未帰還者30
……ん?
特攻服のミイラがもう一つあった。
さっき室内を見回した時には気付かなかった。
一番角の闇の中、壁にもたれ掛かっていたようだが今は日の角度が変わって、照らし出されている。
壁にもたれ掛かっていた、無様に前屈している。
時間が経って、腰の骨が折れたのだろうか。
顔面は叩きつけられたショックで崩れている。
しかし、このミイラは骨も痛むようで、残らないで崩れるらしい。
特攻服の背中を拝見すると、朱徒雷怒夜露死苦の文字があった。
そう言えば、ストライドなんて名前だったかな、ここの暴走族は。
田舎なのに改造したバイクバリバリ飛ばしてたもんな。
バイクで都会まで行くんだろうか。
富田孝四郎とやらも、ストライドに所属していたのか?
まぁ名前のわかる死体があるのはありがたい。
富田孝四郎から探って……
待てよ?
……暴走族?
俺は言葉にならない程の興奮を覚えた。
でもあるとしたら、俺は最高の瞬間を迎える事になる。
……まさかな。
いくらなんでも…いくらせせこましい田舎だからって、そこまで上手くは出来てないだろう。
被害者は調べた。あとは犯人に直接アタックを掛けるしかないか。
さて……粗方調べたし、そろそろ戻ろう。
ミイラを調べた後、入念に時間を掛けて社と周辺を調べてみたら、既に天井の割れ目から覗く日が赤く染まって長く伸び始めていた。
夕暮れ、時間が経つのも存外早いもんだな。
原付を飛ばしながらそう思った。
時刻は既に19時を回っていた。
帰ったら夕飯の支度を初めよう。
多分、寺で獲得できる情報はこれで全てだろう…。
自宅に着いて、原付を停めて玄関へ歩いた。
名前のわかった死体。あの名前をどう調べよう……ウチの学生だろうか。
誰か知ってそうなヤツは。
「……居ないよな」
「誰が居ないって?」
うわ……
原付を駐車スペースに停めると、眉を吊り上げて大変ご立腹な大山が庭先に現れた。
最悪だ。
失念していた。
コイツが待ち構えてそうな事など、考えればわかる様なものなのに……
「ちょっと、聞いてんの!」
「うっさいストーカー」
そう言って、玄関へ滑り込んだ。
玄関の鍵を掛けたらドアノブが激しく回った。
これ、ホラーだろ最早。
死体と過ごした身体ではいけないな。不衛生だ。
可及的、速やかに風呂に入ってから料理を始めた。
風呂から出ても妹はまだ帰ってなかった。
流石に妹には申し訳ないので、自分の分だけ作って食べた。
その晩は出掛けなかった。
その代わり、PCで富田孝四郎の名前を調べたが…地元紙にもヒットしなかった。
大して探されもしないようだ。
家族の捜索願いは出ている様で、警察も調度昨年位に一般公開はしては居るが顔写真と名前だけ。
それ以上の情報はなく、有益とは言い難い。
…好き勝手暴れたんだから仕方ないと言えば仕方ないんだろうな。
里中は事故でだけ取り上げられているし。
……ふむ。
大した収穫にはならなかったか。
昨今の行方不明者はこの二ヶ月で集中的に起こっている。
つまり、ほぼ無関係だろう。




