未帰還者#2/22
甘い香りがそれの背後から風に乗ってか、はたまた慣性の法則によってか。
俺に激突して分散する。
一気に接近されたんだ。
一度だけ青い宝石が一瞬、白い海の波間に現れては隠れた。
瞬きだ。
暖かい……熱い感触。
背中にも細く、きつく回り込んだ。
体温だ。
服の生地が薄いからよく、じんと染み入るようにわかった。
そして、まるで木漏れ日の様に一等熱く……
俺を飲み込む程の衝撃的で、適切な言葉が浮かばない。いや、やはり衝撃なんだろう。
口を塞ぐ彼女の口。
理解するのにも数秒の整理が必要だった程に驚愕した。
そして、また思考が止まる。
スタッカートのように。
でも、その瞬間……あるいはその間隔。
体内時計が正しく働いてるのかわからないくらいの混沌とした時間帯が流れた。
俺は、
煉に、
たった今、
唇を、
奪われた、
らしい。
「し、おん……」
煉は食事をねだった時よりも遥かに頬を赤らめていて、いつものような淡々としたしゃべり方も鳴りを潜めている。
まるで、年頃の乙女が恥じらうように。
身体と顔を僅かに捩らせて反らすが、瞳は此方を控えめながら捉えていた。
「…………」
声が…出ない。
「……目、が……青いのか……」
辛うじて出たのはこれだけだった。
違う。
もっと別に言う事があるのに。
だが、思考は一つの情報に支配され、それ以外の回路は停止する。
この瞳、間近で見れば見るほど似ているんだ。
青い瞳。
青い瞳だ。
見覚えがある。
そうだ、この青い瞳。
初めて西園の家に行くときだった。
青い瞳がフラッシュバックした。
大山が居て、俺に何か話しかけた。
俺からしたら、下世話な世間話だった。
何の話だったか。
いつもみたいに合わせてるだけの。
上っ面だけで生返事するような。ただの詮の無い話。
……話題は……初恋の話。
ダメだ、コイツは敵だ。
揺らぐな!忘れるな!
原因不明の既視感も全て、コイツら組織の陰謀ならば……
「……紫苑、なにか言って欲しい」
騙されるな!
名前を知り、俺の過去を知り、それを逆手に取ってるだけかも知れない。
あるいはそう錯覚させているだけかも知れない。
全て、嘘だ!
今は機械になれ!
「なんのつもりか知らないが、これ以上無駄なことはするな」
そうだ。それでいい。
近寄らせるな!
こちらのテリトリーに、これ以上接近されたくない。
ゲーセンにつくなり、俺はイクシオン・ゼロスをプレイし始めた。
アーマーと呼ばれるロボットを腕、頭、足、コア、武器、内部に5つあるラジエーター等の機器までを幾つか有る中から選び出して組み上げ、自分だけのアーマーをカスタマイズし、仮想空間の戦場でアーマーを操作して戦う対戦型ゲーム。
対戦相手は全世界のユーザー。




