死神4
正直なところ、音楽鑑賞をしながらうとうとしててもそれはまだ構わない。
寝過ごしたら自分の責任だから。
しかし、だからといって大山に邪魔される筋合いはない。
「言うことでもねーだろ、うっせーな、もう帰れよ」
「そんなに……私の事嫌い?」
そもそも好きじゃない。
そう思った頃には、大山はフラりと踵を返して出ていった。
嫌いもなにも、大山桐子は幼少の頃からのお隣さんと言うだけだ。
特に仲良くしたつもりはない。
家族ぐるみの付き合いだから大山家が家に来た時には、当時幼いあの女も大抵は居た。
その度遊んでやった位で他に思い出らしい思い出はない。
それだけの間柄でしかないのだから、いちいちこのように構われては困ると言うものだ。
……さて、邪魔者も消えたしっと。
昼食ったら、音楽鑑賞しながら小説を読もう。
昼飯は冷食のピラフをレンジで暖めたものにした。
料理は妹か俺が交代で作るんだが、妹は大山に対する俺の態度が気に入らなかったらしく、作ってもらえなかった。
というか、妹だけカップ麺をすすっていた。
仕方なく自分の分だけ済ませて部屋に帰り、小説を手に取りヘッドフォンを装着した。
小説では、主人公を裏切った仲間が襲い掛かっている場面だ。
次の章に移ると、主人公を守るため、防御魔法の得意なヒロインが間に入り、その裏切り者の槍と魔法で張った結界とがつばぜり合いをしている。
この小説はマンガにもなっているらしいが、まだこの辺りでは見掛けたことがないな。
何せこの九納屋は少々田舎だからな。
そういや、かつて大きな納屋が九こあった事から、"くなや"と名付けられたらしいが、50年前に建てられた人工島のどこに納屋があったのか……いつも疑問に思う。
まぁ、いいや。
俺は浮かんだちっぽけな疑問を払拭して、小説に意識を向けた。
†
もう時刻は23時になるのか。
手を止めて窓を見ると、まるで壁があるように真っ黒に染まっている。
もう闇の帳が降りていた。
ゲームもちょうどラスボス手前のダンジョンまで進んだし、今日はこの辺にしておこう。
「ふー……」
伸びをすると背骨がボキボキと音を立てる。今までもて余していた筋肉の伸縮が心地いい。
楽しみをなるべく長く楽しみたいし、新しい楽しみを探すのも面倒に思って、ゲームも小説も切りのいいところで止めた。
そして今、俺にはこの上ない楽しみが出来ている。
だが、その楽しみは誰にも知られたくない秘密でもある。
……決して、何人たりとも知られたくはない。
知られたら……事件になる。
さて、そろそろ行くか。
立ち上がってもう一度伸びをした。
するとベッドの上で携帯が鳴っている事に気付いた。
学校からずっと、マナーモードにしたままだったから気付かなかった。
いつから鳴っていたんだろう。慌てて電話に出た。