表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/138

プロローグあるいは第一話 音楽の呪縛

ノエマと申します。

視覚障害一級ですので、誤字脱字が大量になるかと思います。

誤字報告は大歓迎です!

また、脳内変換で問題ない方は、そちらもお勧めします。

それでは、どうぞお付き合いよろしくお願いします♪


 プロローグあるいは第一話 音楽の呪縛


 我が家の最寄り駅に到着し、近くのコンビニで缶チューハイとつまみを幾つか買う。

 毎日の残業は、当然のこととなってしまった。

 現在四〇歳、そのうち四一歳となる独り身の生活は、気楽と言えば気楽だが、このまま老後を迎えるのかと思うと疑問を感じなくもない。

 だからと言って、転職をしたいわけでもないし、どうしても結婚をしたいというわけでもない。

 俺の人生は、大きな転機でもなければ、こうやって流されていくのだろうな……。


 最寄駅から十五分ほど歩いたところにある我が家に到着する。

 一人暮らしのマンションとしては、良い物件だと思う。

 五年ほど前に、分譲で購入した我が家だ。

 趣味はあるが、他人が見るよりも思った以上に金額を使わない趣味なので貯金はそれなりに有った。


 当時三十五歳の俺は、何か変化を求めていたのだと思う。

 そうして、マンションを購入しようかと探していたとき、水害でわずかだが水没したエリアの物件が激安価格で売られていた。

 多少の不安はあったが、この地域の水害対策をしっかりやることやマンションの安全性や耐久性が確認できたので、値段に負けて購入してしまった。

 そもそも水没したのは一階の床下だけだったそうで、そこをしっかり整えれば問題ない状態になるそうだった。

 我が家は、三階なので大きな問題はなく値段が安いだけというのが当時の話だった。

 長く住めば、いろいろと問題が出てくるかもしれないが、その時はその時だと割り切ればよい程度の値段で買えたので、特に気にしていない。


 マンションを購入した直後は、俺の人生に何か変化が起こるかもしれないと期待をしていたが、特に何も起こることはなく、それから五年が過ぎて今に至ってしまった。


 エレベーターに乗り、我が家に入り風呂やらを済ませて、ジャージに着替えて缶チューハイとつまみをソファーの前に並べる。

 夕食は、軽くだが職場の近くで済ませてきた。

 さて、明日は、仕事は休みだ。

 テレビを付けると、東京オリンピックの開会式の再放送がやっていた。

 今日は、二〇二〇年七月二四日の金曜日だったか……。


 チビチビとやりながら、開会式の様子をぼんやりと眺めていく。


 これから数週間をかけて、オリンピック・パラリンピックのアスリートたちが競い合うのか。

 スポーツは、嫌いじゃないが俺の趣味は、音楽なんだよな。


 セレモニーに日本を代表するミュージシャンたちが、何組も出てきて場を盛り上げている。

 居間に置いてある愛用のギター、ギブソン・レスポールを手に取り、流れてくる曲の有名なフレーズをテレビの音に合わせて引いてみる。

 どの曲も有名な曲ばかりなので、自然と指が動いていく。


 久しぶりに弾いたな……。


 ほぼすべてのミュージシャンが曲を少し演奏して、次のミュージシャンに代わっていく。

 音楽のリレーのようだな。

 ミュージシャンが代わるたびに曲が代わるたびに、俺も奏でる曲を変えていく。


 俺が今持っているギターは、エレキギターなので、アンプを使わなければ音は大きくはない。

 だが、小さいながらもそれなりの音は出るので、壁が薄いと近所迷惑になる。

 幸いなことに、このマンションの防音性能は、それなりに高いので、これくらいなら問題ないだろう。


 セレモニーが一通り終わり、アスリートたちが入場して来た。

 ギターを置き、再びチューハイを飲みながら、つまみを食べ始める。

 余り事情は知らないが、この入場は、かなりの時間がかかるんだったよな……。


 居間には、ギターの他にデジタルドラム、デジタルピアノ、それらがつながっているパソコンとアンプがある。

 簡易だが、十分作曲が出来る環境が整っている。

 ぱっとした見た目だけなら、百万円以上の装備がありそうに見えるらしいが、実際は、五十万と少し程度だ。それで、長い間遊べるのだから大人の遊びとしては、上出来な部類だと思っている。


 俺の趣味は、広い意味で音楽、詳しく言うと楽器演奏となる。

 ついでに、せっかくだからと作曲作詞も趣味の中に入れている。

 一番得意な楽器は、どれかと言えばドラムになる。

 次がピアノだな。

 ギターとベースも弾けるが、どちらも人並みと言ったところか。

 とはいえ、そこそこの経験者の三十代後半から四十代でバンドを組めば、どのパートでも問題なくこなせる程度の腕前はあるようだ。

 他に使える楽器は、トランペットやドラム以外のパーカッションに和楽器が少々、ついでに歌もそれなりと自負している。


 それらを、一人で録音してパソコンで調整して、動画サイトにUPしたり、ボーカロイドに歌わせてUPしたりもしている。


 ここまでの話なら、単純に音楽が好きなんだな、という話に思うだろうが、実のところ、俺は、音楽が好きとは感じない。

 日々の中で、音楽を垂れ流すようなことはしないし、積極的にライブに行くこともない。

 とはいえ、趣味としているだけあって音楽に触れているときは、楽しいとは思う。

 だが、好きかと言えば、義務感や強制力の様な物を感じてしまう。


 俺にとっての音楽は、どこかで聞いた物を適当に脳内で組み合わせてしまえば、いくらでも生成できてしまう物だ。

 これは、幼いころからの訓練の結果であって、常人が出来ないことも理解はしている。だが、それができるからといって、何の役に立つ?


 それでもだ、音楽を身近に置いておかないと落ち着かない。

 これは、もう呪縛の領域だと確信している。


 この呪縛の発生源は、わかっている。

 今は亡き俺の母親は、和楽器奏者だった。

 生まれた時から和楽器の音を聞かされて育ち、気が付いた時には、和楽器を触っていた。

 小学生に上がるころには、クラシックピアノを習わされ、流石に中学に上がるころには、反発をするようになった。

 そこで、妥協案として示されたのがジャズピアノを習うことだった。

 ちなみにだが、小学校時代の部活では、いつの間にか吹奏楽部に入部しており、トランペットを吹いていた。

 中学では、ジャズピアノを習いながらも、友人に誘われるままにドラムをたたくようになっていた。


 自主性がない、といえば、そうなのかもしれないが、もうこのころには、呪縛が発生していたのだと思う。


 その後の高校では、ジャズピアノは、辞めてギターやベースも覚え、大学では、ジャズピアノとトランペットができるということで、ジャズ研究会に入り、ジャズを楽しみながらドラムの腕前も上げていった。


 そういう学生時代を過ごしたおかげで、俺の趣味は、音楽全般となった。

 ちなみに歌だが、こちらも、従兄にオペラ歌手がおり、歌謡曲と声楽の声の出し方は、違うが共通するところも多く、いつの間にか鍛えられて、それなりに歌も歌えるようになっていたというわけだ。


 他人から言えば、うらやましい環境だったのかもしれない。

 だが、俺にとっては、ただそこにあった日常の出来事であり、もし、将来的に収入につながっていたなら、多少は喜んだのかもしれないが、今となっては、仕事を円滑に行うコミュニケーションの一つという程度になっている。


 悪くはないんだが、それだけなんだよな……。


 テレビでは、各国の名が呼ばれ、アスリートたちが行進している。

 大して飲んだわけではないが、酔いが回ってきたかもしれない。

 うつらうつらとしてくる。

 日本の名が呼ばれた気がしたところで意識が途絶えた。


プロローグは、現実世界では開催されなかった二〇二〇年の東京オリンピックからになります♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ