未帰還者32
夏場特有の強い日差しと蜃気楼の中、俺はあの牧歌的な道をひたすら歩いていた。
物憂げな顔で地平線の逃げ水を見つめている、ストーカーと化した大山が後ろからついてくる。
この間よりも湿気がある様で、体感温度は以前よりまして高い。
俺が視線を向けると、大山は麦わら帽子の影から目をちらりとこちらに向けた。
黒いヒラヒラしたワンピースを引きずるようにして、やや猫背気味にフラフラ歩いていた。
しかし、迂闊だった。
まさか昨日この女にも竹中から連絡がきたなんて……
というか、何故竹中とこいつがメールのやりとりをしてるんだ?
クラスで会話らしい会話なんてしてなかったはずだが。
「あちぃ……」
「大山無理するな、熱中症か?帰った方がいいんじゃないか?」
「……ジュース……」
「すまん、往復の切符代だけで財布は置いてきた」
「……使えねー……」
勝手に着いてきた癖にワガママな奴だ。
そんなに嫌なら早く帰れよ。
無計画なやつめ。
「……今日の服、いつもとちがくない?」
「いや、そうだったか?」
手持ちの私服だが……
オリーブドラブの軍パンに、デカデカとドクロが書かれた黒い半袖シャツ。
階級章のワッペンが貼られたミリタリー風の薄いポロシャツを羽織っているだけだ。
「それっ女の子受け悪いファッションだよ。っていうか、私の話なんだけど……」
「へーそう」
どうでもいい情報をありがとう。
いいから帰れよこの喪服女。
「だから、私の服がいつもとちがくないって話なんだよ」
「ああうん、もふ……じゃないや、淑女風だな」
危ない危ない、危うく喪服と言いそうになった。
しかも麦わら帽子のリボンも黒いときている。
麦わら帽子ではなく、黒いレディースハットなら本当に喪服だ。
「……それだけ?」
不意に物憂げな顔が此方を捉えた。
この暑さの中だが、非常に不満そうな顔はそれ以外の何かに向けられている様だ。
「え?うん、まあ」
となると、俺に対する不満があるのか。
単に誉めてもらいたいだけだろうが、お前の喪服は不合格だ。
「……もういいよーふーんだ」
大山は力ない動作でそっぽ向いた。
しかし、そんな態度を取られると何故だか煩わしさと、ほんの少しの殺意が生まれてくる。
……だが俺は屈しない。
絶対に大山になんか手を掛けてやるもんか。
こんなやつ、殺す手間すら惜しい。
あーなんで着いて来ちまったかねぇ。
よりによって今日だぜ。
西園に聞きたい事があるのに。
一人で良いのに。
いつだって一人で良いのに。
西園も、大山も、誰も何者も必要無いのに。
田舎道には不釣り合いな程真新しい綺麗な道路の上を、巨大なバッタが跳ねていった。




