミュージックエージェンシーとの契約は十一月末に終了し、十二月一日からてんくのいる事務所の所属となり、レコード会社も乱キューの所属するレコード会社になるそうだ。

 レギュラーの仕事はもちろんとして、準レギュラーの仕事などは、十二月末までこちらの取り分となり、それ以降はあちらの取り分となる。

 実質は、全ての仕事を十二月末で解除する予定なので、それ以降のこちらとの関係はなくなることになる。


 てんくの所属する事務所では、こちらの所属のままでアイドルユニットの合流だけをすると言う案も出されていたが、てんくから可能なら移籍でお願いしてほしいと言われ、受け入れをすることになったそうだ。

 てんくのこの考えはよくわかる。

 この時点でのてんくは、プロデューサーとしては、未知数な存在で二つの事務所の間を調整しながらプロデュースするのは、大きな負担になると感じたのだろう。


 こちらでは、ミックスパイのメンバー全員と個別面談を行い、移籍の意思を確認していった。

 この面談では、城沢と平氏の二人とも話すことになったのだが、ここで想定外のことが起きた。

 移籍予定のメンバーは、明菜さんとの別れを惜しんだが、芸能界は厳しい世界だと一年も活動していたなら理解できるので、こういうこともあるのだと納得をしてくれた。

 城沢は、舞や美香が通う日輪学園の中等部に通っているので、移籍する方が怖かったようだ。

 残留が告げられ、一安心と言った様子だった。

 メンバーと離れることは、あまり問題とは思っていなかったようで、これからも芸能の仕事ができることを喜んでいた。

 メンバー同士の内情は、あまり良い関係とは言えなかったのかもしれない。


 問題は、平氏で起きた。

 明菜さんのことを過去の遺物としか思っていなかったらしく、常に反感を抱いていたようだ。

 桐峯アキラのプロデュースを受けられると思って、アイドルユニットに参加したが実際は明菜さんのプロデュースとなり、指示は聞くがただそれだけだったらしい。

 そんな感じだったので、新天地を求めて自らの移籍を希望してきた。


 実は、明菜さんはブラウンミュージックのミュージシャンたちからゆるキャラ扱いをされている。

 まだゆるキャラと言う存在が生まれる前だが、その扱いは間違いなくゆるキャラだ。

 なんとなくビルの中でぼんやりとしている明菜さんを見かけると、なぜか皆がほっとするのだ。

 これに魅了された一番の人が、サズナのイズムさんで過去の明菜さんの衣装の中から自分に似合う物を探し、それを模した衣装を身に着けている。

 当然、ラルアンシェルの皆も明菜さんを姐さんと慕っているし、本当に愛されている人だと思う。

 具体的な暴言こそなかったが、面談をしていた全員を怒らせた平氏は、島流しのような扱いで強制的に移籍することが決められた。

 明菜さんも平氏の発言を聞いて、かなり参ってしまったようで、しばらくの間は、大人しくするそうだ。


 そして、十二月を契約上の移行期間などにはしなかった理由がある。

 実は、今年一九九八年十二月に、乱キューのベーシストが暴行事件を起こし、そのまま脱退してしまう。

 上森明菜や桐峯アキラが手掛けたアイドルユニットを奪っておきながら、さらに暴行事件まで起こすことになるのだ。

 乱キューとして活動を続けるのは難しくなるのは予想できる。

 アイドルユニットの活動はどうなるのだろう。

 俺の以前の記憶でのアイドルユニットは、この事件の時には初めからてんくプロデュースとして活動しており、すでに活動実績が一年ほどがあったので、大きな影響を受けなかったのではないだろうか。

 この時間軸では、状況が全く違う。

 伝通が火消しやもみ消しをするかもしれないが、来年の一月には、アメリカに東大路が出資する広告代理業グループが成立する見込みだと洋一郎さんから連絡を受けている。

 それに連動して、伝通包囲網も動き出す予定になっている。

 火消しをするどころか、自分たちも火だるまになるかもしれないのだ。

 さて、関係のないてんくやアイドルユニットの皆には申し訳ないが、どんな燃え広がり方をするのか楽しみでならない……。


「アキラさん、すごく悪い顔をしていますよ。大丈夫ですか?」

「え、カレンか、大丈夫。気にしないでほしい」


 深く思考の中にいたようで、応接室にカレンが入ってきたことに気が付かなかったようだ。


「たまに本当に悪いことを考えていそうな顔をしますよね。何を考えているんですか?」

「ほら、この業界っていろいろ危ないところがあるだろう。皆を守るためにもちょっと報復の方法とか、そういうのを考えていた」

「ああ、ミックスパイのことですか。ちょっとあれはないですね。伝通でしたか。あんなところの広告は全部引き上げちゃったら良いんです」

「少し時間が掛かるかもしれないけど、東大路グループも何か考えているらしいから、その内に天罰が下るんだろうな」

「それじゃ、天罰を楽しみにしています。あ、千原さんがきましたよ」

「わかった」


 それから、会議室に入ると、立花は、すでに千原と交流を始めていた。

 人見知りに思えない積極性だ。

 女性なら人見知りが発動しにくいのかもしれないな。

 カレンの話だと、女癖が悪いというところはないようなので、大丈夫だと思っておこう。


「あ、先輩、お久しぶりです!」

「久しぶりだな。立花さんとの話は聞いたか?」

「二人でしばらくの間、やってみるってことですよね」

「立花さんは、会社に勤めながら、千原は、大学に通いながら音楽の勉強をこのランテスビルでしてもらおうと思っている」

「ありがとうございます! 美月ちゃんがお願いを?」

「まあ、お願いがあったのは否定しないが、千原の実力あってのことだからしっかりやってみてくれ」

「はい、がんばります!」


 そうして立花と千原は、ランテスビルを中心に活動をして行くことになり、二人のユニット名は、立花の希望で電気式魔女楽団となった。

 読みは、エレクトリック・ウィッチ・オーケストラらしい。

 まあ、その……、俺の中に潜む中学二年生の心が、傷みだしそうなネーミングセンスだと思ったが口には出さなかった。

 これは俺も人のことを言えないんだよな……。


今回登場の方のモデルはわかりにくいかもなので、解説を書いておきます。

カレンのモデルの方が所属している妖精帝圀の元ギターリスト、現オンガクプロデューサーの橘尭葉さんがモデルになっています。


この方の情報は、かなり少なくてほぼオリジナルキャラとして扱わせてもらいます。

千原美乃梨のモデルは、ほぼ名前が同じなので物語中の状況を書いておきます。

桐峯君とは桐峯君が高校二年生、千原さんが高校一年生の時、生徒会で一緒になっています。

その後の彼女は、ブラウンミュージックの養成所で歌のトレーニングをしていました。

電気式なんたらのユニット名は、現実世界で橘さんが手がけている電気式華憐音楽集団から取っています。

こいつ誰やねん!って方がいたら解説も書きますので、何かあったらどうぞ♪




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― 新着の感想 ―
[一言] 電気式華憐音楽集団… このユニットを知ったのが彼等が一番関係の深いゲームブランドのタイトルだったので自分の中ではダークな曲のイメージだったのですが、実際は普通の(?)萌え美少女ゲームのボーカ…
[一言] つんくはプロデュースするユニットをアイドル扱いされるのを嫌っていて、モー娘。を始め、本格派のヴォーカルダンスグループをプロデュースしていると言う強い自負がある人ですからね。アイドルになりたい…
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