プロローグ
子供の頃は大人になったら楽しいんだろうなと勝手に思い込んでいた。
なってみるとなんて間抜けだったんだろうと思う。
大人になって社会に出れば理不尽の連続。別に大学に入ったのも大手保険会社に入社したのも条件が良かっただけ。
すぐにメッキが剥がれた。
ああ、自分にはこの世界で生きていく資格などないのだと。
うつ病になって会社を辞めた。
表向きいい人を装っていても裏では自分の悪口を言いまくる集団。
上司も上司で能力じゃなく、いかに自分に媚びを売ることが出来るかで部下を見ていた。
仕事はたくさんあるのにそういう奴らに限って簡単な仕事だったり、評価に繋がりやすい仕事を選んでいた。
真面目なやつはどんどん辞めていった。
自分も辞めたかったけど辞めたら負けな気がして無理したら、眠れなくなり、食事も摂らなくなり、仕事中に倒れた。
うつ病と診断された後、会社の上司が高価なお見舞い品を持って見舞いに来て、退職するなら依願退職の形をとって欲しいとの事だった。
皆が嫌う仕事ばかり押し付けられてそれでも我慢した結果がこれか。
上司の言うがままに依願退職の形をとり、退院するとリストカットしていた。
運が良いのか悪いのかたまたま、父親が自分が住んでるアパートを訪ねて来たおかげで命はとりとめた。
しばらく入院した後、父からアパートを解約してしばらく実家で暮らせと言われた。
通院以外では何もする気力がなく、しばらく実家でボーッとしていたら父と母からFUTURE DIVEというVRゲームをやらないかと誘われた。
何でもこのFUTURE DIVEは、正式的にはゲームではなく日常生活を送るのが困難な人の為に作られた医療機器らしい。
ゲームに疎い俺だって名前は聴いたことがある。
今やもう一つの世界と言われている程利用者が多いとか。
別にやることもないし、誘いにのった。
このFUTURE DIVEをやるにあたって、他のVRゲームと違う所がある。
それは髪の毛一本と二、三枚のアンケートを書き、FUTURE DIVEを運営している会社に送ること。
なんでも遺伝子とアンケートによる性格診断で自分に向いた職業を教えてくれるらしい。
髪の毛一本とアンケート用紙を送って二週間後にFUTURE DIVEのVR機器が手元に届いた。
早速VR機器を頭に被る。
そして電源を入れる。
――ブォン。
『ようこそFUTURE DIVEの世界へ。FUTURE DIVEをするにあたってのお名前を教えて下さい。』
名前かぁ。本名の藍田 優を名乗るは嫌だし、でも面倒臭いからユウにした。
『ユウ様ですね。ではまずFUTURE DIVEがなぜできたのか説明させて頂きます。FUTURE DIVEは、日常生活をおくるのが困難な人の為の医療機器として開発されました。日常では、歩いたり走ったり出来ない人も、目が見えない人も、耳が聴こえない人も味覚がない人も、臭覚がない人もそして意識がない所謂植物状態の方も自由に生きることが出来る世界。
それがFUTURE DIVEの生い立ちです。
今ではFUTURE DIVE内で仕事をしている方も多く、もう一つの世界――電子世界とも呼ばれています。
その為、使用者様によりFUTURE DIVEの世界を楽しんでもらう為に使用者様の遺伝子と性格で使用者様に向いた職業を提案させて頂いております。
それではユウ様に向いた職業を提案させていただきます。
あなた様に向いた職業は、道化師です。
おめでとうございます。ピエロは特殊職業です。もちろんこちらのカタログから初心者用の職業も選べますがどういたしますか?』
カタログを開いてみる。職業、剣士、戦士、魔法使い、聖職者、商人、鍛治職人、農家、漁師など普通のゲームとは違いリアルの職業もあるのか。
……せっかくの特殊職業だし道化師にする事に決めた。
『職業は道化師でいいですか? Yes Or No』
Yesを押すと、白かった世界が色づき始める。
『それでは良き人生をお送り下さい』
読んで頂きありがとうございました。
面白いと思ってもらえたならブックマークと評価をお願いします。つけてくれたら作者の励みになります。