道化師 ③
FUTURE DIVEの世界に来て一週間が過ぎた。
一週間路上パフォーマンスをこなしていたので、レベルは十三に上がった。
だけどただ今のスキルポイントは十ポイント。レベル六になった時点では十二ポイントあったのにその時よりも少ない。
何でかというと、初めてFDの世界に来た日、ハルム中央公園での路上パフォーマンスで出会った五人の子供逹が原因だったりする。
毎日見に来ると宣言した通り彼らは毎日会いに来てくれた。
毎日会いに来てくれると五人の子供逹の名前や年齢、性格もわかる様になった。
まず一番大きな男の子タカラ君は十二才で、まだ自身も子供なのに年下四人の良きお兄ちゃん。
二番目に大きな女の子ミスズちゃんは十才。のんびり屋さんだけど周囲を穏やかな空気にしてくれる女の子。
ミスズちゃんと同い年の男の子リン君。よくミスズちゃんと手を繋いでいる口数の少ない寡黙な男の子。
二番目に小さな男の子ヒュウガ君は八才。いつも元気なTHE男の子。
一番小さな女の子のゆまちゃんは七才。どんな事にも興味津々でタカラ君に一番なついている女の子。
仲の良い五人だが兄弟ではないらしい。
そんな仲良し五人組が毎日初心者ピエロの芸を見に来てくれるので、楽しませようと新しいスキルを取得していった結果、残りのスキルポイントが十ポイントという現在に至る。
新しく取得したスキルはパントマイム、バルーンアート、アクロバット、挑発、ナイフ投げの五つ。
貴重なスキルポイントを二十三ポイントも使って取得したスキルの内パントマイム、バルーンアート、アクロバットの三つは戦闘には役に立たなそうなスキルなのだが、挑発というスキルは、タカラ君が言うには戦闘で使えるスキルで、ナイフ投げは、自分がナイフを投げたい的に百発百中の命中率で当てる事が出来るスキルみたいで戦闘でも使えそうなスキルだ。
この一週間で子供逹五人組と仲良くなり、挑発とナイフ投げのスキルを取得した事を知った五人組が一緒にアトモスに行ってスキルを試してみないかと誘ってくれたので、今日は初日ぶりのアトモスに行く事となった。
前回の心細かった一人でのモンスターバトルと違い、今回はアトモスに慣れた子供逹がパーティーを組んでくれるのでちょっとワクワクしている。
それにFDの世界に来てから常時金欠状態なので、モンスターを狩りまくって金欠状態から脱出したい気持ちもある。
午後十三時にハルム広場近くの電子ポートで待ち合わせしているので、昼食を食べてから待ち合わせ時間の五分前に待ち合わせ場所に着くようにFDにログインする。
すると待ち合わせ場所には既に子供逹の姿が。
「もう来てたんだね? 待たせたかな?」
「いいえ、僕達も今来たところですユウさん。」
子供逹を代表してタカラ君が答えてくれる。
「そっか、今日はパーティーを組んでくれてありがとうね」
「おう! 俺達がユウ兄を強くしてやるからな!」
ニシシッと笑いながらヒュウガ君が声をかけてくる。
「うん、よろしく頼むよ」
ヒュウガ君と話していると自分の腹部に軽い衝撃が。
「ユウおにいちゃん、こんにちは!」
「うん、こんにちは。今日も元気だねゆまちゃん」
自分に抱きつきながら、顔を上げて挨拶してくれるゆまちゃん。
「ゆまね、ユウおにいちゃんとの冒険が楽しみだったから今日はお昼ご飯いっぱい食べてきたんだよ!」
褒めて褒めてとキラキラお目目が主張してくる。
「そうなんだ? 沢山食べれて偉いね」
「えへへ、先生達も褒めてくれたんだよ?」
嬉しそうにはにかんでいるゆまちゃん可愛い。
あまりにも嬉しそうなのでこちらも自然と笑顔になってしまう。
「ご飯ならゆまよりも俺の方が沢山食べたぞ!」
えへんと胸を張るヒュウガ君。
「ヒュウちゃんはいつも沢山食べてるでしょ?」
「……うん、いつも食べてる」
「なっ!? 言うなよっ!!」
今日も仲良さそうに手を繋いでるミスズちゃんとリン君から反論され顔を赤くするヒュウガ君。
今日もこの子達は元気だなぁと眺めていると、同じようにニコニコと四人の子供逹を見つめるタカラ君と目が合い互いに微笑み合う。
この子達と出会ってから毎日が楽しい。今日も楽しくなりそうだと思いながら子供逹と電子ポートへと向かう。
◆
アトモスへとやって来た自分達は現在あるダンジョンの一階にいる。
タカラ君によれば、このダンジョンはレベル十から十八を対象にした全十階の地下ダンジョンらしい。
レベルが五十以上のタカラ君達にとっては来る必要のないダンジョンだが、自分に合わせてこのダンジョンに来てくれたみたいだ。。
アトモスで最弱のモンスターであるスライムに苦戦した過去を持つ自分だが、今日はちょっとやれる気がする。
今は自分のレベルが十三になり、レベル五十以上の冒険者が五人もパーティーにいる。これだけでも安心出来そうだけど最初の頃の自分と違う点がもう一つある。
ぬふふっ、それは武器である!!
FDの世界の職業は、職業にあった武器や防具しか装備出来ない。例えば剣を買っても、剣を装備出来る職業じゃないと宝の持ち腐れにしかならないのだ。更に他のゲームの様にステータスに装備可能な武器の種類の情報が載っている訳でもなく、武器屋で装備可能か不可能かの判断も出来ない。実際に武器や防具を手に入れるまで装備できるかどうかわからないのだ。事前に判断するには攻略wikiを確認する方法しかない。
FDを始めた日に武器や防具位は装備しといた方がいいかなと思い、攻略wikiで道化師が装備可能な武器や防具を調べてみたけど、メジャーな職業の装備欄しかなかった。まぁSSS職業で不遇職業な道化師の情報がwikiに載ってない事の方が普通なのだからしょうがない。
そういう訳で道化師が何の武器を装備出来るかわからなかった為、今まで武器を買う選択肢はなかった。
だけど、ナイフ投げのスキルを取得した時に道化師はナイフを装備出来るんじゃないかと思い、昨日路上パフォーマンスを終えた後、武器屋にて路上パフォーマンスで稼いだ所持金一万七千六百二十ギル内で買えるナイフと全職業が装備可能と言われている革の防具一式を購入した。
装備した結果、革の防具は勿論のことナイフも装備出来たので、攻撃力も防御力も最初の頃よりもかなりアップした。(なお、革の防具を装備しても、見た目装備欄を道化師装備にしておけば、見た目の服装はピエロのままに出来るみたいなので、見た目装備欄には初期装備をセットしたままにしている)。
そのおかげで所持金はゼロに近い惨状になったが良い買い物をしたと思えば痛くない。これで今日の戦闘も楽になるに違いない。
装備を買った事を少し誇らしげに子供逹に告げるとタカラ君はなんとも形容しがたい複雑な表情をした。
「言ってくれればナイフ位いくつも持っていたのであげたのに」
「えっ? ……だけど、貴重な武器を恵んでもらうのは悪いし」
「僕達冒険で大量に武器や防具を手に入れてるし、アイテムボックスに眠っているナイフも使う予定のなかった予備の予備位の武器だったのであげるのは全然苦にもならなかったんですよ? 革の防具だって確かアイテム倉庫に眠っていた筈だし」
「そ、そっか~。なら貰えば良かったかな、あはは」
そんな~、貴重なお金が~。チャーシュー麺二十杯以上は頼めた筈のお金様が~。
「ユウおにいちゃん元気だして?」
落ち込んでいると自分の服の端をつかんでゆまちゃんが慰めてくれる。
「そうだぜ、ユウ兄元気だせよ! お金なんてこのダンジョンで稼げばいいんだし」
「そうですよ、ユウちゃん。いっぱい稼ぎましょ?」
「……うん、がっぽり」
ヒュウガ君、ミスズちゃん、リン君も励ましてくれる。
うん、そうだ。お金なんてまた稼げばいいのだ。それにめぐんでもらうのは大人として情けないし、これで良かったのかもしれない。
「……そうだね、ありがとう。よーし、頑張って稼ぎまくるぞー!!」
「「まくるぞー!!」」
子供逹と気合いを入れてダンジョンを進む。
するとコウモリ型の飛行モンスター三体とネズミ型モンスター三体を前方に発見。
「ユウさん、まずは僕達が戦いますので後方で見ててもらえますか?」
なるほど、手本を見せてくれる訳か。なら勉強させてもらうとしよう。
自分が頷き、後方に下がると、タカラ君が前方に行き、大楯と剣を出現させる。
すると大楯をモンスターに向けたタカラ君の右横にヒュウガ君が大剣を構えながら移動する。タカラ君とヒュウガ君の間の後方にはゆまちゃんが杖を構えながら移動し、ゆまちゃんの右後ろには弓を構えたリン君が移動して、ゆまちゃんの左後ろにはメイスを持ったミスズちゃんが移動した。
どうやらこれがこの子供逹五人組の布陣らしい。
タカラ君が「挑発!!」と叫ぶと、モンスター達がタカラ君に向かう。
タカラ君がモンスターを引き付けている内にヒュウガ君がネズミ型モンスターの内の一体を斬りつけ、ゆまちゃんが呪文を詠唱しだし、リン君がコウモリモンスター一体をやを放って消滅させる。
モンスターの攻撃をタカラ君が引き受け、ダメージを受けたタカラ君をミスズちゃんが回復魔法で回復させる。
呪文の詠唱を終えたゆまちゃんは杖から強力な炎の魔法を出現させコウモリモンスター二体とネズミモンスター二体を燃やし尽くした。
全く無駄のない統制のとれた動きだった。
よほど戦い慣れてなければこの動きは出来ない筈だ。それだけ五人で戦って来たのだろう。
五人の見事な連携に思わず拍手をしてしまう。
「ユウ兄、このくらいで拍手は大げさ過ぎるぜ?」
「いやいや、僕には凄くレベルの高い戦闘に見えたんだけど」
「それならタカラちゃんのおかげです。私達四人に戦い方を教えてくれたのはタカラちゃんですから」
「……タカラ兄さんは名軍師」
「へぇ、タカラ君は凄いんだね~」
「い、いえ、僕は他の四人よりもFDを始めるのが早かっただけですから」
顔を赤くさせて照れているタカラ君。誉められて恥ずかしがるなんて大人っぽいタカラ君にも子供らしい所を感じて顔がニマニマしてしまう。
「ねぇ、ゆまは? ゆまもすごい?」
誉められたいのか自分のズボンの端をクイクイと引っ張りながら見上げてくるゆまちゃん。
「ゆまちゃんも凄いよ」と誉めると満面の笑みを向けてくれる。はぁ~、癒される~。
「あのユウさん? 僕達の戦いを見てどうでした?」
「うん、流れる様な連携は見事としか言えない。あと気になった所があって。タカラ君が最初の方に叫んだ挑発って……」
「はい、ユウさんが新しく取得したスキルの一つと同じスキルです」
「そっか。さっきの戦闘を見てて思ったんだけどたぶん『挑発』って言うスキルは敵を引き付ける盾役専用のスキルじゃないのかな?」
「はい、その通りです。僕の職業は盾役上級職の聖騎士なので」
「ということは道化師の職業は盾役って事かな?」
「はい、おそらく。それも僕とはタイプの違った」
「タイプの違った?」
「はい。すみませんがステータスを見せてもらってもいいですか?」
了承しながらステータス画面を開く。タカラ君は覗き込むと「やっぱり」と呟く。
「やっぱりって何が?」
「あの盾役には二つのタイプがあるんです。一つは僕のような防御型のタンク。もう一つはフェンサー、テンプルナイト、アサシン、忍者の様な回避型のタンク。ユウさんのステータスを見させてもらったんですけど、AGI値が他のステータス値と比べて高いんです。なので恐らく道化師の職業は回避型のタンクだろうと思います」
回避型のタンクか。他のゲームで言うと玄人向けだったりするんだけど。
「もしかして回避型のタンクってFDでも玄人向け?」
「はい、FDの戦闘に慣れたアトモス上級プレイヤー向けのポジションだと言われています」
えっ? FDどころか他のMMOも深くプレイした事がない自分がそんな難易度高めな役所? 無理無理無理!!
「……僕には無理そうなんだけど」
「……とりあえず一回戦闘してみましょうか」
タカラ君がそう言うので戦ってみる事にしよう。
モンスターを探していると、先程と同じコウモリモンスター四体とネズミモンスター三体と会敵した。
戦いの布陣はタカラ君の指示で左前方にタカラ君、前方真ん中にヒュウガ君、右前方が自分。中央にゆまちゃん、左後方にミスズちゃん、右後方にリン君となった。
モンスターと会敵したら『挑発』のスキルを発動するようにタカラ君に言われていたので、「挑発!!」と叫ぶ。同時にタカラ君も「挑発!!」と叫ぶ。
するとネズミモンスター二体とコウモリモンスター二体がタカラ君の方に行き、残りのネズミモンスター一体とコウモリモンスター二体が自分の方に向かって来る。
タカラ君は華麗に大楯でモンスターの攻撃を捌いているけど、自分は攻撃を避けきれずHPバーが凄い勢いで減っていく。
「ヘルプミー! ヘルプミー! 死んじゃう~!!」
「今助けるぜっ!!」
「……助ける」
ヒュウガ君とリン君が一撃で自分を攻撃していたネズミモンスター一体とコウモリモンスター一体を倒してくれる。
「傷ついた仲間に癒しの加護をヒール!!」
更にミスズちゃんが回復魔法をかけてくれたのでHPが全回復する。
「ありがとう、ミスズちゃん!!」
半泣き状態でお礼を言うと「いえいえ」と落ち着いて笑うミスズちゃん。
その間にタカラ君はコウモリモンスター一体とネズミモンスター一体を剣で斬り払い撃破する。
そして呪文詠唱を終えたゆまちゃんの氷魔法の氷槍がタカラ君の所にいたコウモリモンスター一体とネズミモンスター一体を串刺しにして消滅させる。
残りは自分の所にいるコウモリモンスター一体だけなんだが、子供達皆攻撃するのを止めて自分を見守っている。
「えっ!? なんで皆攻撃してくれないの!?」
コウモリモンスターの攻撃を浴びているのに誰も助けてくれない。
「ユウさん、残り一体だけなんで攻撃を回避するチャンスですよ」
「ユウ兄気合いで避けろ!!」
「おにいちゃんがんばれ~!!」
「ユウちゃんファイトですよ~」
「……考えるな感じろ」
「う~、誰も助けてくれないなら自分で倒してやら~!!」
コウモリの攻撃を避けるのを意識しながら奴をナイフで斬り殺すのを決意する。
まずは避ける事に専念しよう。
今まではモンスターの攻撃が当たりそうになってから避けようとしてたから避けきれなかった。
ならモンスターが攻撃モーションに入った瞬間にこっちも避けるモーションに入ればいい。
やった!! ギリギリだったけど避けれた。
よしあともう一回避けてみよう。
さっき避けたのと同じように相手の攻撃モーションに合わせてこっちも避けるモーションに入る。
よし、また避けれた。
じゃあ次は避けた瞬間にコウモリにナイフを当てる。
攻撃モーションに合わせて避けてカウンター!!
ちっ、僅かにタイミングがずれた。
でも次は当てれそうだ。攻撃モーションに合わせて避けて今!!
「ギィッ!?」
「よし、当たった!!」
あとは避けて攻撃するを繰り返せば倒せる!!
思った通り避けて攻撃を繰り返し、コウモリモンスターのHPをあと一撃入れれば倒せる所まで減らした。
だがあと少しというところでコウモリは距離をとり、離れた所から超音波を飛ばしてきた。
「ぐぅ、この死に損ないめっ!!」
たいした攻撃ではないけどじわじわダメージを受けている。
近づいて攻撃しようとしても距離をとられるし、このままじゃヤバい。
かといってあとちょっとで倒せそうなのにここで助けてもらうのも悔しい。
せめてコウモリの様に遠距離からの攻撃手段があれば……あっ!
「ナイフ投げ!!」
叫んだ瞬間、コウモリに一本のナイフが突き刺さる。
そうたった今自分が投げたナイフだ。
そう言えばこのスキルを取得していたのを忘れていた。
「ギィィッ!!」
断末魔をあげながらコウモリは消滅する。
「……勝った」
戦いが終わると同時に子供逹が駆けつけてくる。
「やったじゃんユウ兄!」
「ユウちゃんお疲れ様です」
「……ナイスファイト」
「おにいちゃんたおせたね!!」
「ユウさんやりましたね!」
子供逹が労ってくれるなか、ギリギリの戦闘を終えたばかりで一言返すのが精一杯だった。
「なんとかね」
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