未帰還者#2/13
牢屋を出た時のように手を引いてはくれないらしい。
†
揺すられる感覚が俺を起こした。
殴られた辺りが、胃がグルグルしているようだった…。
三半規管がまともに機能してない。
この辺りは酷く風邪を拗らせた日の朝に似ている。
チクショウ。この女、本当にいつか殺す。
「……気分はどう」
上体を起こすと、覚醒してそうそうそんな皮肉を垂れる煉。
俺は腹がたつを通り越して、最早脱力感に支配された。
「……お前らのおかげで、睡眠以外で意識を失うと目覚めが悪いのはよぅくわかった」
目隠しを剥ぎ取りながらすぐ後ろで正座している暴力女にそう言い返す。
どうやら膝枕されていたらしい。
麻酔の次は腹パンときた。
お次は後ろから撃たれそうだ。
もうコイツら地獄にでも落ちたら良いのに。
「ごめんなさい」
煉は無表情のまま下を見ながら謝った。
白々としか見えない。
改めて周りを見渡すと、ワンボックスカーの中らしい。
車には詳しく無いので車種までは判断しかねるが、3人は座れそうな背もたれが倒されて、トランクと同化した後部座席ということだけはわかった。
運転席の方を見ると、ローブの男がいた。
こいつも殺さなくては成らない。
やはりガスマスクを装備している。素顔が見えん。
「やぁ、庚くん」
何が「やぁ」だ。
校庭で天使を出してきた能力者。
今のところこの車に乗車してるのはこの3人だけらしい。
「庚君、忘れちゃったのかな?学校で……」
「黙れ、前見て運転しろ」
こちらを振り返る不審者の背もたれを蹴ってやる。
無視したつもりはないが、馴れ馴れしくされる謂れはない。
「痛い痛い。腰痛持ちなんだから勘弁してよぉ」
なんて呑気な事を言う。
これから人を殺しに行くっていうのに……。
関係ない命とは言うものの。
人の命を奪う事に抵抗が無いと言えば嘘にはなる。
いや、関係ないからこそ抵抗がある。
怨み辛みや目的があればそれは抵抗より動機が勝ってしまうからどうとでもなる。
社会的に死ぬのは多少怖いが、今のところあのオッサンを殺してしまった件は知られていない。
そうだ。
あのオッサンも、コイツらも!
クソッ、どいつもコイツも俺をバカにしやがって!
俺の予定を踏みにじりやがって!!
お前らなんか、隙を見て団体より先に始末して……!
くっ……落ち着け感情的になるな。
無意識に握り締めた手をほどく。
深呼吸して、落ち着くんだ。
感情に任せて2度も失敗したばかりだろう……。
頭から熱が徐々に引いていく。
腹の奥に溜まった光を遮るどころか、吸い込む程にどす黒い液体が渦を巻いている。
微熱を含んだその液体が、渦の底へと納まって行くように頭の血が身体へと戻る。
冷静になれ、周りをもっと観察するんだ。時々揺れる車内。
つまり、走行中。
暴れたら事故に繋がる。
他人なんて嫌いだ。他人なんておもちゃになっていればいい。
だが、殺すのは今じゃない。
今はとっとけ。この怒りは糧にしろ。
殺意が丸め込まれていく。
黒くドロドロした。熱を孕んだ殺意が更に腹の奥底へと沈んでいく……。
「くそ、まだ着かねぇのかよ」




