第一〇四話 フローな人たち
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今回のバンドは、本来の歴史よりも少し早めの頭状花もです。
フローな人たち
四月十八日土曜日
今日は、スカウトで探し当てたバンドのメンバーたちと会うために会議室にいる。
月曜日にヒロトさんからヒデトとユニットメンバーの人間ドックに関する話が会議で無事に通ったと連絡を受けた。
ここからは基本的に現場の方々とヒロトさんたちとのやり取りになるので、七瀬さんに現場の方々の顔合わせをしてもらって一区切りとなる。
残念ながらヒデトの死因が唐突な自殺と言う懸念までは拭い去れないし、それこそ一日中を見張っていないと止めることもできない。
やれることを考えながらになるが五月二日の記憶の中にある彼の命日まで見守り、それ以降は手を引くことになりそうだ。
ヒデトの情報を思い出していると彼は、チャリティー活動にも熱心だったことを思い出した。
彼自身は、表立って活動することを売名行為になると嫌っていたようだが、俺自身は彼とは切り離してチャリティーのことも考えて行った方が良いと思い始めている。
世の中には、誰かが真剣に取り組まなければ動かない問題は、いくらでもある。
そんな問題をある程度の知名度がある人物が関わることで、注目度が上がり呼び水になるのもまた事実なのだ。
何をするべきかは全く考えはないが、これからこの問題にも向き合っていきたい。
大学では、履修登録が無事に終わりいよいよ本格的に講義が始まる。
楽しみな講義はいくつかあるが、手を抜けるところはしっかりと抜いていかなければ身が持たない。
午前中は全ての時間を埋めて午後は余り遅くならないように時間割を組んだ。
大学生らしく、レポートだけ提出したら単位が取れる講義や出欠確認をしない講義なども調べたのでそういう時間に現代文芸部へ行くつもりだ。
実際、一度顔をしっかりだして、文章の書き方や構成のことを聞いてみると、いくつか本を渡されて、まずはこれを読んで基礎的な語句や用語などを知ってからということになった。
確かに基礎的なこともわからずに、知りたいことだけを聞くのは都合が良すぎるので、渡された本をしっかり読むつもりだ。
ミストレーベルでは、俺一人で皆のスケジュールを管理することに限界がきており、安定期に入ったミュージシャンのスケジュールは、事務所に任せることにした。
とは言っても、プロデューサーの肩書を捨てたわけではないので、最終決定の前に確認だけはしている。
夏のライブのスケジュールも複雑になって来ており、こちらも事務所に任せることにした。
事務所としてはハニービーとエーデルシュタインを夏のライブのゲストに使いたいそうで、七月末までにデビューするように迫られている。
ハニービーは、いつでも問題ないのだが、エーデルシュタインが安定しない。
だからと言って、実力があるのに先延ばしもできないのでエーデルシュタインのデビューを六月中旬にし、ハニービーは七月中旬とするつもりだ。
エーデルシュタインが先になるのは、ゴシックメタルバンドを真夏に聞きたいかと問われたなら否と俺なら思うので、こうするしかないと考えた結果だ。
曲は、十分にあるので、何とかなるだろう。
他にも各ミュージシャン用の曲を書き続ける毎日だが充実はしている。
そんな中、鮭川さんに探してもらっていたバンドが見つかったと連絡を受けたのだ。
今回探してもらっていたバンドのメジャーデビューは二〇〇〇年代に入ってからになるのだが、活動は九十年代半ばからしていた記憶がある。
デビュー当時のメンバーが揃うのが今頃だった記憶もあり、去年の秋ごろから探してもらっていた。
今の時点では、正直なところ、そこまで魅力的なバンドだとは思えないと鮭川さんから報告を受けている。
特徴的なのは、ツインヴォーカルであることくらいで、それ以外は本当に特筆するところがないらしい。
そのバンドは後にメジャーな曲からアニソンまで幅広く手掛けるようになり、海外でも活躍するバンドとなるフローズと言うバンドだ。
このころのフローズの音楽性は、いわゆるメロコアになり、ここで養われた感性が、今後も彼らの音楽性の節々に出ていたことは覚えている。
ここから数年のインディーズ活動の時代も無駄になるわけではなかったのだろう。
ドアがノックされ、七瀬さんと今日の面談に同席してもらう二人が入ってきた。
「桐峯君、ラルアンシエルのハイトさんとテツオさんをお連れしました」
「ありがとうございます。ハイトさん、テツオさん今日はお願いします」
「こちらこそいろいろと気を配ってくれていて本当にありがたいと思っているよ」
「今日は、わざわざすいません」
ハイトさんは、ヨキシと同じで、年齢不詳の綺麗なおっさんだ。
この顔で、あの綺麗な歌を歌うのだから人気が出るのも当然なのだろう。
「俺たちが役に立つのなら、しっかりやらせてもらう。桐峯君、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
テツオさんは、年齢通りと言う雰囲気だが、ロックミュージシャンを全身から表現しているような人だ。
この人のベースなら、バンドメンバーも安心してプレーに専念できそうな雰囲気がある。
どちらも二〇二〇年でも立場を確立している人物なので、十分な気迫を感じる。
ラルアンシエルの所属しているベンチャークルーレーベルには、サズナや明菜さんを送り込んでいて、あちらでの評判は良いと聞いている。
この二人を呼んだのは、フローズをどう扱うかを考えた結果、ラルアンシエルに任せることに決めたからだ。
すでにフローズのことは二人に話してあり、あとは面談だけとなっている。
九重さんがドアをノックして、フローズの五人を連れて入ってきた。
まずは着席してもらい、話し合いの体制を整える。
確かフローズのメンバーは、俺よりも一つか二つ年上だった気がする。
服装は、一応気を使っているようでそれなりに整えて来てくれたようだ。
「今日は、こちらの呼びかけに応えて頂いてありがとうございます。僕が桐峯アキラです。こちらのお二人はラルアンシエルのハイトさんとテツオさんです」
「声をかけて頂いてありがとうございます。リーダーのテイクです。担当はギターになります」
確かフローズは、二〇〇〇年代後半に、リーダーの持ち回り制を始めるはずだが、それまではテイクさんがリーダーだったようで、テイクさんが代表で話を進めるようだ。
それから、メンバーの紹介を聞いていく。
ゴシさんとケイタさんがヴォーカルで、ベースがゴトさん、ドラムがイワキさんと言うそうだ。
フローズ自体は、注目していたが各メンバーのことまで把握していなかったので、演奏のスタイルも聞くことにした。
基本はゴシさんがメインヴォーカルでケイタさんがサブヴォーカルになりギターを弾くことも多いらしい。
だが、ツインヴォーカルを売りにしているだけあって、臨機応変に対応しているそうだ。
「まず、実際にライブハウスでフローズの皆さんの音を直接聞いた者の意見をお伝えします。率直に言って特に光る物はないと感じたそうです。僕もライブハウスで販売されていた音源を聴いたのですが、残念ながら同じ意見でした」
「……え、それなら何で俺たちは呼ばれたのでしょう?」
「僕には、皆さんが成長の余地が十分にあると感じたからなんです。いまやっているメロコア系の音も良いと思いますが、もっと幅のある音楽にチャレンジしてほしいと考えています」
「幅ですか……」
「今日、ラルアンシエルのハイトさんとテツオさんをお呼びしたのは、そのことに関わります。このままインディーズの活動をしつつ、ラルアンシエルのスタッフとして働いてみませんか?」
「えっと、インディーズの活動は継続で、幅を広げるためにラルアンシエルさんのスタッフとしても活動するということでしょうか?」
「もちろん、インディーズの活動にブラウンミュージックから支援をしますし、学生の方もいるようですからひとまずはアルバイトスタッフとしてこちらで活動するのををおすすめしたいです」
「良い話に感じます。あえてデメリットがあるとしたなら何になるのかお答えはしてもらえますか?」
「そうですね……。成長に期待ができるからといって、いつまでも待てるわけではありません。大学卒業後二年以内までにメジャーデビューできるレベルまでになってもらいます。それまでは他の事務所やレコード会社との接触は禁止とさせてもらいます。後はスタッフとして動いてもらいますので、のんびりラルアンシエルの音楽を堪能できるとはかぎらないですね」
「なるほど、納得のできる内容です。音楽の道で生きると決めたならデメリットはあまり大きくないように感じます。メンバーのうち四人が同じ学年ですので契約の更新時期を皆の卒業時期にしてもらえますか?」
「それくらいなら大丈夫です。音楽の道で生きると決めるのにも覚悟がいりますからね」
「それでは、よろしくお願いします」
大まかな内容は合意できたが細かい部分も話し合い、しっかりと理解し合えたと思う。
これでフローズがこちらに入ったと思って良いだろう。
テツオさんが率先して、彼らに話しかける。
「じゃあ、とりあえず、俺たちのレーベルの部屋に行くか?」
「はい、ハイトさん、テツオさんよろしくお願いします」
「桐峯君、彼らは、うちのレーベルで預かるけど、何か注文はあるかな?」
「ライブをうちのガールズバンドと組んでもらいたいので、そこだけは随時の打ち合わせお願いします」
「了解。それじゃあ、行こう」
フローズとラルアンシエルの二人が退室していき、一息が付けた。
フローズはほしいバンドだったが、あえて未成熟なバンドを用意したかった。
この先もガールズバンド企画は続くようなので、彼女たちを見てくれるバンドがしばらくの間いなくなりそうだったのだ。
フローズなら、インディーズ活動が長くなっても不自然ではないので丁度良かった。