未帰還者#2/1
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そこは血溜まりだった。
いや、血に染められた赤黒い、四角い金属のテーブルのようなものに乗せられていた。
何となく血潮の臭いと、金属質な硬さの背中の感触からそう思った。
ビリビリと四肢、二の腕の半ばと太腿の半ば。それとあばら骨の下が痛む。
何故かは分からない。
ただ漠然と、このまま死ぬんだという事は分かった。
時折、耳につく激しい物音。何かがガチャガチャと金属音をたてて暴れている様だった。
目は暗い部屋を映し出していたが、9個の電球がくっついた、たこ焼き器の様な明かりが直接照らしてるにも関わらず、景色は不自然にボヤけて、薄ぼんやりとして暗かった。
「ーーーーせーあつーーー」
遠くで男の声が聞こえるが、遠すぎて何を言っているのかが分からない。
「酷いーーーー子供ーーーー私ーーーで助けーーー」
会話をしているのか、応えるように女の声が聞こえる。やはり、何を言っているのか分からない。
死ぬ自分には関係ないと思った。
不思議と、怖さは感じなかった。ただ、死ぬだけ。
淡々とそう考えてその緩やかな流れに身を委ねている。
水面に仰向けで浮いていた状態から、ゆっくりと水面下へ飲み込まれていくように、冷たい死を受け入れようとしていた。
だが、何かが引っ掛かった様に引き止められる。
四肢と胴体の中が暖かくなっていく。
落ちていくつもりが、だんだん意識が浮上して、ハッキリとしていき、それに比例して景色が輪郭を取り戻す。
どういう事なのか。
頭に淡い緑色の輪を浮かべ、純白の翼のついた、白い瓢箪を逆さにした様な物体が、たこ焼き器の明かりを押し退けて視界に入り込んできた。
天使を連想させるそれは、僅かに淡い緑色の光を帯びていた。
四肢を撫でられる様に、二の腕から指先へ、太腿から爪先へ。胴体の中と、熱が徐々に伝っていく。
一度浮上した意識は、疲労の様な怠さがまとわりついて、再び落ちていく。
でも、これは先程の死とは違う。睡魔に近いものだ。
そうして、睡魔に侵された頭で今の状況を考えてみるとわかった。
これは夢。明晰夢だ。
これは夢だ。これは夢なんだ。
視界の全体が黒いストライプに覆われた。
それを目で追って行くと末端はすぐやって来た。黒いストライプは、コンクリートに飲み込まれていった。




