道化師 ④
なんとかコウモリモンスターとのバトルに勝利したけど、まだ一回バトルしただけ。
自分的にはもう帰ってもいい満足感があるのだが……。
「よーし、この調子でガンガン行くぜー!」
「がんがん行くのー!」
年少コンビのヒュウガ君とゆまちゃんが元気に突き進む。
二人を追って進んでいくと六畳位の部屋に出る。
「あー、前方に宝箱発見だぜ!」
「はっけんだよ!」
本当だ。真ん中に宝箱。
「リン、お願い出来るかな?」
「……任せて」
タカラ君に指示されてリン君が宝箱の前で「探知」と呟く。
「……罠ないよ」
どうやら罠があるかどうか確認していたようだ。
リン君は斥候系スキルを持っているみたいだな。
「リン、ありがとう。お兄さん、罠無いみたいなので宝箱開けちゃって下さい」
「僕が開けてもいいのかい?」
「ここのアイテムは僕達にはレベルが低いですし、なにより今日はお兄さんを強くするのが目的ですから遠慮しないで開けちゃって下さい」
「そうかい? じゃあお言葉に甘えて開けさせてもらうよ」
宝箱を開けると、守りの指輪が出てきた。
早速装備した守りの指輪のおかげでDEF値が少し上がった。
「おかげで少し防御力が上がったよ」
「それは良かったです。それじゃあ奥へと進みましょう」
皆のおかげでその後も順調にモンスターを倒し、宝箱もゲットしていく。
力のネックレスや銅の鎧なども宝箱から出てきてステータスが上がる上がる。
あっという間にダンジョン五階までやって来た。
おんぶに抱っこ状態でここまで来た。
戦闘ではほとんど役に立っていない。
「お兄さん、ダンジョンは五階ごとにフロアボスが居るので今からフロアボス戦に突入するんですけど、攻撃は僕達にまかせて後方で回避に専念してくれてたら大丈夫です」
「了解」
何もできないのは情けないけど、ここで無理して突っ込んでもパーティの和を乱すだけだ。ここは子供達に任せよう。
タカラ君がフロアボスが居るであろう部屋の扉を開ける。
「ワオーン!!」
部屋の中央に人型の狼――ワーウルフが居た。
「挑発!! 僕がひきつけてるうちに皆で攻撃!!」
「「わかった」」
「フルブレイク!!」
ヒュウガ君が持つ大剣が赤く光り、ワーウルフに向かって赤く光った大剣を振り下ろす。
「らいとにんぐぼると!!」「···アローレイン」「ホーリーショット」
ヒュウガ君に続いてゆまちゃん、リン君、ミスズちゃんが必殺技技を放つ。
ワーウルフは簡単に消滅した。
レベル五十以上ある子供達にとってフロアボスといっても推奨レベル十から十八のダンジョンのフロアボスでは相手にならないみたいだ。
もちろん俺は何もしていない。なのにパーティに入ってるおかげで俺にも経験値が入りレベルは十五に上がった。
さらにワーウルフが落とした素材やお金も俺が全て貰った。
非常に申し訳ない気持ちだ。
「このまま最終階層の十階を目指しましょう」
「「了解」」
その後も順調にダンジョン攻略は進み、猛スピードで十階まで到達した。現在目の前には大きい豪華な扉がある。
「この扉を開ければダンジョンボスとの戦闘に入ります。ボスも大した事ないので僕達にまかせてください」
「うん、頼りにしてる」
タカラ君は扉を開ける。中央に居るのはデカイ鶏だ。
「皆コカトリスだ!! 速攻で行くよ!!」
「「うん」」
ダッシュでコカトリスに向かう子供達。俺は後ろで見学。
子供達の猛攻であっという間にコカトリスのHPは赤くなる。
残りHPが少なくなったコカトリスは目が赤くなり凶暴になるが、子供達はお構いなしに攻撃を叩き込んでコカトリスを瞬殺した。
十階に来るまでに倒したモンスターの経験値と合わせてレベルは十八まで上がった。
ダンジョンボスはレアな宝物を落とすらしく、開けてみると韋駄天のブーツが出てきた。回避率、移動速度が結構上がった。
今日の目標であるダンジョン制覇は子供達の力で瞬く間に終わってしまった。
ダンジョンボスを倒したらダンジョンから脱出する為のワープゲートが現れた。これを潜ったら電子ポート前まで戻れるみたいだ。
「ダンジョンも制覇したし、今日はこれで解散かな?」
子供達に尋ねると、子供達はニコニコしながら首を横に振る。
「実はこのダンジョンには隠し部屋があるんです。九階に戻りましょう」
子供達に付いていき九階に戻ると先程はなかった扉がある。
「この扉は?」
「ダンジョンボスを倒すと現れる扉です。開けてみて下さい」
タカラ君に言われて扉を開けてみると、そこは青空と白い花が一面に広がったとても綺麗な場所だった。
「どうですか? ここは僕達のお気に入りの場所なんです」
「きれいでしょ? ここね、ゆまだいすきなの!」
「へへっ、俺達の秘密の場所凄いだろ!」
「···日向ぼっこに最適」
「ユウちゃんをここに連れてきたかったんです」
子供達の言葉を聞きながらこの景色を眺めていると心が落ち着く。
「ああ、凄く綺麗だ。ゲームの筈なのに、甘い花の香りもするし、日の暖かさも感じる。最高の場所だね、ここは」
そう俺が告げると子供達は嬉しそうに笑う。
そっか、俺のレベル上げが目的じゃなくてここに連れてくるのが一番の目的だったのか。
たぶんここは子供達の大切な場所なんだろう。その大切な場所に俺を入れてくれた事が嬉しくて心が温かくなる。
最近は子供達のおかげで、鬱病でずっと無気力感を感じていた筈の俺は凄く世界を楽しく感じている。
この景色と子供達の笑顔を見ていると色褪せていた世界が再び色づいたみたいだ。
自然と涙が流れていた。
「どうしたのユウおにいちゃん? なにかかなしいの?」
ゆまちゃんが心配そうに見上げてくる。
「ううん、違うんだ。嬉しくて泣いちゃったんだ」
「うれしくてもないちゃうの?」
「うん、こんな素敵な場所に来れて嬉しくて泣いちゃった。皆、連れてきてくれてありがとう」
子供達は照れ臭そうに笑う。
その後、俺達は花畑で鬼ごっこをしたり、花冠を作ったり、日向ぼっこしたりした。
皆この空間を楽しんでる。普通の子供じゃたぶんこの青空と白い花畑の空間を楽しめないと思う。それよりもモンスターを倒す事に夢中になるだろう。
この子達だからこそこの空間を大切にできるんだと思う。
この子達は普通の子供じゃない。
平日の朝や昼間にもFDの世界に居るので、不思議に思いタカラ君にある日聞いてみた。
すると、この子達が重い病気に罹っていて同じ病院で入院生活を共にしている事がわかった。
FDには重い病気で現実の学校に行けない子の為の学校があるらしい。
タカラ君達は午前中に学校へ行き、午後はFDの色んな場所で遊んでいるらしい。
この子達はたぶん普通の子供達よりも辛い事を幼いながらも沢山経験している。
だからこそこういう素敵な場所を素敵だと素直に思えるのだろう。
俺はこの出逢いに感謝している。
だから現実でもこの子達に会ってみたいと思ったのかもしれない。
◆◆◆
子供達が入院している病院は都内にあり、同じく都内に住んでいる俺にとって通いやすい場所だった。
子供達にお見舞いに行ってもいいかと尋ねたら、二つ返事で快く了解の返事をもらった。
とりあえず、デパートでお菓子や玩具などのお見舞いの品を買って病院を訪れた。
受付を済まし、小児科病棟へと向かう。
小児科病棟のナースステーションで部屋を教えて貰い向かうと、そこには見覚えのある子供達がいた。
少し緊張して入るのを躊躇っていると、ベッドに座っていたタカラ君が俺に気付き笑顔を向ける。
「あっ、もしかしてユウお兄さんですか?」
タカラ君の声で他の子も俺に気付き笑顔を向けてくれる。
「あっ、いつものピエロの格好じゃないぜ」
「おにいちゃん、ほんとうにきてくれたの!」
「リンちゃん、ユウちゃん来たよ」
「···あっ、本当だ」
「ははっ、来ちゃったよ」
子供達の笑顔で緊張はすぐに解けた。
部屋は六人部屋で一つベッドが空いてるみたいだ。
「皆、お菓子と玩具を買ってきたよ」
「えっ、ほんとう?」
ゆまちゃんが目を輝かせる。
「うん、シュークリームと皆に玩具を一つずつ」
「えっ、ゆまのはな〜に〜!」
「着せ替え人形だよ」
「わぁ、ユカチャン人形だぁ」
「ヒュウガ君には剣の玩具だよ」
「おぉ、カッケー!!」
「ミスズちゃんにはテディベアだよ」
「くまさんですぅ」
「リン君は飛行機が好きって言ってたから飛行機のプラモデルだよ」
「···ブルーインパルスだ」
「タカラ君は本が好きって言ってたから児童書を三冊買ってきたよ」
「わぁ、お兄さんありがとうございます」
皆喜んでくれた様で何より。
「よし、キッズルームで遊ぼうぜ!」
ヒュウガ君はそう言うと慣れた手つきでベッドの横に置いてある車椅子に乗る。
車椅子で部屋から出ていくヒュウガ君を他の皆は足で歩いて追いかける。
一瞬固まってしまった。いつもFDの中では元気に走り回っているヒュウガ君だからこそ驚いてしまった。
「ヒュウガは生まれつき足か動かないんです」
気付いたらタカラ君が横に居た。
「ゆまは生まれつき重い心臓病だし、リンやミスズもあまり激しい運動はできないです。でも皆今を楽しんでるので笑顔でいてあげて下さい」
「······うん、そうだね。ごめん、ありがとう」
そうだ、ここで暗い顔をするのはこの子達に失礼だ。
「よし、ヒュウガ君達を追いかけよう」
ヒュウガ君達を追いかけていき、キッズルームで買ってきた玩具で一緒に遊んだ。
FDの世界の様に元気に動き回る事は出来なかったけど、この笑顔は確かに俺が知っている五人の子供の笑顔だった。ひとしきり遊んだ後、皆でシュークリームを食べた。
もういい時間になったのでそろそろ帰るとする。
するとゆまちゃんが俺の服の端を掴む。
「おにいちゃん、もうかえっちゃうの?」
ゆまちゃんが悲しそうな顔で見上げてくる。
「うん、でもまた来るから」
「ほんとう?」
「本当だよ。指切りげんまんする?」
「···うん、する」
ゆまちゃんは少しいじけながらも約束したら納得してくれた。
「じゃあまた来るよ」
「今日はありがとうございました」
「ユウ兄また来いよ!」
「···次はゼロ戦」
「このくまさん大切にしますね」
子供達と別れの挨拶を済ませて、部屋を出てナースステーションを通り過ぎようとしたら看護師の女性に声をかけられた。
「今日は子供達に会いに来てくれてありがとうございました。五人とも今日はピエロのお兄さんが来るって楽しみにしてたんですよ」
「そうですか、喜んでくれていたら嬉しいんですけど」
「喜んでるに決まってます。だってピエロのユウお兄さんの話を毎日話してるんですよ。最近は笑顔が増えてきた気がします。本当にありがとうございます」
「いえいえ、お礼を言うのは俺の方です。いつも子供達には元気を貰っていてだから少しでもお返しがしたかっただけなんです」
「そうですか。でもユウお兄さんのおかげで皆の笑顔が増えたのは本当です。だからまた来てあげて下さい」
看護師さんはそう言うとナースステーションに戻っていった。
帰り道電車に揺られながら考える。あの子達に俺が出来る事ってなんだ?
FDでならピエロの大道芸がある。だけど、現実では何も無い。
いやでも、あの子達との出逢いのキッカケを作ったのはピエロだ。
なら現実でもやってみればいいんじゃないのか?
出来るかどうかはわからないけどやってみるか。
そう心に誓いながら家路に着く。
読んで頂きありがとうございました。
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