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第一〇話 軽音部

 軽音部


 四月一〇日の月曜日となり、通常授業が始まった。

 昨日の日曜日は、しっかり秘密ノートの作成と録音作業に没頭したが、まだまだこの先は、長いと実感するばかりだった。


 通常授業が始まったとはいえ、初回の授業は、担当教師の自己紹介やどんな科目を勉強するかの説明、教科書の冒頭を少し触るという程度と言う内容がほとんどのようだ。

 そんな流れであっという間に昼休みとなった。

 高校に入学して一週間もたてば、俺や大江に矢沢が声を掛けたクラスメイトでグループが固まってきている。

 そんな彼らに、昼食は、別の場所で摂ると告げて、第四ピアノ室に向かう。


 美鈴はすでに第四ピアノ室におり、待たせてしまったようだ。


「遅れたかな」

「スーも来たばかりなので、問題無しなのです。もし、事前に遅れるのがわかっているときは、お互いに、ポケベルで連絡を取りましょう」

 今日は、初めからスーモードのようだな。


「ああ、そうしよう。もし、どうにも連絡が取れない時は、素直に後で事情報告ってことにしておこう」

「はい、それが良いと思います。早速、頂きましょう」

 目の前には、どうみても三段重ねの重箱がある……。


「料理人さんが、どれくらいの量が必要になるのか、わからないというお話でしたので、重箱に詰めてもらいました。広げますね」

 重箱の一番上は、予想外というべきか、良くありがちな弁当メニューが詰まっていた。

 どうやら東大路家の料理人は、常識人らしい。


 二段目には、塩ゴマの振りかけられている俵のおにぎりが、詰まっていた。

 二人で食べるのには、少し多いが、理解はできる。

 三段目には、フルーツ各種盛り合わせが詰まっていた。

 いくつか、高級品に分類されるフルーツがあるが、気にしてはいけないところだろう。

 まあ、うん、総合的に見ると、少しずれている感じもしなくはないが、常識の域からは、大きく離れていないだろう。


「早速いただきましょう」


 美鈴は、重箱と揃いの取り皿に、おかずと俵おにぎりを載せて、その取り皿と箸を俺に渡してくれた。


「ありがとう。頂きます」


 おかずは、見た目こそ、弁当メニューだが、口に入れると、全く別の料理のように感じてしまうほどに、おいしい!

 昼休みに入った時には、かなりの空腹状態だったので、次から次に、口に入れていく。


 俵おにぎりは、さすがに多かったようで、少し残したが、おかずとフルーツは完食して、昼食を終えた。

「うまかった。スーありがとうな。それと料理人さんにも感謝を伝えておいてくれ」

「はい、量の調整も、必要のようですし、ちゃんと伝えておきますね」


 それから、美鈴は、ふうとうを取り出し、俺に渡してきた。


「これが、東大路グループの資料になります。リクルート用の物で十分とのことでしたが、もう少し詳しい物も、入れておきました」

「おお、助かる。これで東大路のお祖父さまと対決する準備ができる」

「対決ですか。なにをするのです?」

「確か、東大路グループは、ビデオテープにCDプレイヤーやらを作っていたよな」

「はい、東大路グループの本来の主力は家電商品ですから、そういう品も取り扱っています。ですが、現在は、精密機器に関わる品を作るのを主力になっていますね」


 東大路グループは、元々、町工場に現れた一人の天才が作り上げたグループで、ラジオから始まった町工場が、電気炊飯器、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、白黒テレビなどを製造するまでになり、積極的に普及したことで拡大したグループだ。

 その人物を初代として、話に上がっている美鈴の祖父さまは、二代目に当たる人物となる。

 この祖父さまも恐ろしい人物で、カラーテレビの製造と普及を積極的に行った人物だ。さらに、様々な分野に手を広げて、成功を治めた実績もある。


 この時代の東大路グループは、精密機器の制御系統を担う電子基板の製造から、それらを使った製品の開発に力を入れていたはずだ。

 また、海外での活動も、積極的だったが、日本経済の低迷のあおりもしっかりと受けていて、国内の中枢では、新たな技術開発を主にしながら、重工業へのアプローチを模索し始めていた頃だった記憶がある。


 グループ各社としては、家庭用電化製品、コンピュータなどの情報処理機器、業務用通信機器などに合わせて、出版業界や芸能界への出資や活動もあった。


「スーは、DVDってのを知っているか?」

「確か、次世代記録ディスクとか、現在は、まだ販売向け商品の開発中の品ですよね。でも、あっくんが、なんで、そんな品のことを、しっているのですか?」

「スーの眼に狂いはなかったってことで、今は納得しておいてくれ。俺も東大路グループで、DVDの可能性をひきだせるのか、考えてみたい」


 スーは、はっとしたような顔をして、すぐに神妙な顔となった。

「わかりました。私は、間違っていなかったということですね」

「そうだ、スーは、間違っていない。うまくやってみせるからな」

 とにかく、美鈴は、納得してくれたようなので、後は、俺が考えるだけか。


「あ、それと、お祖父さまの予定ですが、今週の日曜日なら、すぐに空けられるそうなのですが、どうでしょう?」

「少し早すぎる気もするが、面倒なことは、速めにやっておいた方が良いか。日曜日の何時にどこへ行けばよい?」

「午前十時頃に、あっくんのお家に、お迎えに行きます。お家の場所は、把握済みですので、ご安心を!」

 むしろ、ご安心できないんだが、言ってもしょうがないんだろうな……。


「わかった。服装の指定や、用意した方が良い物は、あったりするか?」

「普通の服でもよいですし、学校の制服でも良いと思います。後は、もしかしたら、音楽関係の無茶を言われるかもしれないので、心に停めておいてください」

「わかった。初対面だし、制服にしておく。音楽関係の無茶か。スーのクラシックピアノほどじゃないが、ジャズピアノなら、なんとかやってみる」


「はい、お願いします」

「了解した。それじゃあ、そろそろ教室に戻るな」

「あっくん、お先にどうぞ」


 そうして、教室に戻り、本日の授業が終わるのを、大人しく待った。


 ホームルームが終わり、早速、部活見学に出かける。


 初日は、フォークソング部と軽音部、どちらにするか、迷ったが、初日は、軽音楽部に行くことにした。

 フォークソング部の方は、いつでも問題なさそうだが、軽音部は、楽器の都合があるので、早い者勝ちとまではいわないまでも、急いだほうが良いと判断した。


 部活見学を一緒に行こうと話していた大江と矢沢には、明日、フォークソング部に行こうと言ってあるので、問題ない。


 軽音楽部の練習室となっている第二音楽室の前に行くと、一年生が、押しかけていた。

 初日は、避けた方がよかったのか?


 適当に、群れから離れて待っていると、部活紹介の時に少し話していた部長が現れた。


「はい、軽音部部長の滝口です。一年生の皆さん、今から、第二音楽室を空けるけど、中に入ったら、まずは着席して行ってね」


 学内見学の時に、見たこの部屋の中は、階段教室になっていたはずだから、どこでもよいから座れば良さそうだな。


 部長の滝口先輩が、鍵を開けて、一年生たちは、大人しく入って行き、俺もそれに続いて、第二音楽室に入り、適当に着席した。


「もう少し一年生が来るかもしれないから、俺たちがセッティングをする様子でも見ていてくれ」


 滝口先輩と軽音楽部の先輩たちが、隣接する倉庫からアンプやドラムセットを運んで、セッティングしていく。

 一年の時から、これをやっていたなら、てぎわもよくなるわけか。

 部活紹介の時の軽音部の様子の中で、一番の好感を持てたのが、実は、セッティングだったんだよな。


 滝口先輩たちが、セッティングしている最中も、一年生は、次から次に入室してくる。


 今の時点でもそれなりの人数が集まってきている。初日の見学者は、特に多いとしても、最終的に何人になるんだろうか……。


 そうこうしている内に、滝口先輩たちのセッティングが終わり、後は音を調整するだけになったようだ。

 マイクテストだけをして、滝口先輩が話し出す。

「さて、一年生の諸君。この場に集まってくれたことを、感謝する。本当にありがとう。まずは、見学希望者と早速の入部希望者で分かれてほしい。座席の前方に入部希望者、後方に見学者で頼む」


 滝口先輩の指示道理に、俺は前方に移動する。

 全体としては、三十人ほどが、入部希望者と言った様子だな。


「移動は完了したようだな。ここからは、入部希望者に向けて話させてもらう。折角この場に来てくれたのに、残念な話をしなければならない。軽音楽部は、お互いに切磋琢磨する部活で、一方的に先輩から後輩へ、教えるということをしない。楽器やボーカルテクニックを教えてもらいたくて入部を希望する者たちは、入部を許可できない。本当に申し訳ない。俺たちは、この第二音楽室で各バンドが週に一度練習する予定を組むのが精一杯なんだ。代々の軽音楽部の先輩たちが決断して来た辛い伝統でもある。わかってほしい。それと軽音部とフォークソング部は、交流がある。ギターやボーカルのテクニックを覚えたいなら、あちらでなら、受け入れてもらえるはずだ。それでは、退室をお願いする」


 なるほど、そんな方法で、部活を維持してきたのか。

 音楽室や楽器を限られた資源だと考えたなら、こういう決断も必要となる良い例だな。覚えておこう。


 半分以上の生徒が抜けて、十五人も残っていない。


「残った諸君。まずは、名簿を回すから、そこに、クラス、名前、担当したいパート、備考には、担当したいパート以外にできるパートがあれば、書いておいてほしい。他にも何か、必要だと思うことが会ったら、書いておいてくれ。それと、もし、演奏できるとは言えないレベルなのに、この場に残っている者がいても、この後、バンドを組んでもらう時の参考にするために軽いオーディションをやるから、どれくらいの腕があるかはすぐにわかる。自信がないなら、今の内に、退室をしてほしい。少し強がるのも悪い事じゃないと俺は思うから、ここで強がったことは、気にしなくてよいからな」

 さらに、数人が抜けて、十人ほどとなった。

 厳しい部活だな……。


 名簿が来たので、クラス、名前を書く。担当したいパートは、ピアノとアコギとドラムで迷うところだが、ピアノは、作曲と美鈴と遊ぶ時に弾くからここで弾く必要はない。アコギは、フォークソング部でやるつもりだから、あえてここでやる必要はないな。ここはドラムと書くべきだな。

 備考には、ピアノ、アコースティックギター、エレキギター、トランペットと書いておこう。他の楽器は、あえて使えることを伝える必要もないだろう。


 次の生徒へ名簿を渡し、滝口先輩たちの演奏を眺める。


 このバンドが、一番上手いことになっているのだろうな。ボーカルの先輩は、高音まで出ているし、ギターとベースも悪くはない。ドラムは、俺の担当楽器だと思ってしまうと厳しく見てしまうが、高校生のレベルとしては上出来だな。


 音楽室のドアが開き、数人の生徒たちが入ってきたが、どうも一年生ではない様子だ。

 退室した一年生たちが座っていた最前列辺りに入ってきた先輩たちは座り、一年生が書き終えた名簿が、そこで止められた。

 二年生か三年生が、一年生の様子を見に来たというところだな。


 滝口先輩の演奏が終わり、そこへ、名簿が渡る。


 再び滝口先輩が話し始めた。

「最後まで残った諸君、軽音楽部へようこそと言いたいところだが、何かよくわからないことを書いている生徒がいるようだ。お仕置きが必要か、俺たちは、奇跡を見られるか、はっきりさせてもらおうと思う。一年二組、桐山彰、希望はドラムで、できる楽器が、ピアノ、アコースティックギター、エレキギター、トランペット、ちょっと盛りすぎじゃないかな?」

 立ち上がって、対決な感じにした方が、滝口先輩は、喜んでくれるだろう。滝口先輩は、ちょっと自己演出が好きな人物っぽく感じるんだよな。


 席から、勢いよく立ち上がる。

「一年二組、桐山彰です。担当したいパートは、ドラム、演奏できる楽器は、ピアノ、アコースティックギター、エレキギター、トランペットです。間違いありません!」

「そうか、ここには、トランペットはないが、アコギの代わりに、エレアコならある。まずは、エレアコからやってもらおうか」

「どんな演奏が希望でしょう?」

「弾き語りでも、アルペジオで流しても、かまわない。とにかく、一曲できるかが問題だ」

「はい、じゃあ、弾き語りをします」

 あ、弾き語りをするということは、ボーカルも入れておいた方が良かったのか。

 まあ、良いだろう。


 先輩が、どこからともなく持ってきた、エレアコ、いわゆる、アンプにつなげるアコースティックギターを、手にしてストラップを肩に掛ける。

 折角マイクがあるので、使わせてもらおう。

「ブルーヒーツの『万のバイオリン』をやります」

 息を思い切り吸ってから、足でカウントをして、ギターを軽く、スクロールする。

 あえて、はじまりは、半テンポで、緩く流し、一気に通常の速度に上げて、そこからは、スクロールをかき鳴らす。

 唄ももちろん、初めは響くように緩やかに歌い、テンポを上げてからは、無理のない程度に、前のめりに歌う。


 そうして、駆け上がるように、やり切った。


「……、えっとだな。アコギは、合格、それに、書いていないがボーカルもできるんだな」

「ハァハァ、……歌も好きですから」

 少し緊張をしたのか、息が上がってしまったな。


「早速で悪いが、次はエレキギターをやってもらおうか」

「わかりました。でも、一曲となると、バンドがほしいんですけど、それか、指定はありますか?」

「うーん、確かに、エレキギターで一曲ってなると、確かにバンドがほしいか」

「その、オーディションみたいなことをするとか、話していましたよね。その時は、どうする予定だったんですか?」

「ああ、コード引きで、一曲分できれば、合格にしていた」

「それなら、アコギで、弾き終えたんですから、合格と同じじゃないですか?」

「確かに……、うーん、でも、君の強気な感じ、俺、気に入ったんだよなー、何かやってもらいたいなー」


 俺も滝口先輩のこの感じ、嫌いじゃないな。

 あれなら、この世代の高校生バンドなら、できるかもしれない。

「ピストルスの『アナーキー』は、演奏できますか?」

「ああ、その曲は、皆でやったことがある」

 滝口先輩がメンバーを見渡すと、皆が頷いている。


「それじゃ、『アナーキー』お願いします」


 特徴的な連打から始まる曲で、ドラムの先輩のカウントに合わせて、エレキギターをたたくように弾く。

 この曲は、パンクの基本中の基本を詰め合わせたような曲で、演奏のできる世代が、とびとびでいる曲らしい。

 おそらく、何年に一度か、有名バンドが、カバーをしているのだろう。

 何も考えないで、指が動いていくくらいに、わかりやすい曲だ。


 テンポを倍にしたりして、演奏すると面白さ倍増なんだけどな。


 曲自体が短い時間で終わるので、あっという間に終わってしまった。


 久しぶりのバンドは、やはり良い物だな。


「しっかり弾いていることを確認した。エレキギターも問題無しだな。次は、ピアノにするか」

「ピアノのリクエストは、何かあります?」

「うーん、今の軽音には、ピアノやキーボードがいないんだよ。だから、ピアノがあってこそ、盛り上がる曲ってのがやれない。そういうの弾けたりするか?」

「すぐに思いつくのなら、クロスの『ティアー」ですね。歌とかドラムがつらいと思いますが、やってみます?」

「ああ、あの曲は良い曲だよな。皆、どうだ?」

 反応としては、うろ覚えでも、ぜひ、やりたいと言った感じだな。


「それじゃあ、やります」


 この曲の初めは、弦楽器が特徴的なのだが、さすがにいないパートは、どうにもならないので、ピアノで、響かせながら、弦楽器のパートを引く。

 そこからは、ピアノとボーカルが印象的なパートが続く。

 そうして、全てのパートが参加して、盛り上げていく。


 最後まで、しっとりと、艶やかに、弾き終えた。


「……、そのだな。なんていうか、すごく良かった。ピアノって良いな!」

「クラシックピアノを六年、ジャズピアノを三年やっていたので、ピアノは、それなりに弾けます。ですが、すごい人は、こんな物じゃないですから」

「ああ、そうだよな。でも、桐山の演奏に、ちょっと感動した。名残惜しいが、ドラムで最後だ。これだけできる桐山を今更疑うつもりはないから、好きなように、ドラムソロでもやってくれ!」

「わかりました」


 ドラムの先輩が、スティックを手渡してくれて、早速セッティングを変えていく。

 この先輩のセッティングと俺のセッティングは違いすぎるようだ。後で直すことを考えると、申し訳なく感じてしまう。


「その……、タムの間を、そんなに狭くするんだ?」

「あ、はい、こうすると、ハイスピードで叩くときに、やりやすいんですよね。まあ、好みもありますから、これがおすすめだとは、言いません」

「いや、いろんなドラマーのセッティングを見るだけでも、勉強になる」

 この先輩、わかっているな。

 確かにいろいろなプレイヤーのセッティングを見て、参考にしつつ自分のセッティングを作っていくのは、大切だと俺も思う。


「それじゃあ、始めます」


 ハイハットを足で刻み始め、バスドラムを載せて、土台を作る。

 俺の好みの音は、一番大きなライドシンバルの中心にある大きく出ている部分、カップと呼んだりするのだが、このカップを使ったビートを刻む音だ。

 それを基本にしながら、エイトビートのアクセントを変えていき、変則的に聞こえるような音を作る。

 上手く砕けたら、そこから、短いが、ダブルストロークを駆使した、やたらと音の多いフィルインを細かく入れていく。

 この時点で、ちょっとしたドラムソロの状態になっているが、さらに激しく、タムにシンバルを使い、派手にしていく。

 さらに、倍速にして、それに合わせた速さのフィルインも入れていき、ハイスピード感を出す。

 ここまでやれば、ドラムが叩けると言って問題ないだろう。

 適当にシンバルをかき鳴らし、スネアを使ったロールを入れる。

 ロール明けに、シンバルを一度挟んで、スイングを聞かせたジャズドラムの音を作る。

 細かいが、わかりにくいテクニックを入れつつ。最後は、ジャズらしいドラムソロで終わらせた。


「……、以上になります。満足いただけましたか?」

「ああ、桐山が化け物だということが、よくわかった。とにかくだ。軽音部へ、ようこそ!」

「はい、よろしくお願いします!」


唖然としていた、先輩たちも、肩をたたくなり、声をかけるなりと、歓迎してくれている様子でありがたい限りだ。

 一年生たちを見ると、唖然としたままで、少し申しわけなく思ってしまう。


「えっとだな。桐山みたいなやつも、何年かに一度、入って来る。今年がそういう年だったというだけだ。桐山は別として、一年生たちには、バンドを組んでもらう時の参考にするオーディションを今からやってもらうが、大丈夫か?」

 余り大丈夫じゃなさそうだが、名簿にある名前を呼ばれてオーディションが始まった。


 さすがに、滝口先輩の脅しのような言葉でも残り続けた一年生だけあって、皆、それなりの腕前があるようだ。

 ドラム希望は、俺ともう一人、ベース希望は三人、残りはギターか。


「まだ、今月中は、一年生が来るだろうから、本格的に、バンドを組んでもらうのは、五月からになる。そこで、部長も二年生に交代する。二村。折角だから、何か言っておけ」

「二年の二村だ。俺もドラム担当だが、さすがに桐山には驚いた。だが、それはそれと思って、自らの腕を延ばしてほしい。桐山、お前のレベルにあったメンバーは、揃うことはないと思っておいてほしい。だが、皆の目標になってくれたら、助かる。以上だ」

 この二村先輩も、滝口先輩と同じようなキャラなら、ありがたいな。


 それから、滝口先輩のバンドとの練習風景を、眺めているうちに、部活動の生徒を対象とした全体下校時間となり、見学者で残った者たちと、入部が確定した一年生を含めた軽音部の面々で、下校していった。




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