雨2
我々の組織の教訓であり、訓示であり、基礎的な理念だ。
「おっと……!」
その証拠に彼の胴体を切断するべく、紫色の影は動いた。
赤い刃の大きな鎌は刃とは反対側の先端から鎖が伸びており、柄に巻き付いている。
鎖の行く先には、トゲのついた金属のような鈍い光沢のある、台形の重りに繋がっている。
全身紫色で、身体に同化している襟つきのマントともコートとも取れない姿。
いわば死神的な出で立ちのそれは、彼の腰の辺りめがけてその大きな鎌を振るって、彼は飛び退いてその鋭い攻撃からかわした。
「あぶない、あぶない。容赦ないねー君!じゃあ、オジサンも本気出しちゃおうかな!」
拳銃を死神ではなく、すぐ後ろで額を押さえてこちらを睨んでいる少年に向かって発砲する。
すると、死神が素早く反応し、鎌から伸びる鎖を器用に巻いて円盤の様な形にして空中に維持した。
「そんな!?」
その鎖の円盤を盾にして弾丸を弾いてしまった事に驚いた。
鎖をただ巻いた様に見える。
なのに、まるで戦車の装甲の様な硬度を誇っているらしい。
「狼狽えるなフェイ、やはり拒絶型か……厄介だな」
拒絶型とは自身を脅かす者に対して、防御する事に特化した能力だ。
私が見た限り、鎧も盾も無ければ、体格も頑丈と言うより細身なあの死神には、防御よりも攻撃的な印象があった。
彼は長年の経験からそれを見破っていたのだろうか。
「少尉!あの少年は初心者とは思えないくらいアレを使いこなしてます!油断なさらないで下さい!」
すると彼は
「いやー?油断だけはしてない積もりなんだけどねー?」
なら最初の遺言を聞く時間も必要無かったのではないか。
そう思ったが、思考の段階で留めておいた。
少尉は口元こそつり上げてるが、目は全く笑ってない。
本当ならそんな軽口を言っている場合ではない程、少年は厄種で、少尉の余裕を奪っているのだ。
信じられないが、私の予想以上の厄種という事らしい。
「少年!痛いのは嫌だろう?抵抗しないでくれないか。手元が狂ってしまう」
すると、死神は鎖の盾を解いて鎌で素早く、かつ的確に胴体を狙って切り裂いた。
再びバックステップでかわす少尉。
鎌の有効範囲が広い。
少尉が逃れるには、真後ろに飛ぶ他はなかった。
しかし、もう後はない。
シールドと背中合わせになってしまった。
着地と同時に拳銃を構え様とし、実際に構えた瞬間だった。
少尉が前方に飛んだ。
「どわっ!?」
いや、違う。
鎖が胴体に巻き付いている。
死神が鎌を振るった時に鎖が巻き付いてしまっていた。
いや、死神は狙っていたんだ。
事実、死神の片手には鎖が巻かれていて、手繰り寄せる様に引かれていた。