未帰還者3
出ているんだなんて言うに決まっている。
馬鹿馬鹿しい。
こうして俺はその寺に食われずここにいる。
それが噂が眉唾だと言う証拠だ。
記憶を掘り起こしてみたが、やはり神隠しやなんやらに関する様なものは出てこない。
寺そのものも、屋根を支えきれずに右側だけ潰れていた。
倒壊しそうで、人が中に入れるような物ではない。
水汲みは枯れ果て、4体の地蔵も苔むして内2体は真っ二つに折れていた。
唯一鐘があったであろう、合掌作りの屋根と土台だけが、原型を留めていた。
風化しない理由は骨組みが鉄筋コンクリート製だったからだろう。
「吉根美山に行ってみようよ!きっと最近の行方不明者が居るんだよ!」
「もう吉根美山は既に行った事がある、斜めに傾いた寺が在るだけだ」
無駄足だ。
「えー?じゃあ案内してよ!行方不明者と放置された神様の怨念の温床まで!」
「なんだよそれ?っていうか放置された神様なんていないさ。鐘が無かった事からして、移転したんだよ」
地蔵は持っていかなかったみたいだが。
まあ、割れても下半分は立っている位だ。
地面に固定されているのかもしれない。
「ねぇねぇ!紫苑、行こうよ!」
「行かないよ、何も無かったんだから」
大山の奴、やけに食いついて来るな……。
そんなに行きたいなら、一人で行けよ。
お山だけに。
うーん?
何か上手いこと言いたかったが、こればっかりは題材が悪いか。
「ねぇ何か失礼な事考えてない?」
意外と鋭いなこいつ……ちょっと感心した。
「ねーよ」
そう言って俺は席を立ち、朝食の皿を片付け、洗い物を終えると自室に行こうと階段を……
「おい」
「ん?」
肩まで伸びた黒髪を揺らして、首をかしげている。
階段半ばに立っている俺のすぐ後ろで。
「玄関はあっちだ」
階段の一段目に足をのせているコイツの後ろを指差して言ってやる。
「うん、知ってるよ?」
……この女。
「俺はこれから自分の部屋に行き、出掛ける準備をする」
「出掛けるの?私もついて行って良い?」
……ふむ。
参ったな。
しかし、このままでは部屋にまで付いてきて、入られる危険があるしなあ。
理由もなく他人に自分のテリトリーは荒らされたくない。
仕方ない、ある種の妥協点か?
すぐ戻るから、玄関の前で待つよう言えば待ってくれるだろうか。
「玄関で待ってなよ。じきに降りるから」
困った厄種だなこりゃ。
「うん!わかった!」
語尾に音符を着けたくなるような発音でたったか玄関に向かって、靴を履いている。
まったく厄介な奴め。
まあ、いいさ。今日は片付けようかどうか悩んでいた用事もあったし。
そちらを優先して処理しよう。
……死神を得ても、人の中で生きなければいけないのは変わらない。
死神一体で全人類相手に何ができる。
俺は何もできやしない。
人の中に埋もれて死ぬしかない。閉塞的で面白味のない人生。
今日も竹中の尻拭いをやるはめになる。




