未帰還者#2/15
気がつけば煉に肘鉄を喰らわせて引き剥がしていた。
さっきとは違って冷たい血液が頭に昇って来て、全身に鳥肌が立つ。
「ふざけるな!お前らは俺を殺そうとしたんだぞ!?俺に人を殺せと言う奴等を信用できるかよ!!」
信じる何てあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!
人間は嫌いだ!
俺を……俺から全て持っていく癖に!!奪うくせに!!
「……お願い」
「うるさい!うるさい!お前は、お前らは俺を」
どうせ、色仕掛けで俺を騙すつもりなんだ!
揺さぶられるな!負けたら……また……!
大丈夫だ、深呼吸しろ。
背中に乗っていた汚い物はもうない。それだけでも平常心を見出だすには充分だった。
……戦える。
俺なら戦える。
お前ならやれる。
騙されるのは嫌だ。
「人は嫌いだ」
「……知ってるわ」
煉は悲しそうに苦しそうに呟いて、するりとあっさり離れていった。
何かを手放すように。
……騙される?
自分が今思い浮かべた言葉に違和感がある。
……何を誰に騙されたって?
何かを誰かに騙された気がする。
くそ、最近デジャヴが増えたな。
敏感になりすぎなのか?
どうなってやがる?
人間って生き物は上っ面だけで裏切りを重ねる生き物だ。
依存したり、信頼すれば裏切られて……
陥れられる。
油断するな。隙を作るな。
心に付け入る隙を作るな。
情を殺せ。
人は敵だ。
上っ面だけ合わせろ。
深みへは入れるな。
落ち着け、俺ならまだ戦える。
俺は深い深呼吸をしてもう一度気持ちを沈める。
……この短時間でものすごい体力を失った。
正直、登山でもしたかのようにクタクタだった。
やっぱりイライラする。
ちょっとだけ頭が痛くなってきた。
他人に予定を狂わされるのは一等嫌いだ。
強引に押し退けたくなる。
もう誰にも……
不意に車が止まって思考も止まる。
見慣れた白いフェンスが車体の向かって左側に見える。
学校に到着したらしい。
「もう着いたよ、お二人さん。さあ降りた降りた」
先に車を降りると、煉はガスマスクと2言3言、言葉を交わしている。
目を離した隙に走って逃げてしまってもよかったが、やはりすぐ捕まるだろうと考えてやめた。
彼らの信用を落とせば、最悪始末されかねない。
別段、生きることに執着はないがこのまま殺されては死後の世界でも虫の居所が悪いだろう。
本当に死後の世界があるのかはわからないが。
いや、十中八九そんなものはない。
やがて開けっぱなしのスライドドアをくぐって煉が此方に駆け寄ってきた。
なにやらトランクを持っている。
旅行用の大きい、茶色いレザートランクだった。
「紫苑、お待たせ」
「待ってねぇよ」
むしろ逃げる寸前だった。
俺の家……
俺の家に相容れない存在が、敵が侵入するのか。
異物がテリトリーにずかずか侵入するのが嫌で嫌で仕方がない。
あぁ、それだけで頭がいたくなるぐらいの憤怒が心を苛む。
しかし、行かないわけにはいかなかった。
「紫苑。これ、あなたの荷物。上半身包帯のままじゃ恥ずかしい」




