未帰還者#2/7
大剣と壁に激突というダブルパンチを喰らった死神は鎌を支えに起き上がるが、致命的な一撃だったらしく、上手くいかずによろけて片膝をついた。
窮地だ。
やばい、無防備な死神にこのまま攻撃を連続されたら間違いなく意識が飛ぶ……!
だからと言って死神を消しても、甲冑と少女をこの身体でどうにか出来る筈もない。
だが吹き飛ばされてまだ間合いがある、盾だってあるんだ。焦るな!
その時、死神に大剣が突き刺さった。
次の瞬間。奇妙な事に、目を開けると女は俺を引っ張り起こしていた。
そして、甲冑の姿も死神も消えていた。
どうなっているのか……
決まっている。
負けた。
瞬間的に意識を喪失した…?
起き上がる死神に突き刺さった大剣…それが止めとなったのか。
チクショウ……!
負けた。
その言葉が俺の胸にのし掛かった。
脱走した上で敗北。
このままだと間違いなく殺される…
逃げなくては…
一歩足を動かそうとすると…
足に信号を送る際になにか、そう。
傷口を開いてしまった様に。
余計に動こうとするとそれをきっかけに、まるで決起したように頭がズキリと痛み出した。
ズキリ、ズキリと加速してきやがる。
クソ、クソ!体を……動かそうとすると。頭痛が。
頭蓋の内側で、叩かれるように痛みの波が膨張を繰り返す。
「痛いいいぃ!……痛いいいいいいいいい!!」
「やめて!落ち着いて!」
抑える女を振り払い、溜まらずベッドに頭を打ち付けた。
だが、動かそうとするとまた頭痛が加速する。
負のループを断ち切るためにベッドに身体を投げ出した。
クソ……イテェ……イテェぞチクショウ。
「……殺すつもりはない。とにかく、話を聞いて欲しい」
そうやって痛みと静かな戦いをしていると少女はそう言った。
殺すつもりはない……?
……話を聞いてやるか?……だが、出方次第では……。
少女が肩に腕を回し、俺は鉄格子の無くなった独房まで引きずられ、ベッドに寝かされた。
俺は敢えて抵抗せずに、とりあえず静観してみることにした。
というか、直ぐ様にはリベンジするほどの勢いも気力もなかった。
「……んしょ、見た目より重たい」
敗北した……
あれだけ高揚していた感覚が嘘みたいに失せ、心がぼっきりと折られた。
……あまりに不愉快だ。
「やっと、落ち着いた……?」
女は肩に手を乗せて、そのまま背中を擦った。
「止してくれ」
俺は肘でせめてもの抵抗をする。
非常に不愉快だった。
「包帯を取り替える、動かないで」
なんだか、情けなくなってきた。
殺そうとした相手に温情を掛けられるほど、惨めな事はないと、昔読んだ推理小説で犯人がそんな事を言うシーンがあった。
染々とあの犯人の心境がわかった。
俺は包帯を広げる女の手を握って制止した。
バカにされている気がする。
見下されている気がする。
「要らない。それより話があるんじゃないのかよ」
「ある」
女は淡々と返してくる。
「でも、包帯は巻かせてもらう」
「止せ。殺す相手にそんな事、されたくない」
いつかコイツは殺す。
俺の死神で首を跳ねてやる。
「あなたは私の指示に従う義務がある」
だがそれにも怯まず、女はそのまま押し返してくる。
麻酔のせいで本調子ではないので、そのつばぜり合いもあっさり敗北し、包帯を巻かれるのを許してしまう。
「礼なんて言わないからな」
これがせめてもの抵抗だった。
情けない……。
「礼は不要」




