未帰還者#2/24
すると、煉は表情を一変させいつもの無表情になった。
「後、1時間45分」
腕時計を見る。
1時間45分……。
現在は18時15分だ。
もうそろそろ動くべきか。
「紫苑」
と、袖を引かれて煉の方に視線を移した。
「呼んでくれて嬉しかった」
……ん?
呼んだ?なんのことを言ってるんだ?
「やっぱり、ちゃんと呼ばれると嬉しい」
……ああ、煉と呼んだ事か。
全くの無意識だったな。
まあ考えようによっては煉を油断させる良いきっかけになる。
此方が丸め込まれたと思わせとけば、何かとチャンスに遭遇しやすくもなる。
どのくらい効果があるのか、ためしに誉めてみるか。
「煉、凄くかわいいよ」
すると、予想通り煉は頬を赤くして俯いた。
しかもちょっとにやけている。
……効果覿面か。なんだか、遣り甲斐のないくらいに単純馬鹿だな。
ゲーセンを出て、煉を連れて吉津根美山へ向かう。
やはり、ガスマスクは迎えには来ないらしい。
徒歩で行くには少々遠すぎるのでバスで移動することにした。
……犯人はもう動いてしまっただろうか?
いやまさか、真っ昼間から動きは取れまい。
……真っ昼間の中、あの数のミイラを別の場所に隠すなんて事はできるはずがない。
バスに乗ってみると、乗客は俺達の他には先頭にカップル一組だけ。閑散としている。
一番後ろの角の席を選んだ。
煉は隣の席に座って、どこか遠くを見ている。
誉めたときから頬はほんのり赤いままだ。
バスに乗ったのは久しぶりだ。
田舎だからバスも1時間に1回程度だし、そもそも原付のある俺には需要が無い。
そして学校も駅前の繁華街やショッピングモールもバスを使うほどの距離ではない。
俺の生活には不要だ。
それゆえ、バスの車内の景観はなんだか新鮮だった。
街灯がだんだん無くなっていき、外は闇に包まれていく。
やがて、この辺りの光源はバスのライトと天井の蛍光灯だけになっていった。
外は広大な田畑が広がっているはずだが、鏡になった窓が写すのは退屈そうな俺の顔と車内だけになった。
人を殺しに行くのに、退屈そうにしている自分に自分でいささか驚いた。
やっぱり、他人に対する興味が薄いのだろうか。
一人が好きだから、見知らぬ他人の一人や二人、死んでも構わないと思っているのか。
世界中から人類が消えて、俺一人になったら幸せだろうな。なんて考えを持ち合わせているくらいだ。
他人の命なんてどうでも良いのか。
だが、自分で奪う事には少しは流石に少し抵抗がある。
これから命を奪う。
もし、この一回で慣れてしまったら、抵抗すら感じなくなって、気分で人を殺して回る殺人マシーンになってしまうんじゃないか?
……まぁそれはそれで良いか。
そのまま人類を全て抹殺できるのならばだが。
「紫苑?」




