第百十四話 熱愛報道?
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熱愛報道?
八月十七日の月曜日。
土日にあった福岡のライブが無事に終わり、今日は午後から地元のラジオ局に出演予定となっている。
福岡は、蜜柑の地元なので玉井とカレンの地元である名古屋同様に大きく盛り上がったライブとなった。
広島と松山が、日程の都合で一日しか公演ができなかったのが残念だ。
広島では、テレビ局のスタッフとダンススクールについて話をしてきた。
まだもう少し先になるが、広島出身のダンスユニットが結成される。
その始まりの場所がテレビ局が運営するダンススクールだったと記憶していたのだ。
食い付きは悪くなさそうだったので、開校の準備に入るときは、一報をお願いしておいた。
松山では伊予節について語って来た。
伊予節と言うのは、江戸時代後期に江戸で流行った唄で、当時に流行った伊予染めとともに江戸へ伝わったとされている唄だ。
唄い手によって様々な唄になり、現代の民謡を支える柱の一つだと俺は考えている。
水城加奈が育った土地なだけあって、今後も期待をしたい土地だ。
博多エリアにあるホテルでのんびり出掛ける準備をしていると、マネージャーとしてライブツアーに付き添ってくれている九重さんが訪れた。
「桐峯君、準備ができたら福岡支社におねがいします」
「今日は、直接ラジオ局に行く予定じゃなかったんですか?」
「それが、東京の紀子様からお話があるようです」
「え、紀子さんからですか……。わかりました。行きます」
変装のつもりの伊達メガネを掛けてからホテルから出て福岡支社に入る。
スタッフから事情を聞こうとしたが、一枚のファックスを渡され紀子さんへ連絡するように言われた。
渡されたファックスには、名古屋のライブ会場からタクシーにのる俺と従妹の茜の姿が写された写真が載せられていた。
なぜ、茜との写真があるのかわからないが、事情を聞くために紀子さんへ連絡をする。
「彰君、ファックスは見たかしら?」
「はい。名古屋のライブ会場の外で従妹の茜とタクシーに乗るところの写真のようです」
「ひとまずの決着は付いているのだけど、彰君と茜さんに提案があるから詳細をお話しするわ」
名古屋の初日の後、俺と茜がタクシーに乗る場面を写真週刊誌と契約しているカメラマンが撮影した。
俺たちミストレーベル一同は、恋愛禁止などの若手芸能人にありがちな縛りを全くしていない。
だが、芸能人として一般人より厳しくモラルなどを大切にするようには言っている。
これは恋愛を含む人間同士の心の触れ合いを禁止してしまったなら芸術家としての感性が育たなくなると、俺の口からラジオなどで明言していることでもある。
これがなぜか写真週刊誌などからすると痛恨の方針になるそうで、一般常識の範疇の中、本当に皆が自由に活動してしまっていて、誰と誰が恋愛関係なのか本当にわからない状況を創り出してしまっているそうなのだ。
そんな状況なので中途半端な、報道をしても煙のないところから火を立てることは難しく、まともなネタにならないらしい。
だが、世の中は桐峯アキラ率いるミストレーベルの面々を注目している。
そして、意地でもスクープを取りたくなるのが、この手のカメラマンであり、写真週刊誌だと言うのだ。
そこで、奇跡的に手に入れた一枚が俺と茜の写真であり、写真週刊誌の編集部は歓喜の叫びに包まれたと言う。
確かに思い返すと、俺が年頃の女性と深夜近くにタクシーを使い、二人でどこかへ移動したと言うシチュエーションの記憶はない。
それから数日を掛けて裏付けを取ろうとしたが、女性側の情報が全く上がってこない。
やむを得ず、謎の女性として写真週刊誌に掲載することを決め、ブラウンミュージックに男性が俺であることの確認の問い合わせをしたそうだ。
俺の熱愛報道となれば、当たり前のように紀子さんの案件となり、女性が従妹の茜だとすぐに判明した。
東大路の面々は、俺を婿にすると決めた時、俺の親類縁者を徹底的に調べてあったので、茜のことも見覚えがあったらしい。
ここで突然、従妹を心配して家へ送り、親類と交流を深める桐峯アキラのハートフルな話題に切り替わってしまったのだ。
写真週刊誌の編集長は、平謝りでこの一件は終息するかと思われたのだが、どうせならハートフルな桐峯アキラの話題で記事を出したいと編集長が言い出したそうだ。
ちなみに、写真週刊誌は、どこにでもケンカを売り歩いているわけではなく、ある程度の裏付けや信憑性がないと記事にはできない。
何件も裁判案件を持っていても、基本的に勝てる記事か引き分けになる記事しか取り扱わないらしい。
確かに、裁判で負け続けたならマスコミとしての信頼性が損なわれ、都市伝説を扱う胡散臭いだけの雑誌と同じになってしまう。
そう言う事情があり、写真雑誌としては大負けをするケンカをする直前に、相手から大負けする未来を知らされたことになる。
これは、大きな借りであり、すこしでも借りを返したい気持ちと記事を出したい気持ちがあるようだ。
「……それで、折角だから記事を出してもらっても良いと思うの」
「本当にハートフルな記事なんですよね?」
「私も内容をチェックするから心配はしなくても大丈夫よ」
「わかりました。東大路の方々に迷惑が掛からないのでしたら了承します」
「あそこの出版社は、漫画雑誌も有名だから彰君が欲しがっている声優の仕事や主題歌の仕事も交渉のテーブルに乗せるわね」
「ありがとうございます。本当にそれは助かります」
「実は、茜さんにも了承を取ってほしいのよね。それと写真を見た限りだけど茜さんって芸能人向きなんじゃないの?」
「叔父家族たちは、俺と母親が芸能の仕事をしていることを歓迎しているので、ハートフルな記事だと入念に言えば茜も了承してくれると思います。それと茜が芸能人向きですか……。あまり考えていなかったので少し時間をください」
「名古屋でのチャリティーライブの時に鮫島を向かわせるから、茜さんの事考えておいてね。それと最低でも伊達メガネくらいは掛けなさい」
「はい、いろいろとご迷惑をおかけしました」
「彰君たちは、この手の話題が少なすぎるから、丁度良いと思うわよ。それじゃライブツアーはまだまだ続くのだから体には気を付けるのよ」
そうして、紀子さんとの会話が終わり俺の知らないところで起きていた案件は無事に終息するらしい。
うーん、この写真の俺は伊達メガネをしていないんだよな。
確かに油断をしていたようだ。
今後はもっと気を付けなければならない。
だが、伊達メガネ以外にも変装グッズを手に入れたいな。
何か良い物はないだろうか。
今度、じっくり考えておこう。
それにしても、茜か……。
俺の以前の記憶にある茜は、名古屋の公立大学に進学して薬剤師となる。
それからは、調剤薬局に勤め忙しくも平凡な日々を過ごしていた。
美月が結婚したすぐ後に結婚したはずで、子供は二人いたと思う。
離婚をしたと言う話は聞いたことはなかったので、それなりに満足できる人生を歩んでいたのだと思いたい。
さて、そんな茜を芸能界に誘うなら、どうするべきか。
茜の特徴は、見た目の良さよりも、学業優秀で頭の良い人物と言う印象が強い。
性格は穏やかでのんびりとしている。
音楽の才は、ほぼ皆無で芸術の才能も聞いたことがない。
桐山の元々の家系が芸事とは無縁の頭脳明晰な家系らしいので、正統な桐山家の人物と言って良いのだろう。
ちなみにだが、俺は血統で才能の傾向が分かれるとは思っていない。
だが、代々の家風や親の思考で傾向が出るとは思うので、父方の桐山は学業に優秀、母方の高峯は芸事の才が出やすいのだとは思っている。
とりあえず、茜には東京の大学を勧めてみるかな。
それから極東迷路とエーデルシュタインのメンバーと合流をして、ラジオ局に向かった。
伊達メガネ以外の変装グッズって何があるんでしょう。
帽子くらいしかおもいつかない!