未帰還者29
隣のミイラに目を移す。
男性のミイラだった。
身を包んでいる作業着には油やペンキの染み等が目立つが、やはり腐乱したような汚れはない。
状態は女性と同一だ。
手荷物の工具箱の様なものも、取り立てて壊れてはないし。
恐らく、死因も同じか。
と不意に、電子的なエリーゼの為にがながれた。
携帯が鳴った。
メールの着信らしい。
「大山?」
……電話の次はメールかよ。
そもそも、用もないのに連絡しないでほしい。
でも割りと大事な用件かもしれない。
隣の家に居て、強盗や空き巣が入っていたら……
妹の身になにかあったら……
万が一、万が一だ。そんなことはないと思いたいが。そうならただちに警察に連絡して帰らなきゃならん。
嫌々ながらその未読メールを開いてみた。
そこにはただ一言。
会いたくて震える。
……はぁ?
なんだか、背筋が寒くなってきたと同時に、言い様のない殺意と呆れが同時に込み上げてきた。
こんなもの、さっさと消去して作業に戻ろう。
検死の技術なんて、本でかじった程度だが。
やはり素人目にもあからさまに変死だとわかった。
この不可思議さが、俺の好奇心を駆り立てる。
なにが彼らをこうさせたのか。
恐らく、昨日戦ったあの赤い奴か。
赤い奴が被害者をミイラにした。
でもそうなれば捜査は行き詰まってしまう。
赤い奴が犯人ならば、人智を超越した能力を使うはずだ。
ミイラ化した理由もわからない。
人智を越えた力について、いちいち解明してられるほど時間は掛けられない。
水分を蒸発させるなり、特定の対象に作用するのかもしれないし。
それ以外の能力もあるのかも知れないし。
仮定等、挙げれば切りがない。
つまり、死因やその過程は大きな問題ではなくなってくるのだ。
従って、赤い奴の正体を直接探るようアプローチしなくては、捜査は進まないだろうな。
ミイラも見ながら、犯人の手がかりになるものを探そう。
俺は寺を見て回る事にした。
その隣のミイラ、このミイラも作業着か。
仰向けに倒れている。
次のミイラ、……学ラン姿で腕を交差させて、何かから身を守るような姿勢で倒れている。
学ラン……この辺りでは学ランは中学生しか居ないが。
……いや違う。制服じゃないな。
霞んでいるけど肩や細々した金の刺繍がある。
特攻服?相当ボロボロの様だが。
特攻服。
そう言えば、この辺りに暴走族が居たな。
ここ数年見てないけど一斉検挙でもされたのか?
このミイラも暴走族の仲間だったのだろうか?
刺繍を観察すると、背中には富田孝四郎と刺繍されていた。
このミイラだけ傷んだ服を着ている……相当時間が経った古い遺体のようだ。
ミイラ本体も異様に小さいし、指に至っては無くなっている。
よく観察するとこのミイラは外郭から徐々に崩れているようだ。




