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FUTURE DIVE  作者: 立鳥 跡
第一章 道化師
6/9

道化師 ⑤


まずは通販で道化師グッズを買ってみた。


 道化師の服に、ジャグリングボール、大玉、バルーンアート用の風船が家に届いた。


 とりあえずジャグリングからしてみる。

 子供の頃お手玉は得意だった気がする。

 FDでジャグリングしている時の感覚でボールを放ってみる。

 すると簡単にジャグリング出来た。

 玉数を四つ五つ六つと増やしていくが簡単にこなせてしまう。


 「なんだこれ?」


 大玉にも乗ってみる。二、三回乗るのに手こずるがすぐに乗れるようになった。


 乗りながらジャグリングもしてみた。

 ······出来た。

 バルーンアートも作れたし、パントマイムもFDと同じクオリティーで出来た。


 「······何でこんなにすんなりと出来るんだ?」


 まさかFDで出来る事なら現実でも出来るのか? いやいや、そんな事は有り得ないだろう。


 まぁ、気持ち悪さは拭えないが、現実でも大道芸が一通り出来る事がわかった。


 子供達に見せに行くか? 

 いや、子供達に見せる前に予行練習がしたい。


 市に電話して許可を貰い、家から少し離れた公園で大道芸をする事にする。

 ジョギングしている人やランニングしている人が居るぐらいの中々大きい公園だ。


 車に道化師グッズ一式を積んでやって来た。

 車の中でピエロのメイクをし、鼻に赤い丸鼻をつけてピエロの服に着替えれば道化師の誕生。

 家でメイクの練習をしただけあって悪くない。

 

 はぁー、緊張する。鬱病になってから人目を気にしてあまり外に出なかった。

 それなのにピエロの格好をして今から人前で大道芸をしようとしている。

 ハッキリ言ってめっちゃ怖い。今すぐに家に帰りたいぐらいだ。

 でもタカラ君達に現実でもピエロ芸を見せたい。

 

 勇気を出し、車から出る。

 車から積んでた荷物を出して、あらかじめ下見した場所へと向かう。

 やはりピエロの格好が目立つのかチラチラ人の視線を感じる。


 あ〜、怖い怖い。でもこれに耐えないと子供達の前でなんて披露できないぞ。


 大道芸をする場所は丸い噴水の前でする事にした。

 道具を地面に置き、お金入れも一応置いておく。


 まずはジャグリングから。

 六つのボールをジャグリングしていく。

 緊張はしてるけど上手くジャグリングできている。

 視線は感じるけど立ち止まる人はいない。


 なら大玉に乗ってのジャグリングならどうだ?

 おお、子供連れのお母さんが近付いてきた。

 お子さんはまだ三歳ぐらいに見える。

 パチパチと両手を一所懸命に叩いて拍手してくれる。

 そんな君にはこれだ!


 大玉から降りてパントマイムをしながら風船を取り出す。

 女の子だからウサギを作ろう。

 流れる様にキュキュッと作っていく。

 あっという間にウサギが出来て女の子は驚いている。

 そんな女の子にウサギをあげると大喜びだ。

 

 その様子を見て他の家族連れやカップル、ジョギングしていた人などが足を止めてくれる。

 間抜けなパントマイムをすれば笑いが起こり、大玉の上に片足で立ってジャグリングすればハラハラと息を呑んで見ているのがわかる。

 

 すべての芸を見せた後右手を胸に持っていきお辞儀する。

 すると大きな拍手の音が聴こえる。

 顔を上げるとそこには数十人のお客さんが居た。


 皆笑顔だ。自分の芸で笑顔になってくれる。

 それがこんなに嬉しいとは!!

 FDの中でもタカラ君達に喜んでもらって嬉しかったが、現実でもこの気持ちになれると思っていなかった。


 これならあと数回公園で芸すれば、病院でも上手く出来そうだ。




 次の日、午前中は公園で大道芸をし、午後からは家に戻ってFDの世界へと行く。


 今日もタカラ君達と冒険だ。

 いつものようにハルム広場の電子ポートで待ち合わせ。

 今日は大きな滝を見に行くらしい。

 皆ワクワクしている。

 電子ポートからアトモスにあるルーファ大森林に向かう。

 

 今日見せたい滝は大森林の奥地にあるらしい。

 先頭をヒュウガ君が歩き、殿をタカラ君が務めている。

 俺はというと真ん中で守られてます。

 ルーファ大森林のモンスターはレベル二十五からレベル三十までいるらしく、レベル十八の俺にはきつい。


 猿や鳥や蛇のモンスターが襲ってくるが子供達がやっつけてくれるので無傷。

 何もしてないのに経験値とドロップアイテムゲット。

 毎度情けない気持ちになるがお言葉に甘える。

 おかげでレベル二十になった。

 しばらくするとザーと水の流れる音が聴こえてきた。


 「もう少しですよお兄さん、ほら」

 

 タカラ君が指差す方向を見ると森が開けた場所に大きな滝から流れた水で出来た大きな水溜まりがある。


 大滝から流れ落ちる水で虹ができている。

 なんて壮大で神秘的な場所なんだ。絶対マイナスイオン出てるな。

 大滝に感動していると子供達はいつの間にか水着に着替えていた。

 

 「ユウおにいちゃん、いっしょにおよご?」


 浮き輪を着けたゆまちゃんがいつもの上目遣いで聞いてくる。 


 「水着を持ってきてないんだよね」


 「大丈夫ですよ、お兄さん。僕が持ってます」


 タカラ君が海パンを渡してくれる。


 ステータス画面を開き、装備欄でピエロの服から水着にチェンジ。


 「よーし、ゆまちゃん行こっか」


 「うん!」

 

 先にヒュウガ君、ミスズちゃん、リン君は水溜まりに入っている。  

 ゆまちゃんと手を繋ぎながら水の中に入る。

 うわっ!? 冷てぇ!!


 水の温度もそうだけど水の質感が本当に現実みたいに感じる。

  

 「ユウおにいちゃんそれ!!」


 浮き輪で浮いているゆまちゃんが水をかけてきた。

 

 「よーし、負けないぞ! それ!!」


 大人の力を見せてやると言わんばかりの全力でゆまちゃんに水をかける。

 

 「きゃ〜!!」


 ゆまちゃんは嬉しそうに叫んでいる。

 タカラ君も水かけに参戦し、俺対ゆまちゃん、タカラ君の構図になり完敗。

 

 


 ひとしきり遊んだ後、みんなでハルムの街に戻り、喫茶店で甘い物を摂取中。


 ゆまちゃんは苺パフェを笑顔で食べている。ヒュウガ君はチョコレートパフェをかきこんでいる。リン君は抹茶パフェ、ミスズちゃんはパンケーキを美味しそうに食べている。

 俺とタカラ君はショートケーキを食べている。

 苺の酸味と生クリームの甘さが良いハーモニーを奏でている。


 食べ終わると喫茶店の窓に夏祭り開催と書かれたポスターが貼ってある。


 「一週間後にハルムの街で夏祭りやるんだ」


 俺がポツリと言った言葉を子供達は聞き逃さなかった。

 

 「なつまつり〜?」


 「夏祭りなんて俺行ったことねぇ!」


 「······行ったことない」


 「私は一回だけ行ったことあります」


 「僕は家族で何度か」


 ゆまちゃんやヒュウガ君の期待の眼差しが半端じゃない。

 

 「でも夏祭りは夜にあるみたいだよ。皆は夕方までにログアウトしないといけないんじゃない?」


 ゆまちゃんとヒュウガ君は誰が見てもわかるぐらいガッカリする。リン君とミスズちゃんも残念そうだ。


 「病院の先生に行ってもいいか聞いてみます」


 「···わかったよ。病院の先生が許可をくれたら一緒に夏祭りをまわろう」


 子供達は先生に絶対許可もらうと意気込んでいる。


 まぁ、俺も子供達と夏祭りをまわれたら嬉しいけどさ。


 喫茶店を出たら子供達はログアウトの時間なので別れた。


 俺はまだ帰らない。

 ステータス画面を開く。

 今日で目標にしていたレベル二十になった。

 これで職業を変えられるのだが、俺は迷っていた。

 道化師の職業はハズレかもしれない。

 でも、道化師になったから子供達と出会えたのだ。

 俺が道化師をやめたらたぶん子供達は残念がるだろう。

 

 迷ったあげく結局職業を変えない事に決めた。

 別に強くなりたい訳でもないし、子供達の残念がる姿は見たくないというのが結論だ。

 


 

             ◆◆◆


 今日も現実世界で大道芸の予行練習をした。

 客受けは上々だ。

 人前にも慣れてきたし、そろそろ子供達に見せるのもいいかもしれない。


 タカラ君達の病院に電話し、大道芸を披露したい旨を伝えると快く許可をくれた。


 翌日の朝、車に荷物を詰め込み家を出発する。

 予行練習を何回かやり、だいぶ人慣れもしたから大丈夫だと思ったけど、病院に近づくにつれて緊張してきた。

 

 病院に着き、荷物を持ちながら受付を済ませ、小児病棟の空いてる病室を貸してもらい、道化師のメイクをして道化師の服に着替える。


 準備が出来たので、キッズルームへと向かう。

 看護師さんがあらかじめ子供達をキッズルームに集めてくれているので、キッズルームの扉を開けたら大道芸スタートだ。


 キッズルームの扉の前に着き、一度息を整える。

 大丈夫、予行練習はバッチリやった。俺なら出来る。行くぞ。

 己に気合を入れキッズルームの扉を開ける。


 扉を開いた音で子供達の視線が俺に向く。

 タカラ君達以外の知らない子供達もいる。どうやら他の病室の子供達も居るようだ。

 子供達だけで十五人程居て、看護師さんや先生、子供達の親御さんらしき人を入れると三十人程居る。


 思ったより人が居て緊張が高まるが大丈夫、やる事は変わらない。

 荷物を持ち、大玉を転がしながらキッズルームに入ると、「わぁ、ぴえろさんだ!!」「ユウ兄、ピエロの格好してる!」と子供達の声が聞こえる。中には、怯えている子供も居る。

 ピエロって怖いもんね、仕方ない。


 子供達の前にやって来ると、床に荷物を置き、子供達に向かってお辞儀する。

 まずはジャグリング。最初は三つ投げて、徐々に数を増やしていく。

 タカラ君、ゆまちゃん、ヒュウガ君、リン君、ミスズちゃんは目を輝かせて観てくれている。

 だが初見の子供達は怯えている子が多い。

 そんな子供達を夢中にさせる為に大玉に乗る。わざとバランスを崩しながら大玉に乗る。

 すると皆ハラハラして俺を見つめる。よし今だ。片足で大玉に乗りジャグリングをする。

 子供達の感情が驚きに変わった。大人からも驚きの声が聴こえる。

 流れは悪くない。このまま子供達の心を掴むぞ。

 パントマイムをしながらバルーンアートを作る。

 ほとんどの子供から怯えの感情は消えたけど、一番小さい五歳ぐらいの男の子はまだ怯えている。

 そんな彼に風船で作ったプードルをプレゼントする。すると嬉しそうな顔に変わる。


 他の子も風船を欲しがっているので皆にプレゼントする。もちろんタカラ君達にもだ。

 その後は間抜けなパントマイムで皆を笑わせてお辞儀をする。

 これでピエロショーは終了だ。

 頭を下げていると前方から惜しみない拍手が聴こえる。

 顔を上げると子供達だけじゃなく大人達も笑顔で拍手をしてくれていた。

 タカラ君達も笑っている。

 あぁ、この顔が見たかったんだ。

 こうして俺のピエロショーは幕を閉じた。


 ショーが終わるとタカラ君達が駆け寄ってきた。


 「お兄さん感動しました、凄かったです!!」 


 「ユウおにいちゃんすごかった! ゆまびっくりしたよ」


 「ユウ兄楽しかったぜ!!」

 

 「···凄い興奮した」

 

 「ユウちゃん最高でした」


 皆喜んでくれたみたいで何よりだ。

 他の子供達も近付いてきて、一番怖がっていた五歳の男の子は俺の足に抱きついている。


 子供達の親御さん達や先生、看護師さんも子供達の笑顔を見て笑顔になっている。中には泣いている親御さんも居た。


 アンコールの声を子供達からもらい、何度か芸を再披露した。


 その後、後片付けをしていると、看護師さんと子供達の担当医師が来てお礼の言葉とまたショーをやって欲しいとの言葉を頂いた。


 ピエロのメイクを落とし、ピエロの服から着替えてしばらくタカラ君達の病室で談話して病院をあとにした。


 ピエロショーの成功が余程嬉しかったのか、家に帰ると何か良い事でもあったのかと両親に問われるぐらい上機嫌に見えたみたいだ。

 もちろん、その日の夜は熟睡出来た。

 

 

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