未帰還者19
踊り場までたどり着いた、続きの階段は左手に伸びている。
見るとそちらの階段もまだ残っていた。
蔦植物に多少埋もれている程度で、歩くには問題無さそうだ。
寺の石壁が大きな植物の繁殖を許さず、比較的綺麗な階段として機能している。
石壁に寄り添うように太い木の幹が遥か下方の奈落のような暗闇から伸びている。
今度は万一にも手すりがないので、俺はさっきより注意深く足を進めた。苔で滑ったら死ぬかもしれない。
…………さっきの声はどこから聞こえたんだろうか。
単に鳥か何かの声だったのか?
……誰か居るのか?
そうしてようやく、寺にたどり着いた。
ズボンは葉っぱだらけ、蜘蛛の巣もベッタリくっついてる始末だ……。
蜘蛛を手で叩き落としてから周囲を観察する。
「ふむ……」
赤かったであろう、色褪せて灰色地味た色になってしまっている木製の巨大な鳥居は、無惨に崩れて正面入り口を封鎖している。
前に来たときはこんな事になってなかったと思うが、朽ち果てたのだろうか。
廃材と化した鳥居の向こうを覗き込んだが、中学時代の記憶と本殿のシルエットが違うように見える。
寺の石壁で木が届かずに、そこだけ夜空に月が浮かんで見えた。
不恰好に歪んだ本殿がまた死んだような静けさ中に鎮座している様は、この世の終わりを連想させた。
まじまじ観察すると、傾いた屋根が更に中程でくの字にへこんでいる気がする。
この中に、死体があるのか?
有るとしたらまず、ここしかないと思うが……。
この寺に無かったら、心霊スポットにはほぼ無いと言うことになると言っていい。
……なら、廃墟群の中のどこかだが、今ある手懸かりで見付けられる自信がない。
周囲を見渡して、気になるものが無いことを確認してからもう一度社に目を向ける。
恐らく、本殿の屋根が落ち窪んで綺麗に割れてしまっている様だ。
それ以外は中に入って見ない事にはわからないが、取り敢えず寺の敷地に人影はない。
この寺に居なければ、今この時間にこの山に人は居ない事になる。
心霊スポットに肝試しに訪れる人もあるかもしれないが、この寺はあの階段を使わないと到達するのは難しい。
俺が中学時代にここに来れたのは、放置されて随分経った今よりは全然拓けていたし、なにより運が良かったのだろう。
うっそうとした獣道を登るより全然マシだが、あの階段には滑りやすいと言う特性があるし。入り口は草木に覆われて、すっかり隠しルートの様になっている。
あの階段を見付けられなければ、そう簡単には登って来れない。
人は居ない……様に見えるが……。
死神を出して思う存分動かすには上等な環境に見える。
……でも、この感じ……何か引っ掛かる。
視線か?どこから。
ここでこちらを観察するなら、背後の茂み……社の裏側か……?茂みなら物音がするはずだ。
気取られないよう自然にイヤホンを外して耳を澄ます…………。
風はない、無風。
………………?葉の音ひとつしない。じっとしているのか。それとも、寺の方か?
気味の悪い……。単なる杞憂ならそれでいいが。
もし、居るとしたら西園か……?
鳥居は潜ろうと思えば潜れるくらいの隙間はありそうだし。
……何にしても、先ずはこの鳥居を廃除しなくては。
暗いし、素手では危ないな。
試しに蹴ってみたがびくともしない。
見た目より随分重そうだぞこりゃあ。
そうだ。
こういう時こそ死神を呼び出そう。
瓦礫を退かさせる位出来るだろう。
そう思った時には、死神は既に現れて鳥居の残骸を持ち上げていた。
まぁ、この場に潜伏している奴に見られても良いか。 最悪、殺せば済む。




