未帰還者#2/12
なんだこれ、なんだよ……なんなんだ……?
おかしい、何故だ。
一体どうして………?
デジャブ。いや、既視感と呼ぶには余りに……
そう、濃厚。
濃厚すぎる感覚だ。
廊下に出ただけだぞ?
一体何が。
「紫苑、大丈夫?」
その声に、ハッと意識が途切れたように思考の渦から脱した。
目の前には、打ちっぱなしで壁紙も装飾もないコンクリートが四角く長い空間を産み出していた。
じん。と、身体が妙に暖かい。
「紫苑?」
耳元から声がした。
左の頬がわさわさとこそばい。
煉に肩を抱かれていた。
「何を……した」
「えぇ?」
初めて廊下に出た瞬間。
……デジャブを感じた。
そして、改めて煉の顔を見た瞬間。それが強くなって、気付いたら脳がフリーズした。
文字どおり凍り付いた。
写真のように、その瞬間を凍り付かせた何かが……脳裏に過った。
……この廊下、煉の顔。
……煉とはここに来たことがあるのか?
いつだ?
「私は何も……あうっ」
煉を小突く様にして脱出し、もう一度顔を見る。
シルバーに見えるくらい薄い金の髪、青い目、白い肌。
昨日は暗闇で表情を読み取るのがやっとだったが、日本人のような名がありながら、容姿にその要素はまるで無かった。
「白人だったのか」
「……私は、カナダ人とのハーフ。生まれも育ちも日本」
……ハーフか。
「紫苑。あまり時間が無い早く行こう」
そう言えば、何処かに行くって話だったな。
昨日から色々ありすぎて忘れていた。
予想外が目白押しだ。頭が追い付かんな。
かぶりを振って気持ちを切り替える。
さて、どこに行くんだったか……。
「吉根美山はここから1時間は掛かる。急ごう」
吉根美山から半径一時間以内の地点にこの場所があるのか。
吉根美山かまたよりにもよって……。
「吉根美山と言ったか」
「そう、吉根美山」
西園が死体を隠していた場所とは何の因果か。
「そうか……」
西園は件の団体の一人か?
いや、そもそも能力者なんて世間に露呈してない時点で少数。
その少数の範疇であるはずの西園。
紛れ当たりする率は低くはないか。
なるほど、これは運命ってヤツか。
地上に出ると、日は既に高々と登っていた。
なんだか、数ヶ月ぶりに外に出た気分だった。
これ程までに外の空気が美味いと感じたのは初めてだった。
だが、後にも先にも無いことを祈りたい。
「……これを目につけて」
煉は両手を並べて丁寧に差し出した。
両掌の上に黒く長い布なものがだらしなく垂れている。
合理的に考えてみると一つしか出てこない。
奴等はここの正確な場所を知られたくない。と言うことだろう。
「……目隠しか」
コクン。と煉は頷いた。
相変わらず感情表現に乏しいヤツだった。
まあ、その方が此方としてもやり易いか。
何にせよ道中はこの目隠しを着けるしか無いらしい。
布を目に当てて、後頭部の辺りで縛った。
シルクの様にさらさらした軽い布だった。
厚みが無い割にはきめ細かい繊維で、着けてみると本当に何も見えない。
「エスコートは頼んだぞ。……ぐあぁっ!?」
「……任せて」
俺は腹を抱えて蹲った。




