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改造人間の異生物狩り  作者: 七刀 しろ
30/50

暗闇の中に

春なのに雪降るなー

 俺は暗闇の中にいた。

 何もわからない。何も考えることができない。自分が何者か、どういう存在か、忘れてしまった。

 何か大切な物が近くにあったのに何もかも思い出せない。

 無駄に暗闇の一点を見つめる。


 あそこに何かあるみたいだよ?行かないの?


 暗闇の中に何かあるのかは思考が停止した状態で誰かの声が聞こえた。

 そんなことはもはやどうでもいい。何かに流されて暗闇の中を漂う。

 何かを考えようにも頭の中が押し流れていく感じがする。何もかも全部無くなってスッキリした頭で声を聞く。


 もう諦めちゃうの?もったいないな。君が見ていない物がいっぱいあるんだよ?それでいいの?


 更に声が聞こえた。

 声が何を言っているのかわからない。理解しようにも考えることができない。なら諦めるしかない。


 諦めるのは君の勝手だけどいいの?三人がピンチなんだよ。


 声が続ける。


 だからさ、起きなよ?三人が待っているよ?

 それでも寝たいなら好きにしなよ?君の身体なんだからさ。

 もったいないと思うけどここからは君が決めることだからこれ以上言うのは野暮なんだから。

 あっ、でもあそこにある光る物にところまで行けば君が欲しいものが手に入るよ?行ってみたら?

 あれ?動けないの?しょうがない子だな。それでも一夜と宮森ちゃんの教え子なの?

 連れていって上げるよ。


 暗闇の中を川に流されているみたいに押し流された。前に進んでいるのか、上に上げられているのか、左に向かっているのか。はたまた、止まっているのか。

 いつの間にか光の中に包まれていた。


「ゆ、雪さ?」

「うっ?眩しい?」


 眼の前が抉られるほど眩しい。そして唸り声がうるさい。


「雪さんが目を覚ましました!」

「よかった。雪くん歩けそう?」

「ヒョウちゃんいきなり倒れた人に対して言うセリフじゃないよ。そこは優しく大丈夫でしょ」

「眼が覚めたんですからそれでいいじゃないですか。でもこの状況は変わりませんよ」


 ぼやける視界には周の顔が入ってきた。

 少し気を失っていたようだ。何か変な夢を見ていたような。暗い中で川に流されている夢を見ていたがそれだけしか思いだせない。小さい時に川で溺れた時の夢を見ていたのだろう。


 覚醒した意識で辺り見渡す。状況は俺が気絶(?)する前と変わらず、俺達はゾンビに囲まれている。

 月希が銃で近づくゾンビを撃ち抜いて怯んだところを雹が肉片に変えて、肉片に変えても向かってくるゾンビの肉片を周が殴り踏みつけて、そして投げる。

 周は体力は無いが肩の力があるようで遠くに飛んでいく。

 先ほどまでゾンビを怖がっていた周とは思えない行動だ。こんな状況だから我が儘を言ってられないと思うけど。

 先生とはまだ合流していないみたいだよ。


 俺達もこんな状況だから先生もゾンビと戦っているのかもな。


「随分と迷惑かけたみたいだね」


 気を失う前と比べて身体が軽い。頭の中がスッキリして目の前の状況がスポンジのように入ってくる。

 目の前の敵を倒してから先生を探してみよう。


 光と金を混ぜた玉を作り出してゾンビ目掛けて飛ばす。玉は数体のゾンビの頭を超えて玉から無数の針が飛び出た。

 針はゾンビの身体をモールの床に貫い付けて動きを封じた。


「動きを封じたんですね。凄いです。雪さんがゾンビを止めている間に残りを倒しちゃえば」

「片付くね☆動く的から動かない的にご覧の通り変わったね」

「どっちにしろゾンビなのは変わらないわ。倒してどこからともなく湧き出るから動きを止めるのは労力が減るわ」

「それだけじゃないんだよね。こんなことだって出きるようになったんだ」


 突如俺は頭にスーッと浮かんだことを試してみた。

 玉を操作して、針が刺さったゾンビの身体が光と金に変わっていく。


「ヴァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー」


 光と金に犯されて鈍い動きしかできなかったゾンビが更に動きが鈍くなり、おぞましい声を上げながら完全に動きが止まる。数体の光と金のゾンビ像が完成した。

 ゾンビ像が刺さった針に吸収されて消える。

 命名して光金玉と呼ぼう。


「何よ?これ?」


 雹のリアクションが面白かったがゾンビの量が多すぎてかまっていられない。

 月希と周もポカンと固まっていた。


 ゾンビを吸収した針を球体に戻して、次のゾンビ達を先ほど同様に光金玉の餌食にする。

 玉はゾンビ達を吸収すればするほど大きくなっていくがどうでもよかったのであまり気にしなかった。


 ゾンビはゾンビで頭が空っぽで仲間が光金玉にやられても俺達に向かってくるがポカンとしていた月希が弾雨を浴びせられていた。

 ゾンビに銃弾を浴びせている月希も凄いけど。


 そのあとはゾンビを片付ける作業化した。ゾンビを全部吸収した玉は直径4メートルの巨大な玉になっていた。


「そんなにあっさりゾンビを倒しちゃいましたね。あんなに逃げ回ってピンチになりましてけどよがったですよ~」

「それより凄いよ。ユッちゃん。一事はどうなるかと思ったけど復活してよかったよ。それであの技どうやって覚えたの?」

「目が覚めた途端頭の中にあれができるアイディアが浮かんだんだよな。不思議なことにな」


 後ろから抱きつきてきた月希に光金玉の説明をした。

 光金玉のアイディアは気を失っている間、夢を見ていたことに関係していそうだけどもうどんな夢を見ていたか思いだせないや。


「で?この玉どうするの。元はゾンビなのよ。放置したらまたゾンビに戻るかもよ?」

「そうだな。ん?」


 雹の疑問に頭を抱えたがすぐさま解決策が頭をよぎった。よきったというよりまた急に思い付いた。

 玉に向かって消えろと念じればいいと。

 すぐさま実行したら玉が何も残さずに消えた。多少足元にはゾンビの肉片が足元に残っているがあれくらいは残っていても問題ないだろう。

 裸足やサンダルって訳でも無いし、踏んで潰しても気持ち悪いぐらい元気にもぞもぞ動く放置でいいだろう。

 塵も積もれば山となる方式で肉片が集まってゾンビになるかもしれないけど。また襲いにきたら月希の銃弾と雹の刃を食らわせてやる。


「なぁ。雹が抱いているのってどこで見つけてきたんだ?」

「あれね?ユッちゃん達を探している間にであったんだ。あの子かわいいよね」


 雹はミケの子猫を抱いていた。ゾンビとの戦いでも雹はその子猫を抱きながら片手でゾンビを切っていた。

 合流した時に片手でゾンビと戦かっていたわけだ。


「この子ここで一人で鳴いていたのよ」

「ここで?」

「そうよ?私達みたいに迷い込んできたのかしらね」


 いやいや、元の廃モールならまだしもここにいたんならメテオって可能性があるだろう。

 襲ってこないところを見るとただの子猫なのか?俺達と同じようにこんな場所に迷い込んでしまったのかはわからない。

 学園に連れていって調べれば何かわかるだろう。


「うわぁ。ちっちゃくてかわいいですね。抱いていいですか?」

「一段落したし、いいわよ。逃げないようにしっかり掴んでね」

「あー!アマネンずるいよ。次はルイだよ!」

「拍子抜けするな。さっきまでゾンビに囲まれていた上にピンチだったんだぞ。気を抜いていたらまた襲われるかもしれないんだぞ」


 こんな間の抜けたやり取りをしながら俺達は 歩き出した。自分達がどっちからきたのかわからない。出入口はどこで、俺達が死ぬ思いをしている間に先生は何をしているのだろうか?


「ユッちゃんは抱っこしなくていいんだ。こんなにフワフワなのにもったいなーい」

「今はいいよ。こんな状況なのにそんなこと言えるな。猫を触っている間に出口を見つけて欲しいんだがな」


 辺りはモールの床で奥は暗くて見えない。目印さえ無いこんな100%迷うのが確定している場所でどうすればいいのか。不安に胸を膨らませている。今の俺は女だから胸は膨らんでいるけど。


 どの方向が北だったかはもはやわからない。建物の中では東西南北なんて些細な問題程度。

 問題なのは出口のありかだ。目に入るのは床と闇ばかり。後ろでは猫可愛がりをしている女子二人。

 雹は俺の後ろにべったりくっついている。


「雹さん?鬱陶しいから離れてもらえませんかね」

「呼び捨てでいいわ。何度も言わせないで」

「そんなことはどうでいいんだがな、俺は離れて欲しいんだ」

「どうでも良くない。それに私がこうしているのは雪君がまた倒れるかもしれないからこうしているだけ。だからフラッとしたら私の胸に倒れてきてもいいわよ?」


 無い乳にな。俺の方がでかいからいつでも揉めるようになったから乳のありがたみが実感がなくなった。

 一回しか自分の胸を揉んで無いが、こんなもんかって感だった。


「雹、ちょっといいか?」

「何?また倒れる?それとも私が雪君の胸に飛び込んでいいの?」

「そうじゃねぇ。あの子猫家で飼う訳じゃないよな?ここから出たら里親を探すんだよな?」

「えっ飼わないの「ですか」?」


 悲しそうな目がこちらに向いた。


「飼うにしても誰が世話をするんだよ。俺はやらねえぞ」

「いいじゃん。ルイが一生懸命お世話するから」

「そもそも、俺達が住んでいる家は学園の物だから飼えるかどうかわからないぞ?」


 正確には異空間にできた小部屋のような物って言っていたような気がするが、まどろっこしいからいいだろう。中は豪邸みたいなもんだし、家と言っても差し障りは無い。

 あの家に住まわしてもらっている身の上なのに無断で猫を飼ったら追い出されても知らないぞ。連帯責任で追い出されるのは勘弁だ。

 こんな体になって帰る場所まで失うのは最悪のだ。叔父から借りた一軒家に隠れながら暮らすしかないだろう。不定期だが男に戻れることがわかったから今度男に戻ったらまだ住めるか聞くために叔父さんのところに訪ねた方がいいのかもな。


 しかし、こんな生活が始まったから心身が疲弊する。愛らしい小動物を飼うのはいいのではないのか?

 疲れた心をモフモフで堪能して癒してもらうのも悪くないな。

 この一見が終わったら先生に打診してみよう。


「悲しそうな顔をするな。嫌だとは言っていない。俺は飼うことは反対しないが月希達はまずは先生に聞くこといいか?」

「ユッちゃん!」「雪さん!」

「先生がダメと言ったらダメだ。それだけは分かれ。里親を探すのは手伝ってやる」


 子猫の話はついた。

 俺が反対しないとわかると月希と周が子猫の名前について話し合っている。まだ飼うことは決まっていないのにせっかちな奴らだ。


「もしかして雪君も抱っこしたかった?」

「決してそんなことはない。里親を探すのがめんどくさいって思っただけだ」

「ウフフ。素直じゃないのね」

「うるさいな。早く先生を探してメテオを倒すぞ。そして帰って寝るんだ」

「あっ、待ってください」

「アマネン、急に走り出すと子猫が落ちちゃうよ」


 雹のからかいをスルーして暗い闇の中を進む。

 闇の中を進むのはいいが一向に出口に近付いている気配がない。しかし、今までにいたゾンビ達がいなくなったことによって進みやすくなったのはいいことだ。

 壁や天井が無い不思議空間は光の玉を出しても俺達の回りだけしか照らさないし、言わばゲームのダンジョン似ている。

 本当にゲームのダンジョンみたいに要り組んでいる訳ではないが、出口を求めて歩き回ってエリア内にいるゾンビとエンカウトして倒すことだけが似ている。


 一時間ほど真っ直ぐ歩いてきたが本当に何も無い。一時間も歩けば廃モールの敷地内から抜け出しているはずだが、床は変わらずモールの床だ。景色も変わらないでいる。

 改めて考えてみるとダンジョンよりゲームのバグで入り込んだ裏世界と表現した方がぴったりしているだろう。

 だが、ここは現実であり、長時間歩けば腹が減り、疲れが出てくる。ゾンビ達との戦闘で俺達は満身創痍と言っても過言ではなかった。

 俺達の中で一番明るい月希は無理に明るく振る舞っている。周もつらそうな表情が見られる。雹の奴は表情が見てとれないがきっと疲れているはずだ。一番ゾンビ達と戦っていたのだから。

 俺は少しだけ疲れがあるものの先程気を失っていたからか頭がスッキリしていた。こんな体だから長距離を走るのは無理だがな。


「やっぱり何かに見られている。ような気がする」


 更に二時間ほど歩いて雹がそんなことを口走った。

 俺は光の玉を複数解き放って辺りを見回したが先程のゾンビどころか影さえ見当たらなかった。こんな状況だ。疲れがあらわれて気でも狂ったのだろう。


「何もいないぞ?少し立ち止まって休もうか?」

「いえ、何か本当にいるの。ずっと私達の後を追ってきているから気を抜かないで」

「やっぱり?ヒョウちゃんも気づいていたのね。みんな何も言わないからルイの気のせいだと思っていたよ。でも姿が見えないよね」


 俺と周が顔を見合わせた。

 俺達二人が気づいていなかったようだ?だが、回りには形も影も無い。隠れる場所すらないこの謎空間は何かいればすぐに発見できるはずだ。

 相手はメテオだ。空間を歪め、姿を隠したまま俺達を監視する芸当が出きるかも知れない。


 俺達の監視している奴はいつでも俺達を襲おうと思えば襲えるだろうけど山ほどいたゾンビを一掃した俺達にビビって襲うことができないのだろうか?それか襲うタイミングを見計らっているのだろうか?

 それがわかったところでどこにいるのかわからないから俺達は監視している奴に手を出せない状況は変わりしない。


「うーん、銃を撃ちまくればひょっこり出てくるかな?」

「炙り出す作戦ですね。いい考えではないでしょうか?メテオもビックリして出てくるかもしれませんね」


 炙り出すにしても空間を自由に操れる化け物相手に銃をブッパするのは意味がないと思うのは俺だけだろうか。それどころか流れ弾が俺達に当たれば負傷者が出るぞ。


「ちょっ、危ないですから暴れちゃダメですよ」


 周が抱き抱えていた子猫が急に暴れ出して、周の腕から抜け出した。


「いっちゃいました。追いましょう。またゾンビが現れてもおかしくありません。小さな子猫はメテオにとっていい獲物だと思いますから危険です。すぐに食べられますから追いましょう」

「ミケー!どこに行くのー?一人でいちゃ危ないよー。待って」


 ミケーって子猫の名前か。月希、三毛猫にその名前は安直って言うか。飼うことだって決まってないのに。もう決めたのかよ。

 周の言う通り、小さな子猫はメテオにとって弱々しいご馳走だ。ゾンビみたいなメテオと遭遇すればすぐに食べられる可能性がある。


 月希と周は子猫の後を追ってしまった。

 ここで二人とはぐれてしまったら先程の二の舞だ。さっきはゾンビを一掃したからとっ言ってこの後もゾンビが出ないなんて確証がない以上二人を追うしかない。


「雪くん、私達も追いましょう。このままだとはぐれちゃうわ」

「そうだな。二人には後で説教しないといけないな。もう日が暮れているのに今日は長い道のりを歩くわ走るわで足がパンパンだ」


 学校での勉強疲れが残っているのにゾンビに追われて走って三時間ほど歩いて散々な日だよ。いっそのことここのボス的存在が現れてくれればいいのにな。

 月希達も猫の心配するよりも自分達の身の心配を優先してもらいたいものだ。数時間ゾンビが現れていないことで気が抜けているなと思いながら子猫を追った月希と周の後を雹と共に追った。


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