第六話 魔法
レイシアが不思議そうに顎に手をやる。
「闇の国は、魔王しか魔法が使えないんでしょ?お友達も使えるんですか?」
その質問に、マオはニヤリと笑って両手をフィアとスイに向けた。
「今のままでは使えない」
「マオ様が力を、授けてくださるから」
2人は嫌がることもなく澄ました顔をしていた。
闇の国で恐ろしく、街を壊すようなことをするのかと思いきやそうではなかった。
真っ黒な髪と瞳、服やローブがまるで悪魔になりきっているようにも見えた。
「俺は魔王だ、見てろ」
マオがそう言うと、二人の体をぽつぽつと黒く淡い光が囲う。
誰かが悪魔の儀式だ、と呟いた。
事情を知らなければそう見えるだろう。
淡い光は、それぞれひとつにまとまった。
周辺に風が吹く。二人の髪だけ、舞い上がる。
光は二人の鳩尾のあたりをめがけて移動する。
すぅっと体内に吸い込まれるように入っていく。
その様子を、ユウ達は食い入るように見つめた。
感嘆の息を漏らす。瞬きも忘れるほどだ。
まるで異世界の人間が目の前にいるようで、闇の国は本当に同じ世界にあるのかすら疑問に思った。
「これは魔力の分断だ。誰かに貸した分、自分の魔力はその分減る。
一定時間経てば二人は魔法が使えなくなる。
そしたら二人に分けていた魔力が俺のところに戻るんだ」
マオはふぅと息を吐いて、ぶらりと手を下ろす。
額から流れた汗を、フードを一度かぶって拭うようにぐしゃぐしゃ動かすと、再び外した。
誰かに魔力を与えるのは、それほど簡単な魔法ではないことがわかる。
「これで俺の魔力が十だとすると、二人には三ずつ与えた」
「お、俺にも魔力くれたりできんのか」
ナツメは目を輝かせてマオに聞く。
ナツメはユウが勇者と讃えられるのはいいが、ナツメには力や強さが無いことに内心嫉妬を覚えていた。
なぜただ優しく細身なユウが勇者になれて、俺にはなれないのか。
まだどこか冒険に行ったり、ヒーローになれるような人助けをするなどの行動を実行に移したこともないのに、ナツメは憧れだけを抱いていた。
マオは少し眉を潜め、困った顔を見せる。
「これ、闇の国の住人で俺と昔から親しい人だからできるんであって、正直会ったばかりの人は難しいと思うんだよなぁ。……あ、ユウは別だぜ?血の繋がった兄弟だし」
やれないことはねぇけどと言って、ナツメはそれでもと真剣な顔で頼む。
「いいけど耐えろよ」
「耐えろ?……っ」
ナツメが言葉の意味をわからないでいると、マオは右手をナツメに向けた。
ナツメは目を剥き、口を開けていた。
異様ではない光景。気がつけば周りは誰もいなかった。
ユウたち、六人だけの世界のようだ。
「ぐ、ぁ」
ナツメは跪いた。
胸元をおさえ、うずくまる。
その様子に落ち着けなくなり、ユウはマオの方を厳しい顔で見る。
友達が、死んでしまうと言うように。
マオはそれに気づいて手を下ろした。
「だぁから言ったろ、耐えろって」
「きぃ、て、な……っ」
ナツメは激しく息を吸っては吐く。
体内の空気を一掃するように。
マオはフンと目を細め意地悪く笑い、ナツメに手を差し伸べた。
ナツメはその手を振り払うと、一人でよろよろと立ち上がった。
「んで、こんな苦し……」
「まだ落ち着かないみたいだね。いいよ、教えてあげよう」
フィアがマオを守ろうとするように移動して言った。
「光の国の奴らは全てが綺麗だ。国も、人も、性格も、精神も。だが闇の国は全て黒く汚い。
そんな汚れのない光の国に住む奴に、黒く汚い──光を知らない闇を取り込む。それは苦しい」
「じゃあ、闇の国に住む人たちも万が一光の国が魔法を使えて、光を取り込むとしたら」
「国は滅亡するか、光の国に明け渡して再び国を作るだろう」
それなら闇の国に色をつけるなんて無駄だ。
ナツメは少しでもそう思ったが口にはしなかった。
静寂をやぶるため、ユウが口を開く。
「そろそろ帰ろうか」