未帰還者22
「誰か、居るのか?」
何かの臭いがする。
なんだろう……強いて言うなら、日本茶の葉を売っている店の前で嗅いだような臭いに近い。
「……居るなら出てこい」
中を照す。仏像が合った場所はぽっかりと空いている。足元が酷く凸凹している。既に床の畳だか板の間だかが朽ちて、湾曲しているのか?
転ばないよう足元に向ける。
「なんだ、これ?」
すぐ目の前の、黒い木の根とおぼしき物に何かが反射した。
見ると、艶やかな金色の輪が巻かれている。
木の根が輪に対して細すぎて、金色の輪はややたるんでいる。
それに興味を引かれ、良く見てみようとしゃがんでみると、音が聞こえる。
定期的なメトロノームのような、ぶれないリズムを刻んでいる。
その金色の何かを、指にかけて回してみると、丸い板状の部品が顔を出す。
「腕……時計」
女性物の腕時計。
小さなピンクの文字盤には、ネズミのキャラクターをあしらったラメがある。
しかも放置されていた割には綺麗だった。
何故こんな物がこんな所に。
木の根に巻いてあるんだ?
「あっ……」
時計とにらめっこしていたら、木の根が容易く崩れ、腕時計が人差し指に宙ぶらりんになる。
木の根に携帯のライトを向けた。
「……」
誰に聞かれる心配も無いだろうが……咄嗟に息と驚きの声を飲みこんだ。
死体?しかも、ただの死体じゃない。
ミイラ化している!
「なんだよ……これ?」
一体何が?
いや。落ち着け。まだここには、何かある。
恐らく、凸凹している全てがこのミイラ同様の死体だ。
そしてこの乾物のような香りは、ミイラの放つ芳香か。
やはり、懐中電灯を向けると樹木の根の様な黒いミイラが沢山転がっていた。
皆、昨日衣服を着たかのように真新しい格好をしている。
……なかなか面白い。
竹中の御願いから、こんなイベントに巻き込まれるなんて……。
推理とも呼べない段階の仮説がこうも当たるなんて……。
自分でも予想すら出来なかった……。
近くに、犯人がいるはずだ。
組織の事も追わなきゃならないが、この際後回しだ。
それ以上に目の前に新しい趣味を見つけた。
「紫苑!!」
「なっ……?」
さぁ……と背筋に冷たい物が走る。
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
……まずい。今この状況に介入されるとは。
振り返ると、大山が息を切らして葉や枝を頭にくっつけて汚ならしい格好をしていた。
階段ではなく、山の方を登ってきたんだろうか。
くそ、夢であってくれ……はしないか。
「お前、なんでここに!?」
「やっと……追い付いた!」
くっ、今ここに犯人が側にいる状況だぞ。
大山が万が一、犯人に襲われては……。
事が公になり、俺も追及される!
冗談じゃねぇ。




