未帰還者#2/16
煉がトランクを開けて中から出した大きな紙袋を受け取って、中に入ってるものを確認した。
腕時計と牢獄で見たままの状態の鞄。その下に新しい服があった。
それらを取り出して身に付ける。
その下に何故か下着が幾つかあったが、気にしてはいけない。
そもそも、何故かこうしてパシりに気を回す。
何故かはわからないが。
飴と鞭ってやつか。
飴で釣って御しやすくするためだろうか。
……騙されないぞ。
でもこの組織については本当にわからないし、何の組織なのかも今のところ不透明だ。
これから俺はどうなるんだ……
この女は俺を助けた。
……人を殺させる為だけに?
それだけなのか?
まだ裏が有るんじゃないのか?
「お前さ」
「私は煉。お前じゃない」
「俺をどうしたいわけ」
「スルーしないで欲しい。私は煉。だから煉と呼んで欲しい」
着替えが終わって念のため、ネコババされてないか財布を開いてみる。
「断る」
「なら、質問には答えられない」
「ふん、お前のことなんか呼んでやるもんかよ」
「何故?」
「嫌いだからだ」
財布の中身をチェックしたがそのままだった。
この事から組織として統率力は低くはないらしい。
統率力の低い組織というものは、個人が見えないところで身勝手な事をする物だ。
荷物を預かった構成員がネコババをしなかったとはそういう事だと推察できる。
「酷い。傷ついた。謝罪を要求する」
「それはこっちのセリフ」
「……私は、紫苑を助けた」
「違う。利用するにあたって丁度いいから助けた。だろ」
ただ人道的な価値観から助けたわけじゃない事を強調しておく。
その利用内容が人殺しで、いつでも此方を殺せると脅されては、流石に感謝の念も鳴りを潜める。
「違う。私は組織が納得するに足る理由を付けないと紫苑を助けられなかったから」
ほう、なら本当の理由が別にもあるのか。
是非とも喋らせよう。
「もしそうだと仮定して、何故助けた」
「紫苑を……愛しているから」
今度ばかりはドキリとは来なかった。
胡散臭すぎる。
っていうか露骨すぎる。
後付けの理由としては下らなかった。
とにかく、喋るつもりがないのはよくわかった。
「そりゃどーも」
煉をほったらかしにして、俺は家に向かって歩き出す。
あとから慌てて煉が着いてきた。
「……紫苑、私の精神にも限界はある。傷付けないで欲しい」
聞こえないフリをして早足で歩く。
下らない。
俺には関係ない。
他人は信用しない。
呪い殺せるなら幾らでも何時間でも呪ってやれるくらいに人は嫌いだ。
しかしあの時、ガスマスクを追い掛けた時の自惚れた自分も呪うべきか。
まんまと騙された。
自分から罠にハマった。
どこぞの地下施設。そして煉。
……デジャヴ?
「なぁ、以前俺はお前に会った事があるのか?」
「……名前で呼んで」
「ならいい。忘れてくれ」
いずれはまた煉と呼ぶことになるんだろうが、今はそんな気持ちにはなれなかった。
俺の精神の方が限界だよチクショウ。
手をひらひらしてやって、そのままペースを変えず歩いた。




