第五話 マオの頼み
「いやその前に自己紹介だ。俺はマオ。ユウの双子の兄だ。」
もう、皆分かりきっていることを言ってナツメの前の男の肩に手をやった。
「こいつがシェラ、この女がスイだ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
シェラは会釈をし、スイはか細い声で挨拶をした。
闇の国の人間についてはよく知らないが、何か怪しいものが取り憑いてる雰囲気だ。
次はこちらの番。
僕はマオの双子の弟、ユウで、このふわふわ髪の子がレイシアで、金髪がナツメだと紹介した。
「この国の奴らは頭も目も鮮やかだな。俺らの国なんて黒しか知らねぇ。白さえあるかわからねぇ」
マオは周りを見渡して、こちらを物珍しく見る赤い髪の色や緑の瞳を珍しがった。
逆に黒だけの世界の方が、想像するのがユウにとって難しかった。
ナツメも酷い世界だなと呟いた。
「なぁ、ナツくん」
マオはナツメの肩をつつきながら言った。
嫌そうに顔を歪めるナツメを気にせずに質問をした。
「なんだよ」
「この国の人たちは闇の国の人のことをよく思ってないみたいだね」
「そりゃ。十三年前の悲劇がおとずれたーって言ってる人もいたぞ」
「それはそれは」
マオの表情が少し曇ったように見えた。
でもすぐにパァッと表情が戻る。
「まぁ!天空のことについて説明続けるよ!」
天空の国は別名天空都市とも呼ばれる。
それは宇宙よりも遠くに創られた。
行く方法はテレポート。
住民がいるのか不明。
どのような景色が見えるのかもわからない。
まだ誰も言ったことが無い。
もしかしたら噂かもしれない、と何一つ分かっていないことが一目瞭然な情報を入手した。
「そこに行こうと思って。テレポートなら俺が使える」
「じゃあ一人で行ってこいよ」
「ええっ、ナツくん意地悪」
酷い冷たいと腕に縋っていたがすぐに離し、ユウとまた向き合う。
「ユウ」
「今度は何」
「俺が魔王として生活している国──闇の国に来てくれねぇか」
あたりの空気が凍った。
他の四人、ユウ自身もその発言に驚いていた。
ナツメは目を細めた。
「俺、この世界に来て感動したんだよ、こう見えても。
こんなに花が咲いて、青空が見えて、太陽の光が出てて。
人々も街もいろんな色で輝いて見える。
本当に十三年前、ここで過ごしていたことが嘘みたいだ。
俺は十三年間、黒で染められた国で過ごしていたのはわかるな?
その間は辛かったんだ」
最初は珍しい国だと、こんな景色があるのだと興奮していた。
弟であるユウよりも豊富な知識を持った気でいた。
そんなのは間違いだった。
色のない世界で過ごせば過ごすほど、暗かった世界は余計暗く見えて気分まで落ち込む。
そんな中、前魔王に与えられた使命は新しい魔王になってもらうこと。
誰とも話すことがなくなり、たった一人で過ごした数年間。
「そんな闇の国だけど、光の国みたいに色が、光が欲しいんだ。
こればかりは魔法を使ってもどうしようもなかった」
闇の国に色を付けろ、そう言っているのだ。
そもそも闇の国には行ったことがない。
行こうと思ったこともないし、荒れた海を越え、闇の国に潜むと言われるモンスターや敵を倒すのは、一人では到底無理だ。
「まとめると、マオからの頼みは一緒に天空都市と呼ばれる天空の国に行くこと。もう一つは闇の国に光と色を灯せってことね」
レイシアは考え込むようにして言った。
レイシアさん天使だとマオはレイシアの手を掴みブンブンと振った。
「世界一強い勇者と魔王の物語に関われるんですよ、光栄なことだと思います。ぜひお供したいです」
「それなら俺も。ユウは絶対いくだろ、レイちゃん行くなら俺も行かなきゃだろ」
「仲間は沢山いた方が、心強いもんね」
マオは涙でも零すのではないかと思うほど目を輝かせた。
「ユウの友達はいい奴ばっかだな」
「俺らもちゃんと付いていくよ。こっちも仲間でしょ」
「……本当はレイシアちゃんとナツメくんいらないくらいよ」
スイの発言にナツメが怒りを覚えるが、さすがに女子相手だと口も手も出しにくいのか、思い切り拳を握りしめ無理に作った笑顔で耐えていた。