未帰還者#2/8
こうもあっさり負けると辛い物がある。
ふぅ……と溜め息を着いた。
今も、そして捕まる前もそうだ。
感情的になっていた。
自分の力を過信していた。
思うに、この女は俺より練度が高い。
能力を土壇場で消すと言う発想は俺にはなかった。
コイツらの組織は能力の訓練や研究でもしてるのか?
「なにを、考えてるの」
不意に女の顔が俺の視界に飛び込んで来た。
思考が止まる。
俺の顔を覗き込んでいる顔は暗がりに紛れてよくは見えない。
「別に」
顔が近くてちょっと驚いたが、吐息の生暖かさが不愉快で顔を背けた。
「そう、なら本題にはいる。出来ればこちらを見て欲しい」
「嫌って言わせてもらう」
あくまでも抵抗する姿勢を崩さず、俺はそっぽを向いたままベッドに倒れ込んだ。
動けば頭も痛いし、麻酔の影響でだるくて仕方がない。
「私の指示に従って欲しい」
「何故だ、俺はお前に命を救われた恩なんか感じてないんだ。言うことを聞く義理なんかない」
殺す気なら、受けて立つ。
「そんな事、どうでもいい。あなたは我々に命を救われ、同時に命を握られている事を理解すべき」
「知るか!殺すなら殺せばいい。だが、ただでは死なな………」
頭の奥がやはりぼんやりしている。
俺の上に何かがのし掛かった。
さらに頬に微妙に冷たい物がぶつかってきた。
今の状況がなんだか解らない…
突然過ぎて頭が整理仕切れない。
「そんな……ことぉをっいわっいっ!言わないでっ欲しっぐっす!」
今まで淡々としていた少女の態度が一変していた。
両目から涙が筋を作って流れ、口は山なりに曲がっている。
……これは。
「……泣いてるのか?」
「泣いて、なっいっ。変なっいいがかっぃは、止めて欲しいぃ」
いや泣いてる。
どこからどうみても泣いてる。
……何故泣くんだ?
情緒不安定なのか?
殺す相手に殺せと挑発されただけで、泣く要素がどこにある。
「だがっ殺せっなんて、えぐっわたっしにぃっいわっ言わないれ欲しいっ!ふえっえっぐっ!」
……参ったな。
これではいつまでたっても話が先に進まない。
西園の案件だってあるんだ。ここでグズグズしてる暇ない。
そもそも何故俺が生かされたのかも、この女が何者なのかもここが具体的にどこで何なのかも解らない。
いや、俺は……知ってるはずだ。
ここがどこでどういう場所か。
忘れているだけ。
なのかも知れない。
独房の湿った冷たい空気が開けっぱなしの出入り口からそろりと侵入し、通気孔へ抜ける僅かな風の流れに押されて淀む中、少女はただ泣きじゃくり続けた。




