道化師 ⑥
今日はFD世界のハルムの街で夏祭りがある。
前日子供達はしっかりと先生から許可をもらいテンションは高めだった。
祭は午後十八時からあるみたいで十八時にハルム広場で待ち合わせとなっている。
五分前に来ると既に子供達が来ていた。
「ごめん、待たせたかな?」
「いえ、僕達も今来た所です」
子供達は夏祭り限定で服屋で売っている浴衣の衣装買ってを装備していた。
俺はというといつも通りの道化師スタイルである。周囲が浴衣の中ピエロの格好は悪目立ちしている。ちらちらと人の視線を感じる。
「皆、浴衣似合ってるね」
「ほんとう? ゆまかわいい?」
「うん、可愛いよ」
「ユウ兄、俺は?」
「うん、似合ってる。カッコイイよ」
褒めると嬉しそうに照れるゆまちゃんとヒュウガ君。
『18時になりました。只今よりハルム夏祭りを開催致します』
アナウンスが流れ夏祭りが始まる。
ハルム広場には屋台がずらりと並んでいる。
子供達は様々な屋台に目移りしている。
「ゆま、リンゴあめたべたい!」
「俺は綿菓子!!」
「······たこ焼き」
「私はかき氷が食べたいです」
「うん、順番に周ろうね。タカラ君は何が食べたい?」
「僕は何でもいいですよ」
「タカラ君、せっかくの祭なんだ。遠慮しないで好きな物言いな」
タカラ君はいつも年下の子供達を優先して自分は遠慮してる。でもタカラ君だってまだ子供だ。タカラ君もワガママ言っても良いんだ。
「···じゃあイカ焼きが食べたいです」
「よし、イカ焼きだね。皆の食べたい物買いに行こう!」
「「おお!!」」
まずはゆまちゃんリクエストのりんご飴。
俺も買って一緒に食べる。
外側の飴がカリッとしていて中は林檎の果汁がジュワッと溢れてきて美味い。
次はヒュウガ君リクエストの綿菓子。
ヒュウガ君は俺や他の子にも綿菓子をちぎってくれたので食べてみると、フワフワの綿菓子が口に入れた瞬間甘さを残して溶ける。
リン君のリクエストはたこ焼き。二箱買って皆で突きながら食べる。外側カリッの中トロで熱々だが美味い!!
タコに続いてお次はイカ焼きを買う。
タカラ君は串に刺さったイカを美味しそうに頬張るがゆまちゃんやヒュウガ君も食べたそうに見てるのに気付くと食べさせてあげる。流石お兄ちゃんだ。
俺もリン君やミスズちゃんと分けつつイカ焼きを食べる。
うん、プリッとしたイカの身と甘辛いタレがよく合って美味い!!
最後はミスズちゃんリクエストのかき氷。
皆一つずつ買って食べた。
かきこみ過ぎて頭がキーンとする所まで再現しているのは、さすがFDクオリティーである。
一通り好きな物を食べたら、金魚すくいや射的、輪投げ、型抜きなどで遊ぶ。
射的や輪投げはリン君が一番上手かった。さすが弓使い。
型抜きはミスズちゃんが一番上手く、器用なのかもしれない。
金魚すくいはタカラ君が一番すくっていた。慎重さが鍵になったみたいだ。
皆で楽しく遊んでいるとアナウンスが流れる。
『二十時になりましたら花火の打ち上げを開始します。ハルム中央公園に観覧席を用意してますのでご利用下さい』
「花火だって。二十時まで後十分もないし、中央公園に行こうか?」
「ええ、行きましょう」
ハルム中央公園に着くと観覧席は結構埋まっていたけど、六人分の席は確保する事が出来た。
打ち上げ十秒前になると皆でカウントする。
三、二、、一、ゼロ!!
――ヒュルルル〜ドンッ!! ヒュルルル〜ドンッ!!
ゼロを合図にして花火がいくつも空を彩る。
花火が打ち上がる度に振動が体まで伝わる。FDの再現度に驚きながらも子供達と様々な形の花火を楽しんだ。
花火の形が変わる度に子供達の表情も変わって和んだ。
こうやって色んなイベントをタカラ君達と体験出来たらいいなぁと思いながら花火を眺める。
その思い通りに季節でイベントがあるFDの世界を楽しんだ。
季節は秋になると、栗拾いや魚釣り、きのこ狩りで秋の味覚を楽しみ、紅葉の季節になると紅葉を楽しみ、ハロウィンパーティーのイベントもあったので参加した。ホラーな格好をした子供達からお菓子をねだられた時は少しビビった。
現実では病院でまたピエロショーをやった。
規模が大きくなって病院の中庭でやる事になった。
観てくれる人もかなり増え、緊張したけど大好評で終了した。
ずっと子供達と楽しく過ごせると思っていたけど、その思いはある日砕け散る。
季節は十二月初め。
FDの世界でいつものように大道芸をしていると子供達がやってくる。あれ? だけどタカラ君が居ない。
心なしか皆の表情も暗い。
「皆、今日はタカラ君どうしたの?」
「···たからおにいちゃん、たおれちゃった」
ゆまちゃんは目を潤ませながら呟く。
えっ? タカラ君が倒れた? 何で? つい昨日まで元気だったじゃないかという思いが頭を混乱させる。
気づいたときには、FDからログアウトし、車で病院に向かっていた。
病院に着くと受付を済ませ、すぐに小児病棟に向かう。
ナースステーションでタカラ君の様子を聞くと、六人部屋から個室に移動しているらしい。
教えてもらった部屋に向かい、ノックをすると「どうぞ」と声が聞こえる。
中に入ると笑顔のタカラ君が居た。
「いきなりどうしたんですか、お兄さん?」
「いや、ゆまちゃんからタカラ君が倒れたって聞いて」
「大げさですよ。少しふらついただけですよ」
「そっか、ならいいんだ。それよりもちょっと痩せたかい? ちゃんと食べてる?」
「食べようとはしてるんですけど喉を通らなくて」
そう言って笑うタカラ君にはいつもの元気を感じない。
「タカラ君、やっぱり体調悪いんじゃ」
「お兄さん、実は前々からお兄さんとは二人きりで話してみたかったんです」
俺の話を遮って喋るタカラ君。
「僕には小さい頃から好きな絵本があるんです。『ピエロの王様』っていう絵本なんですけど。だからなのか小さい頃からピエロが好きで。初めてお兄さんをFDで見かけた時、凄く興奮して凄く嬉しかったんですよ」
俺も喋ろうとするけど、タカラ君は俺に喋る隙を与えない。
「あと僕にはFDで目標があって、クランを作りたいんですよ。ゆま、ヒュウガ、リン、ミスズの五人で最初はクランを作るつもりだったんですけど、クランを作るにはクランマスターが成人じゃなきゃダメなんです。それでぼくの好きなピエロさんにクランマスターをやって欲しいんです。僕の代わりに」
「僕の代わりにって、タカラ君も一緒にクランに入ればいいじゃないか」
「お兄さん。僕、末期の小児ガンなんです。それも余命三ヶ月の。だから一緒にクランで活動は出来そうもないです」
今にも泣きそうな顔で残酷な現実を言葉にするタカラ君。
「······」
何か言わないといけないのに言葉が出てこない。
「お兄さん、どうしましょう? まだ僕、死にたくないです」
タカラ君の頬を涙が伝う。
気が付くとタカラ君を抱き締めていた。
「大丈夫だ、大丈夫だタカラ君。FDでなら生きられる。FD籍者になれば!」
頭が真っ白になって冷静に言葉を選べない。感情のまま言葉にしてしまう。
だが悲しそうにタカラ君は俺の言葉を否定する。
「確かにFD籍者になれば僕は形はどうあれ生きられるのかもしれません。でもご存知ですか? FD籍者になるには本人の了承と家族の了承が必要なんです。そして僕の親はFD籍者になるのに反対なんです。だから無理なんです」
「なら親御さんを説得すれば!!」
「僕の為を思って反対しているのに言えませんよ」
「そ、それは···」
確かにFD籍者問題は複雑だ。簡単に答えが出せる問題じゃない。それに他人である俺が
口を挟める問題でもない。
俺は静かに涙するタカラ君に何も言えないまま面会を終えた。
翌日朝、FDに行くとタカラ君一人でやって来た。
「こんにちは、お兄さん。昨日はすみませんでした。情けない所見せちゃって」
昨日の涙が嘘のように笑顔のタカラ君。
「い、いや、こちらこそ何も力になれなくてごめん」
「そんな事無いですよ。昨日は色々話せてスッキリしたし、あの場に居てくれただけで嬉しかったです」
「それしか出来なかった」
「それをしてくれたんです。そんな悲しい顔をしないで下さい。僕、残りの人生を精一杯楽しむって決めたんで手伝ってもらっていいですか?」
「···俺に出来る事なら何でもするよ」
「ありがとうございます。 学校があるので失礼しますね」
そう言ってタカラ君は去っていった。
強いと思った。
俺がウジウジ悩んでいる内にタカラ君は前に踏み出した。
先は真っ暗で怖い筈なのに。強い子だ。
なら俺も前を向いてあの子のやりたい事をサポートしていこう。
そう決めた。
タカラ君はFDに毎日は来れなくなってきたけど、来れた日は全力で冒険して遊んだ。
現実世界では、もうすぐクリスマスということで病院でもクリスマスツリーの飾り付けやキッズルームをクリスマスデコレーションするのを手伝った。
その合間をぬってタカラ君は大道芸の練習をしている。
なんでもピエロになってみたかったらしい。
とは言っても病気で体力が低下しているので簡単なジャグリングやバルーンアートぐらいだ。それも疲れたらすぐに休憩を取るようにしている。
クリスマス当日。
俺はサンタの格好をして子供達の元を訪れた。病院の先生もサンタの格好をしていたので、サンタクロースが二人になったが、子供達は皆喜んでたので良しとしよう。
正月はお年玉持ってお見舞いに行ったら特別に面会OKにしてくれて皆で正月遊びをした。
二月に大雪イベントがFDであったので皆で大雪ダルマを作ったり、雪合戦をしたりした。
二月も終わり、三月に入って春の兆しが見え始めた頃、タカラ君は意識を失った。
読んで頂きありがとうございました。
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