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FUTURE DIVE  作者: 立鳥 跡
第一章 道化師
2/9

道化師 ①


 あらかたのチュートリアルを聞き終え、ゲームナビゲーターに(いざな)われて目を開けるとそこは現実世界以上にきらびやかな世界だった。


 現実世界の都会と遜色ないほどの発展した町並み。

 だというのに澄んだ空気に緑が豊かな世界。

 それが電子世界FUTURE DIVEという世界である。


 FD(FUTURE DIVEの略)の事は情報誌やインターネットなどで知っていたが、空気の匂い、風の感触を感じれる程にリアルだとは思いもしなかった。

 それに平日だというのにログインしている人の数が多い。

 さすが世界人口の半分以上が住人と言われるだけある。


 しばらくFDの世界に浸っていると行き交う人の視線が自分に向けられている事に気付く。

 なぜ視線を向けられているかと言うと自分のアバターの格好がピエロの格好をしていたから。

 基本FDの世界では現実世界と同じ服装が好まれている為、変わった服装と言っても冒険者風の格好しか目につかない。

 そんな中こんな奇抜な格好をしていれば嫌でも目立つ。


 慌ててステータス画面を開き、服装を変えようと画面を弄っていると、「あの格好ってもしかしてピエロ?」「うわぁ~、職業道化師選ぶなんてあいつバカじゃね?」「いくらSSSレア職業って言っても不遇職って言われてるのにね」「あいつのFD人生終わったわ」などの声が耳に入ってくる。

 

 もしかして職業選択ミスった?

 装備変更をしようとしたけど、初期装備であるピエロの服以外服を持っていない為着替える事が出来ない。

 服を買いに行けばいいのだろうが、一文無しな為買いにも行けない。

 

 ……とりあえず服装を変えるのは諦めて、比較的人が少ない公園を探しだし、その公園のベンチに座り再びステータス画面を開いてFDの攻略wikiを検索し、特殊職業道化師について調べる。


 wikiによると特殊職業――道化師は、勇者や賢者などの職業と同じSSSレア職でありながらFDの世界において不遇職で有名なのだとか。

 なので普通は不遇職で有名な道化師が最初のチュートリアルで適職として紹介されても選ばないし、仮に選んだとしてもレベルを上げて職業変更できるようになったらすぐに変更するのだとか。


 レベルをいくつに上げたら職業変更出来るのか調べてみると、レベル二十で変更できるらしい。

 ただ最初のチュートリアルで初心者用の職業を選んでおけばその派生の中級職業を選べたみたいだけど、SSSレア職である道化師には派生職業が無い為、変更するなら初心者用職業である初級職業からしか選べないらしい。

 このFDで冒険者稼業をするならレベルが上がりやすい最初の職業変更可能のレベル二十が肝心らしく、自分はその最初に躓いたみたいだ。

 

 親に言われるがままろくに調べもせずにFDの世界に飛び込んだのは失敗だったらしい。

 先程耳に入ってきた「あいつのFD人生終わったわ」は、この事を言っていたのだろう。

 

 現実での人生で失敗し、気分転換に勧められた電子世界での人生にも早々に失敗してしまったらしい。


 始めたばかりでもう辞めたくなったが、自分を心配してくれた両親が勧めてくれた手前すぐに辞めるのはさすがにダメな気がする。


 「はぁ~」と大きくため息を吐き、とりあえずレベル二十までレベルを上げる事を目標にしてこの世界でもう少し活動してみる事にした。


 wikiによると効率的なレベル上げは二つあるらしい。


 一つは冒険者稼業。

 

 この電子世界FUTURE DIVEには当初RPG要素はなかったらしい。

 元々医療目的だったみたいなので当然かもしれないが、あまりにリアルなVR世界だったので、この世界でRPGがしたいとの要望が運営に大量に寄せられた為、後からゲーム要素を後付けしたとの事。

 その為、FDの世界には冒険する為の世界が別に用意されている。

 それがFD内ゲーム空間atmosphere――通称アトモスである。

 最も効率的なレベル上げはこのアトモスでモンスターを倒すことらしい。

 だがこのレベル上げには問題点がある。

 それは冒険者に適した職業以外の職業ではモンスターを倒すのに苦労する事。

 倒せない事はないらしいけど、相当苦労するらしいので冒険者職業以外の職業者はもう一つのやり方に自然と収まる。


 それが二つ目の職業に適した仕事をする事。

 

 どういう事かと言うとそのままの意味で、農家なら農業、漁師なら漁業、商人なら商業をすれば自然とレベルは上がる。

 だけど農家が漁業や商業をしてもレベルは上がらないし、それは他の職業でも同じ。

 唯一の例外がアトモスで、どの職業でもモンスターを倒せばレベルは上がるけど、冒険者職業以外はモンスターを倒すのは苦労するし、倒せたとしても冒険者稼業に適した冒険者職業者程に経験値はもらえない。

 それでも無一文の最初の状態でいきなり自分に適した仕事を始めるのは苦労する為、レベルを上げやすい最初の内はモンスターを倒せば素材とお金と経験値が手に入るアトモスプレイヤーになる人が大半だ。

 そして資金と、ある程度のレベルになったら自分達に適した仕事を始めるのが、冒険者職業以外の職業者が辿る道らしい。


 自分もその道を辿るとしよう。

 

 早速アトモスへ行く為にFD内の町には必ず一つは設置してある電子ポートへと行く。

 FD内に三つある初心者の町の一つであるハルムは人口も多く、大半がアトモスへと行くので、電子ポートはいつも混んでるらしい。

 この日も例外ではなく、数分程待つ事になった。

 自分の番が来て電子ポートの前まで行き、画面をタップし、自分のアバター情報を電子ポートに登録すると、電子ポート端末からポートキーというカードが出てくる。

 このポートキーを電子ポート端末のスキャナーにかざせば好きな場所に瞬時に移動できるというわけだ。


 アバター情報の登録に時間がかかった為、後ろの人が苛立って舌打ちをしている。早く移動した方が良さそうだ。


 さっそくポートキーをかざし、行き先をアトモスにして移動ボタンを押す。

 すると視界がブラックアウトし、数秒後視界が戻るとハルムの町と違い、やたら緑が多い木造の町並みが目の前に広がる。

 

 ここがアトモスの入口の町――オーフェみたいだ。

 チュートリアルで教えてもらったのだが、ここに着いたらまず行かないといけない場所がある。 

 それが冒険者ギルドである。冒険者ギルドの建物を見つけたので早速中に入って冒険者登録をする。

 中に入るとNPCの受付嬢に近付く。


 「ようこそ、冒険者ギルドオーフェ支部へ。受付を担当しておりますミーナと申します。何か御用でしょうか?」


 「はい、冒険者登録をお願いしたいのですが」


 「冒険者登録ですね。こちらの情報端末に手を触れてもらえますか?」


 タブレット型の端末に触れると、自分のステータス情報がタブレットの画面に反映された。

 ミーナさんは、タブレットを手元に持っていき画面を見る。


 「確認させていただきます。お名前はユウ様、職業は道化師で間違いありませんか?」


 「間違いありません」


 「かしこまりました。それではこのステータス情報で冒険者登録させて頂きます。冒険者ランクは最低ランクのFランクからのスタートになります。ランクはCランクまではギルドのクエストを一定量達成する事によって昇格します。Bランク以上は一定量のクエストを達成すると昇格試験を受ける資格を得ます。昇格試験の詳しい内容は資格を得た際に改めて説明させて頂きます。

 なお冒険者登録したばかりの方には初心者用の冒険者マニュアルを配布しております。レベル二十までの方を対象にしておりますのでご参考になさって下さい」


 「ありがとうございます」


 「なお、ご不明な点がございましたらいつでも受付に聞きに来てください。それではユウ様の冒険者ライフの安全を祈っております。いってらっしゃいませ」


 「いってきます」


 にこやかに見送ってくれる受付嬢のニーナさんに見惚れながら冒険者ギルドを後にする。

 FDのNPCには人工知能を搭載してるらしくその人間味はメディアなどでも度々話題になっていたけど、まさかここまでレベルが高いなんて。

 頭上に表記されている名前が白で表記されているプレイヤーと違ってNPCは青で名前が表記されているので一目でNPCだと分かるが、なかったら見分けがつかないぐらいNPCのクオリティが高い。

 

 電子世界の凄さに感動しながら受け取った冒険者マニュアルに目を通す。


 まずは初心者に最適なフィールドがどこか知りたい。

 

 え~と、オーフェの北門を出ると、オーフェ北街道に出るらしい。ここのモンスターはレベル一からレベル五までを対象にしたスライムやグレーラットというモンスターが出るらしく、初心者には最適みたいだ。

 よし、まずはオーフェ北街道でレベル上げだ。

 北門を出ると街道というだけあって道は整備されてるが、道以外の場所は辺り一面草原だ。

 モンスターは道から外れた草原に出るらしいので道から出て草原を探索する。

 するとポヨンポヨンと跳ねている半透明のモンスターを発見。

 おそらくスライムだろう。

 アトモスで一番弱いモンスターらしいので倒すのは簡単だろう。

 倒そうと近付いたのはいいが、そう言えば、武器って装備してたっけ?

 ステータス画面を開き、装備欄を確認すると、武器の所にボールが装備されていた。

 

 んっ? ボールを敵に投げるということか?

 さっそくボールを取り出し、投げようとするけど、投げれない。

 どういう事だ? 再度ステータス画面を開き、色々調べていると、スキル欄にジャグリングというスキルがあった。

 嫌な予感がしつつもとりあえずジャグリングとスキル名を叫ぶと、持っていたボールが六つに増えてスライムの前で六つのボールをジャグリングし始めた。

 

 えっ? これだけ?


 ジャグリングの所為で敵認定されたらしく、スライムが体当たりしてくる。

 幸い体がゼリー状な為一ダメージしか受けてないけど、HPが三十しかないので、三十回体当たりを喰らうと死んでしまう。

 慌てて、他の攻撃手段を探したら素手での殴る蹴るが可能みたいなので必死に殴る蹴るを繰り返した。

 スライムは打撃に強いみたいで中々死なず、スライムの体当たりを二十七回受けた頃ようやくスライムのHPを削り終えた。

 だがスライム一匹倒して得た物は十ギル(日本通貨でいう十円)とスライムの液体というアイテムと経験値バーの十パーセント分の経験値だけ。

 レベル二に上げる為にはあとスライム九体倒さなければいけないのだが、スライム一体倒すのに瀕死状態。

 ああ、道化師って本当に不遇職なんだ。

 最弱の筈のスライムに殺されかけるとは思いもよらなかった。

 幸い十秒に一ポイントHPが自動で回復するみたいなので、道に戻り、HPが三十に戻ったら草原に入りスライムを倒すを九回繰り返しなんとか経験値を貯めると軽妙なゲーム音が頭に響く。

 

 あっレベルが上がったんだ。

 ステータス画面を確認するとやっぱりレベル二に上がっており、あとスキルポイントなるものが三ポイント増えていた。

 確かチュートリアルでスキルポイントの説明も受けたな。

 スキル欄を確認すると取得可能スキル欄なるページがあったのでタップし開くと、ずらっとスキルが並んでいるが、ほとんどがまだ取得不可能なのか暗く表記されてる。だが、一つだけ明るく表記されていてスキル三ポイントで取れるスキルがあった。

 それは玉乗り。

 ……これは取らない方が良さそうだ。どう考えてもジャグリングと同じで役に立ちそうにない。

 スキルポイントは、レベル二十になって職業を変えるまで使わない方が良いかも。

 ということはしばらく殴打でモンスターを倒さないといけないということだよな?

 

 なんとかレベル三に頑張って上げたが、上げるのにスライム三十匹倒さなければならなかった。

 レベル二に上がった事により多少はスライムを倒すのは楽になったが、それでも死にかけるのは相変わらずでレベル三に上げて思った事はモンスターを倒してレベルを上げるのは道化師では無謀だということ。

 なのでモンスターを倒してレベル上げはここらで諦めます。


 ちなみにレベル三に上げるまでに手に入れた物は、四百ギルとスライムの液体三十七個、スライムの核三個、スキルポイント六ポイント。

 冒険者ギルドで素材の買い取りをしてるらしいので持っていくと、スライムの液体一個十ギル、スライムの核一個五十ギルで売れて、合計で五百二十ギルになり、全財産は九百二十ギルになった。なんだか虚しい。

 

 レベル三に上げるまでに二時間かかったんだが、手に入れた物と苦労はちゃんと等価なのだろうか?



 読んで頂きありがとうございました。


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