未帰還者38
素早く髪を翻し、頭をふって此方を睨んだ。
毛先が顔にサパサパと当たった。
くそ。
このバカが……
腹がたったので、肩をつかんで邪魔だと押し戻してやった。
「西園君、俺は例の天使を知ってるぞ。知ってるからな。きっと突き止めてやるぞ」
西園君の絶望したような顔を見ながら宣告すると、俺は西園邸を出ていった。
本当はもう少し問い詰めて自白を得るはずだった…
…
里中とその他の人間を殺したのは間違いなく奴だ。
その推理を裏付け自白させるのが醍醐味だったのだが……
いや、またこのバカに邪魔されては仕方ない。
今回は横槍がスタンバイしてるのをすっかり忘れていた。
まあいい少々粗っぽいがフォローはできた。
彼にとってあの言葉の意味は大きい。
この揺さぶりで動転した彼は、俺の動向に注目しなければならない。
そして、俺の口を封じるために直接対決しなければならなくなった。
後は寺で待っていれば良いのだ。
黒い天使は来る。
俺を倒しに来る。
あの命の危機をもう一度味わえる。
スリルは楽しい、死ぬのも悪くない。
推理の答え合わせはその時でいい。
「ねぇちょっ。西園君の事なんだけどさ」
俺は鬱陶しい横槍を無視して家路を急いだ。
これだから人は嫌いだ。
能力も無いのに自分から首を突っ込みたがる。
そしてかき回すだけかき回して満足したら去っていくんだ。
だから俺にとって他人なんて、娯楽の一つでしかない。
他人の人生なんて、観客のいない人形劇だ。
かき回す側に立たなければ踊らされる人形になってしまう。
そして常に誰かが誰かを嘲笑い、嘲笑われている。
他人は嫌いだ。
人間が跋扈するこの世界なんか、俺を残して全て虚空の彼方へ消えてしまえばいい。
俺以外の人間なんか必要無い。そうすれば俺を不愉快にする人間は……居なくなる。
でも……そこまで他人が嫌いな俺にとってあの青い目はなんだろう。
大山との雑談で出てきた青い目。
キーワードは……初恋……?
本当に映画のフラッシュバックなのか?
そもそも何故目だけで、他のシーンはないのか。
「目……?」
底無しのような深く吸い込まれるほど青々とした光彩の瞳。
群青色と表現するべきか。
それを称えるように赤い筋一つない白目。
美しい瞳だった。
そこまで鮮明に思い出せるのに……
それが誰のものかはどんなにか思い出そうとしても出てこないのだ。
いや、そもそも俺が他人を好きになるはずがない。
それに外人とは接触したことはない。
やはり、映画のフラッシュバックか?
なんにしても、今は思い出せそうにない。
黒い翼の天使を歓迎する方を優先するべきだ。
こうして能力者と出会う事を繰り返していたら、能力の正体も分かるかもしれない。




