死神3
あの女、家に入ってこないだろうか。
1階のLDK、トイレ、物置、客間。母の部屋、父の部屋……戸締まりよし。
続いて階段を駆け上がる。2階の2つ目のトイレ、それから妹の部屋……は勝手に入るのは後味悪いのでスルーして俺の部屋。よし、しっかり掛かっている。
全ての部屋の窓にカギが掛かっているのを確認し終えた俺は、自分の部屋につくなりコンポの電源を入れて、鞄から取り出した買ったばかりのCDを封を切って、ディスクプレートに乗せて挿入した。
へッドフォンを装着してベッドに寝転がってみる。
ベッドを窓から差し込んできた昼の陽気が、木漏れ日の様に優しく包む。
ちょっと暑いのがまた心地いい。
猫が日向ぼっこする気分はこんな感じなのか。
眠気に誘われながらもコンポをリモコンで操作する。
エアコンに吹かれながら、ヘッドフォンから響く音楽の心地よい誘惑に吸い込まれる様に、目を閉じた。
だが間もなく、吸い込まれて着地するはずの音楽が突然途切れ、何者かが俺を乱暴に揺さぶる。
「兄さん兄さん!」
妹だった。
ボブに切り揃えた髪の毛が顔に掛かる。
にしても一体全体なんの用だろう。
俺はせっかく猫の気持ちで眠っていたのに。
「なんだ、どうした?」
「大山さん来たからね!」
「せっかく猫の気持ちで眠っていたのに……」
「猫?」
あのアマただじゃおかねぇ。
俺の休日を台無しにしやがった対価でも取り立ててやろうか。
さしずめ、俺の不審な行動について聞きに来たのだろうが、俺にかわされてから少し時間が空いているな……?
一度帰ったのか?
「なあ、大山さんはどこに?」
「大山さんなら玄関先。未来の結婚相手を待たしちゃだめだよ?」
妹は、意味不明で朦朧とした事を言ったかと思えば、ニコっと笑顔を見せるなり、
ポカーンとしていた俺を残して、そのまま部屋を出ていった。
慌てその後を追い掛ける。
その危うい誤解を解かねば、後々厄介な事になりかねないな。
「俺には許婚なんて居ない」
「あれ?大山さんと兄さんは幼なじみだよね?」
「待て、それと許婚と何の関係がある」
何か勘違いしてないか。
玄関へ降りながら妹に説明する。
「幼なじみは将来何があっても、絶対結婚しなきゃ駄目だって……」
「それは何処の国の制度だ」
ここは日本だそんな制度は存在しない。
全くあの女は何を考えているんだ。
そもそもこの年で結婚だとか愚かにも程がある。
「え!大山さん嘘ついたの!?」
……大山。アイツは一度殴る。
「遅い紫苑!」
ヤツは玄関に仁王立ちしていた。
俺を見るなり、奴は膝の辺りで握り拳をギリリと握って怒っていた。
私服に着替えたらしく、茸の丈の短いシャツの下に青いワンピース姿だった。
「うっせーよ。何の用だ。お前の家は隣だろうが」
「紫苑?私に隠れて何をしていたの?」
と言うか、今日は予定がいっぱいある。
0時迄には出掛けて調べたい事もあるし。