未帰還者24
背後で悲鳴とも咆哮ともわからない声が聞こえる。
振り返ると死神が鎌を振り上げていて、その前に誰かがへたりこんでいる様に見えた。いや、へたりこんでいる様に見えたのはミイラの一体かもしれないが。
しかし、事件が大きくなりすぎた。
このままでは公になる可能性が……
俺は死神に後を任せ、寺を飛び出した。
階段を滑るように下った。
「ここまでだ大山」
階段の踊り場に大山を下ろした。
「ここって……?」
「下に下れば道路に出る!」
俺の意思に従っているなら、上では死神が時間を稼いでいるだろう。
だが、いつまでも死神を泳がすことは出来ない。
集中して戦わないといけない。
犯人は何者なんだ。
ミイラにするなんて、人間……なのか?
大山が二人に分身した。
一瞬遅れてそれがめまいだと気づいた。
な、なんだこれは。
頭が……
突然くる片頭痛なんて比じゃなかった。
脳ミソの血管が引き伸ばされ、千切れたような苦痛。
そうだ、死神が攻撃を受けたら、頭痛があるんだった……大山の顔がぶれてもとに戻る。
「紫苑大丈夫!?どうしたの!紫苑!?」
くそ、時間がない。
今は時間がなさ過ぎる。
急がないと……
大山はいつの間にか両膝をついた俺の肩を掴んで、俺に必死に声をかけている。
介抱のつもりか。
「っ……だよ……」
「え?」
「うっせぇんだよ、とっとと消えな!お前がいつまでも……ここにいたら……戦え……ねぇんだよっ!」
しかし、大山は掴んだ手で立ち上がる俺を押さえつけて、焦る俺を阻んだ。
「戦う?なによ……それ!無理に決まって……」
俺は彼女の細く、白い腕を掴んで剥がした。
「るっせぇ!邪魔なんだよ!このアバズレが!」
そのまま振り返って階段を駆け登った。
邪魔をするヤツが悪い。
俺に干渉するやつが悪い。
俺は俺だ。
寺まで登ると一目で状況を把握できた。
赤い人の形をした何かが、死神の鎌を握り、負けじと死神も鎌を取り戻そうと躍起になって引っ張っていた。
空中で、二体は鎌を取り合っている。
赤い影は、ハンマーのような円柱状の双肩を有する、背中からは黒い羽が生え、赤いローブのような服でフードを被っている。
顔は頭蓋骨の様に大きく割れた、ギザギザの口と軟骨を失った鼻だけ見えた。
裾から見える指は細く鋭いが、あれは武器と言うより骨と皮の繊細な指という感じだった。
人外の化け物。
それを目の当たりに不思議と驚きも恐れもなかった。
何度も遭遇して慣れたのだろうか。
あれが俺と同じ力なら、やはり近くに術者がいるはずだ。
一人にした大山も心配だ。
とにかく、短時間で奴を破壊するしかない。
これがまたなんとも言えない充実感がある。
邪魔者はもういない。
だが短時間で決着しなければ、大山の馬鹿が襲われる。
物音に反応した人が来るかもしれない。
そのギリギリ感が堪らなくいい。
実にスリリングだ。
「死神!引き剥がせ!」
死神は赤い影を振りほどいて、鎌を槍の様に突き出してぶつける。
先端に刃は付いてないため、貫く事はなかったが、まるで無重力空間でそうされたように、堪らず赤い影は体をくの字に曲げて数メートル突き飛ばされた。




