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第一〇七話 父親

誤字報告、感想ありがとうございます。

ぼんやりほんわりと書いておりますのでのんびりお付き合いくださいませ。

 父親


 五月五日の火曜日。

 今日は、とある高級レストランで昼食を頂くことになっている。

 急のことだったのだが、この連休は、ヒデトのことがどうなるかわからなかったので、スケジュールを最低限にしてあった。

 待ち人よりも早く到着したようで、個室でぼんやりと待つ。

 その間に最近の様子を振り返る。


 六月にエーデルシュタイン、七月にハニービーのデビューは確定している。

 それから夏を駆け抜けるようにライブツアーを行い、秋がやって来る。

 そして、ミーサは十一月にシングルでデビューし、十二月にアルバムを出すことに決めた。


 ミーサのデビュー時期は悩みに悩んだ。

 九月までにすでにデビューしているミュージシャンやバンドのシングルとアルバムが多くリリースすることになっている。

 そこに新人であるエーデルシュタインとハニービーもデビューするのだから、共食い状態になるのは覚悟済みだ。

 だがミーサの場合、それ以上に過酷な未来が待っていると俺は考えている。


 今年の十二月に宇多ヒカリがデビューするのだ。

 宇多と同じR&Bをメインとするミーサは、ほぼ確実に比較対象にされるだろう。

 それが嫌なら、もっと早くにデヴューの予定を立ててしまった方が良いと思われるかもしれない。

 だが、俺は、あえて宇多のデヴュー時期に目を付けた。

 正直なところ、宇多の売り出し方には、やりすぎなくらいに手をかけている印象がある。

 今年の一月、宇多ヒカリではない名義で、先行デビューしている。

 十月から単独でのラジオ番組を持つことになり、十二月に宇多ヒカリとして正式にデビューとなるのだ。

 コネを使えば、妨害も可能だったかもしれないが同じレコード会社であり、ブラウンミュージックを支えてくれることになる宇多ヒカリなので、特に干渉もせずに見守っていた。


 だが、あえて言おう!

 ずるい!!


 そして、肝心なミーサの売り出し方だ。

 ミーサのデビューシングルは十月から放送するドラマの主題歌として売り出すことになった。

 十二月に発売するアルバムに収録する曲のいくつかをドラマの挿入歌としても使ってもらう。

 ドラマに使われる曲は、落ち着いた仕上がりにする予定になっている。

 ミーサの類まれな歌声を世の中に印象付けるには、じっくりと聴かせるゴスペル風やスローなR&B風が最適だと考えた。

 ついでに、ミーサも出演できるかどうかも交渉するつもりだ。

 このミーサを押し込むドラマ枠は、東大路が一社提供の冠スポンサーをしている枠なので、多少強引でもやらせてもらおうと思う。

 今までこのドラマ枠を使わなかったのは、なんだかんだと言っても俺たちは新人の集まりであり、あまり事務所やレコード会社、先達の方々と軋轢を生みたくなかったからだ。

 だが、そうもいっていられるほど宇田ヒカリと言う存在は、甘くはないと思っている。

 だが、比較対象として十分に評価はされるだろう。

 比較されると言うことは、世の中にミーサが印象付けられることになる。

 それを狙うことになるわけだ。


 今回の様な、コネのゴリ押しは、あまり使いたいとは思えないが、宇多の陣営もかなりのゴリ押しをしてきているのだからお互い様としておきたい。


 上森明菜プロデュースのアイドルユニット、ミックスパイはセンヤンのアシスタントをしながらラジオ番組も担当している。

 残念ながら、以前の俺の記憶にあるような社会現象と言えるほどの存在になる気配は全くないが、彼女たちなりに良い仕事ができていると思う。

 追加メンバーオーディションの話を製作会社の高橋さんとした結果、夏に開催することが決まった。

 正直なところ、どうなるのか全く予測不可能だ。

 この夏のオーディションでは明菜さんが前面に出ることになり、俺は曲を作るだけとなっている。

 また、てんくのいる乱キュープロデュースでヴォーカリストオーディションをこの五月からスタートしている。

 俺ではアイドルを育てるには力不足と痛感したので、てんくには期待をしている。


 個室のドアがノックされて我に返る。

 ドアが開かれ現れたのは中年の男性だ。

 この人物の名を桐山修と言う。

 そう俺の父親だ。

 どこで何をしていたのか全く分からないが、唐突に日本に帰って来たらしい。


「彰、久しぶりだな」

「父さん、本当に久しぶり。長い間どこにいたの?」


 父親は、個室の椅子に着席し、話を続ける


「えっとだな、ザックリ言うと南北アメリカ、ヨーロッパ、中東にアフリカってとこだ」

「本当にざっくりだね……」


 父親と一緒に入って来たウエイターへ、お任せでランチをお願いする。


「それで、急な帰国だけど、何かあったの?」

「うーん、それがな……」


 父親の話は、こんな話だった。

 父親は、東大路とは全く関係のない大手商社の営業職なのだが、日本から離れた海外に長年いるだけあって社内ではそれなりの立場となっていた。

 そんな海外を渡り歩く父親でも近年のアジア通貨危機の影響は振り切れなかったらしい。

 そこで、海外の支社のいくつかを統合し、海外駐在の社員の一部を引き上げることになったそうだ。

 そうして、父親はやっと帰国できると喜んだのだが、会社側は父親に支社の一つを任せることにしてしまった。

 そこでどこからともなく父親の現状を知った東大路グループが父親に接触したそうだ。

 東大路グループのスカウト担当が言うには現在建て直し中のハマサンの海外事業部を任せたいとのことで、父親もその話を受けたとのことだった。

 もちろん、父親は俺と美鈴、東大路一族の関係は知っているので、これがコネ転職になることは承知している。


 長い話の間に昼食を済ませ、食後のコーヒーを飲みながら話を続ける。


「その……、よかったの?」

「ん、長いこと世話になった会社だったからな。離れるのは正直辛い。でもな、そろそろ日本にしっかり戻らないと母さんが怖い……」

「そっか……。それは東大路の話に乗るしかないね」

「美月が卒業するまでは、横浜で単身赴任で、その後は横浜で母さんとのんびりできる家を買おうと思う」


 おそらく以前の記憶の中の父親は、海外の支社にそのまま残ったのだろう。

 数年後に日本へ帰国することになるのだと思うが、ハマサンにいてくれた方が俺の精神衛生上ありがたい。


「それじゃあ、今の家は?」

「美月もそのうちに彰とは違う形だろうが、芸能人になるのだろう。あの家を実家として残しておくと危ないと思うんだよな」

「それは確かに俺も思う。場所は良いんだけどセキュリティーが甘いんだよな」

「ああ。横浜のそれなりのエリアなら安心もできるだろう」


 今の実家は、良くも悪くも普通の住宅街の中にある。

 美月が本格的に活動を開始したなら、とても今の家では何か起きた時の対応に不安が残る。

 横浜のそれなりのエリアの家を実家とするなら、そちらの方が安心できる。


「わかった。あのエリアの近くに東大路の別邸があるから地元に用事があるならそちらを使うよ。父さんはもう海外には行かないの?」

「海外出張はあるとは思うが、海外転勤はもうない。そういう話でハマサンへの転職の話を受けたからな」

「わかった。美月も来年は大学だし、これからは夫婦水入らずだね」

「まあな。でだ、お前、どんだけ儲けてんだ?」

「それは……、何というべきか、好きなことをやっていたら金になったって言うか……」

「去年の年収だけで軽く俺の年収の数倍だぞ。税金対策もしっかり考えておけよ」


 税金対策は、全て東大路任せなんだよな。

 何か考えるべきか。

 それから、俺の音楽の話と父親の海外の話を語らい合い、時間は過ぎて行った。



アキラくんのお父さんのこと忘れてました……。

ハマサンの偉い人になったようです。

この世界のモーニングな娘さんたちは、どうなることか……。

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