第一〇二話 望む未来に向けて
誤字報告、ブックマーク、ポイントありがとうございます。
ぼんやりとしか書けませんがよろしくおねがいします!
この頃のドラッカーさんって存命だったみたいですね。
望む未来に向けて
四月八日水曜日
今週の月曜日からサークル勧誘が始まっており、大学内は、ちょっとしたお祭りモードになっている。
探り探りだが、必須科目を中心に講義を受けているが、今週は講義内容の説明がほとんどだ。
朝の大学内を美鈴と歩きながら話す。
「スー、講義の方は、どうだ?」
「幾つか興味がそそる講義はあります。特に組織管理の話は面白そうです」
「組織管理と言えば、ドラッカーのマネージングでも題材にするのかもしれないな。あれは、俺の見解だが、特に新しい概念などではなく、今まであった考え方で有効な物を整理したように感じる」
「ドラッカーですか。覚えておきます」
「ところで、美鈴はサークルやらに入るのか?」
「政治家や経営者を志す学生が集まっているらしい政治経済研究会と言うところに玉井君と一緒に入ってみようかと思っています。大学の後は、基本的にお祖父さまの秘書的なお仕事がありますので、あまり出席できませんが人脈造りはした方が良いと判断してみました」
「玉井と可能な限り、一緒にいるんだぞ。大学のサークルやらは、危険なところもあるからな」
「はい。十分に気を付けるつもりです。あっくんは、どこかのサークルなどには入らないのですか?」
「今更普通の音楽系に入っても純粋に楽しめる気がしないんだよな。それでも、どこかには入りたいから良さげなところを探している段階だな」
「人脈造りのためにも、どこかへ入った方が良いのでしょうね」
「そうなんだよな。仕事の何かに結びつきそうで、少し変わったところが良い」
「きっとどこかに良いところがありますよ」
「そうだと良いんだけどな」
それから、いくつか美鈴と情報交換をして一限目の講義に別れて向かって行った。
昼になり、牡鹿たち史学科の交流を持った面々とカフェテリアで集まっている。
何人かの先輩に連絡をとったところ、生徒会で一緒だった常ちゃんさんが、文学部国文学科にいることがわかり、史学科の友人を紹介してくれることになったのだ。
史学科も文学部なので、必須科目などで一緒になった人物なのだろう。
「桐山君、お久しぶり! 大活躍しているみたいだよね」
「常ちゃんさん、お久しぶりです。仕事は大変ですが、何とかやってます。それでこちらの方が?」
「うん。史学科二年の大脇恵ちゃんだよ。恵ちゃんは教職課程もとっているから桐山君たちに丁度良いと思ったんだ」
「桐山彰です。お時間を取って頂きありがとうございます」
「初めまして。本物の桐峯アキラさんに会えるって聞いて来たんだけど、本当だったんだね。気軽に恵先輩って呼んでね」
「はい、できれば学内では、桐山と呼んでほしいです。桐峯は芸名なんですよね」
「ああ、公私を分けるって感じなのかな。改めて桐山君、よろしくね」
「ありがとうございます。それじゃあ早速、履修のことなんです」
「うんうん、かなり困るよね。先輩にSOSを出すのは、正解だと思うよ」
それから、恵先輩から単位の取りやすい科目や一緒に取ると相性の良い科目、教職課程と絡んでいる科目など、あれこれと教わりながら履修登録の原案を作って行った。
恵先輩は、黒髪のポニーテールで小柄だが、勝気で元気な娘さんに見える。
何かスポーツをしているのが似合いそうな雰囲気があり、高校時代は、弓道をしていたそうで、なるほど、確かに良く似合いそうだと感じた。
教職課程は、取り方によっては学年を超えて講義にでることもあるので、恵先輩とは、今後も長い付き合いになりそうだ。
恵先輩のおかげでほとんどの時間割が決まり、後は微調整をするだけになった。
面倒見が良いのか、頼りになる先輩だと思えた。
それから午後の講義を受け、帰宅の準備に入ったところで、ヒロトさんから連絡が来た。
今日は、高校野球の決勝戦があり、俺がヒロトさんたちに提示した未来視の結果が出る日でもあった。
予定通りに横浜学園高校が坂松大輔選手の大活躍で、優勝したそうで、これから会えないかとの話だ。
場所は、ヒロトさんが用意してくれるそうで、このままそちらに向かうことにする。
何かトラブルが起きる可能性もなくはないので、七瀬さんに一応の連絡をしてから、指定されたレストランに向かう。
しばらく移動して、指定されたレストランに入ると、ヒロトさんとイネさんは、すでに来ているそうで、個室に案内された。
個室は、ある程度の防音がされる作りのようで、安心して密会ができるようだ。
「お久しぶりです。高校野球の結果で、未来視の件、納得してもらえましたか?」
「お久しぶりです。桐峯君のことは、ある程度の信用はしていましたが、ことがことですので慎重にさせてもらいました。高校野球の結果が当たったことで、全面的に信用することにします」
「お久しぶり。僕もヒロト君と同じ考えだね。桐峯君のことは信じるに値する人物だと思っていたが、今回のことで確信したよ」
「ありがとうございます」
テーブルに着き、適当に注文した飲み物が来てから本題に入る。
「それで、五月一日のテレビ出演は、ブラウンミュージックのバックチークに譲って頂けましたが、五月一日と二日のヒデトさんたちのスケジュールは、どんな感じでしょうか?」
「今のところは、具体的なスケジュールは入っていないですね。ですが兄は、時間があれば楽曲製作をしたい人なので、このままいけばスタジオに籠ることになりそうです」
事前に用意してあった二人分の企画書をカバンの中から取り出し、ヒロトさんとイネさんに手渡す。
「これは、一応安全策を考えての企画書になります。これなら、二日間のヒデトさんを無理なく拘束できると考えてみました」
「なるほど、この手は確かに使えますね……」
二人に渡したのは、ヒデトとユニットメンバーの人間ドックの企画だ。
精密検査をすることにして、一泊二日の入院をしてもらう。
それだけで二日間を終わらすのももったいないので、カメラクルーを入れて、密着映像を撮ってもらう。
撮り終えた映像は、俺たちが持っていても使い道がないので、ヒロトさんの方で、何らかのテレビの企画で使うか、ミュージックビデオの中で使ってもらえば良いと思っている。
万が一、何かしらの異常が見つかったなら、映像はなかったことにしてしまえば良い。
病院は、東大路の関連病院で、カメラクルーもこちらの者を使うことになるが、それくらいは割り切ってもらうつもりだ。
イネさんも企画書に目を通し、頷いている。
「確かにこれなら、ヒデト君を無理なく連れ出せるね。東大路に迷惑を掛けてしまうが、大丈夫なのかい?」
「これくらいの迷惑は、問題にならないくらいの仕事をしているつもりですので、大丈夫です」
「わかった。前向きに検討しよう。ヒロト君もそれで良いよね?」
「はい。この方法なら、問題はありません」
頼んだ飲み物を少し飲み、次の懸念を話し始める。
「それでヒデトさんの今後のことなんです。僕の未来視では、事故なのか自殺なのかがわからないのです。何か保険になるようなことはないかと考えていたのですが、未来視の中で、ヒデトさんの亡骸の第一発見者が恋人の方だったようなんです。極端ですが、ヒデトさんに結婚をしてもらうとか、そういうことは無理でしょうか?」
「うーん、兄には確かに恋人がいますし、それなりの時間の付き合いがあるようです。結婚をして家庭を持てば、事故か自殺かわかりませんが、安易な行動は慎むでしょう。それでも、こちらから結婚を促すのは簡単ではないでしょうね」
「それとなく僕からヒデト君に結婚についてどう思っているかを聞いておこう。結婚じゃなくても、何かしらのことで安易な行動を慎むようにしてもらえば良いのだから、そちらについても考えておくよ」
「わかりました。結婚は複雑な事情も絡むでしょうから、僕からもまたなにか考えておきます」
「桐峯君が考えてくれた人間ドックの企画は、誰の損にもならないし、映像素材が手に入るのだから、うちとしてはありがたいばかりです。すぐに会議で決めますので。数日の時間をください」
「はい。よろしくお願いします」
それから少し雑談をして、この秘密の会議は終了した。
雑談の中で、ヒロトさんからエーデルシュタインの話題が出たのは驚いた。
今のところは、桐峯アキラプロデュースのデビュー前の新人バンドと言う情報だけらしく、俺がドラムを叩いていることやベーシストの変更などは伝わっていないようで少し安心した。
柴田には悪いが、ベーシストが梶原になったことで、全体の音のレベルが数段上がっている。
まだ、梶原に変わってからのライブはしていないので、どんなライブになるのか楽しみでならない。
この日は、七瀬さんに密会が無事に終了したことを伝え、そのまま帰宅した。