死神9
「うーん……」
わざとらしく、彼はガスマスクの顎に手を当てて胡散臭い程に演技っぽく考え込む素振りをした。
「そうだね……名乗る程のもんでもないかな?」
待たせといてそれか。
……バカにしているとしか思えなかった。
「まあ、さ」
ガスマスクは此方の返答より先に続けた。
「その死神の力を試させてはくれまいか?」
試すだと?
何のつもりだ?
「やろうって言うのか?上等じゃねぇか!掛かって……」
「まあまあ、熱くならずに。命を奪い合うって訳じゃ無いんだ……庚紫苑君?」
俺の名前を知っている?
コイツ本当に何者だよ?
「行くよ」
ガスマスクはそう言ったかと思うと、何やら腕程の幅のある四角い物を何処からか取り出した。
いや、いつの間にか持っていた……?
それ開くと、白い紙切れがペラペラと空中に吹き出し漂って、やがて一ヵ所に重なるように着地した。
その黒い物は本だった。
そんな大きな本なんか何処に隠していたのか。
いや、そんな大きな物を殆ど予備動作無しで取り出せるのか。
本当は最初から持っていたのか?
なら気付くはずだ……
手品の類いか……?
「始めようか」
死神が前に出る。
いや、あの地下鉄の時と同じだ……
上手く理解できないが、俺と何かリンクしている?
俺が戦闘が始まると自覚した瞬間、勝手に死神は戦闘体勢になっている。
死神は俺が危険と感じたらそこに立ち塞がる様に動き、消すべきだと判断すればその相手を殺す。
地下鉄の時の様に。
消すべき……。
アイツは俺の名前を知っている。
何か目的があって俺を探し、調べている。
やはり、地下鉄の男と同じ組織の人間と考えるのが自然だ。
可能な限り殺さず、生け捕りにする。
ともあれ、迂闊に動かない方がいいな。
まずは様子を見るか。
構えて居ると、ガスマスクが本を胸に押し当てて祈るように沈黙した。本はすうっと身体へ吸い込まれていくと、ヤツの正面に白い光のような物が現れた。
それは変化し形を持って、徐々に人の形となる。
そして袂をぶら下げた腕を高くあげた。
……いや、肩より少し低い位置にある。これは翼か?……天使?
雷に撃たれたような嫌な予感が走った。
「まさか、お前……」
「どうしたのかな?君だけの力だとでも思っていたのかい?」
嘘だろ?死神ではないにしろ……だが、この感じはやっぱり。
俺と同種の力?
いや、気圧されるな。
うろたえている暇なんかない、敵を観察しろ!
全身が此方の死神と同様紫色の衣類の様な物を纏っている。
袖から鋭い青い爪が生えている。
そしてフルフェイスヘルメットの様なのっぺらぼう。
それが一度だけ翼を羽ばたかせ、猛禽類のように音もなく滑空し、急接近してきる。
それが羽ばたき一回で急加速した。
「なっ!?」
一気に間合いが縮まって、死神を突破されるのを覚悟した時、間一髪で天使の前を遮る様に死神が割り込み、天使の爪を鎌の柄で防ぐと、左肩を引いて小さな弧を描いて鎌を振るって反撃する。




