第四話 魔王の正体
こんなところでも僕の頭にはあの人のことが出てくる。
光の国をどんなに冒険しても、どんなに探し回ってもいないならこんなことも有り得るだろう。
ユウはそう考えて、少し戸惑ったが、口を開いた。
「あの」
目の前の男がまたピクリと体を動かす。
その些細な行動を見て、そんなことはありえない、とユウは思う。
心臓が大きく高鳴る。
「あなた方の中に」
声が震え、言葉が詰まる。
やっぱりなんでもないと引き返すべきか、言ってしまうべきか。
考えていると、ユウの口からは勝手に言葉が出ていた。
「マオという方はいらっしゃいますか。僕の双子の、兄です」
ユウはだんだん声を小さくしながら、この中にいるわけないと思う。
だか、目の前の男がすごい勢いでユウの肩をつかむ。
ガクガクと揺さぶられる。
揺さぶられつつ空をちらっと見ると、重たい雲があったのが嘘のように青空が広がっていた。
ナツメがユウの肩と相手の手を強引に引き剥がした。
「俺の名前、知ってんのか!」
目の前の男は、ナツメの行動や存在に目もくれず嬉しそうに言った。
ナツメが小さく舌打ちしたのがわかった。
でも相手のその声は、変声期がおとずれた後だとしても誰かがわかった。
自然と口角が上がっていく。
胸が高鳴っていた意味がわかった。
「まさか、マオ……?」
剣をもらったプレゼントの上に置き、相手の返答を待つ。
相手は帽子を外すと顔をブンブンと振って、両手で頬を叩いた。目線が合う。
知っている。僕はこの顔を知っている。
「久しぶりだな、ユウ」
え、と皆がどよめくのがわかった。
ナツメも驚いた顔をしているし、レイシアも口を開けている。
マオの横にいた人達も帽子を外して目を見開いていた。
これは神様からの、最高の誕生日プレゼントかもしれない。
今日は幸せな日だ。
マオを探す時に草木や食料を切ってボロボロになって、新しい剣が手に入ったらまたいつか探しに行こうと思っていたら国王、ダイヤ様から剣をいただいて。
それに次は、十三年振りに再開した、双子の兄が目の前にいる。
「これ、あの今朝の写真の……」
レイシアが信じられないというように、ユウとマオの顔を交互に見比べていた。
ナツメも先ほど兄弟の手と肩を引き剥がしてしまった自分の手を見て唖然とする。
ナツメとレイシアの前にいる人も、よく見ればゾクッとするほどの漆黒の髪と瞳を持ち、雰囲気も優しくはないのに今はそれを感じさせなかった。
「お誕生日おめでとう、ユウ。素敵な日を」
「マオもね。僕はもう写真に向けて言ったんだ」
「俺もだ」
感動の再開、というよりは偶然の再開だと思った。
今までマオが闇の国に暮らし始めたなんて想像もしなかったから。
お互い少し抱き合って、すぐに離れる。
マオは真剣な顔をしていた。
「今までどういう風に過ごしてたとか、十三年前からどうしてたかとか話したいけど今はユウに聞きたいことがある」
「何?」
「この、光の国にいるらしい世界一強い勇者って誰だ?」
ユウは答えづらかった。
勇者じゃないし、戦闘もできない。
逃げることしか出来なかった僕が、勇者だなんて。
そもそもなんで世界一強いって言われなきゃいけないんだ。
魔王の方が魔法を使えるんだから、僕よりも強いはずじゃないか。
「ユウだよ」
ナツメがユウの肩に腕を載せながら言った。
ユウは口パクでなんで言うんだと伝えたが、ナツメは首を傾げた。絶対伝わっていない。
目を伏せ、小さく息を吐く。
上目遣いするつもりはないがするように、ユウはマオを見る。
双子だが二卵生。顔は違えど背は同じくらいでも、腰が引けていると自分の方が少し背が小さいように感じた。
「ユウ、お前か」
「あ……うん。でっでも」
マオにだけは正しいことを言っておこう。
そう思ってユウは本当のことを言おうとした。
でもマオの黒い瞳でも輝きに満ちた瞳に目を合わせられると、何も言えなかった。
「すげぇ、ユウだったのか!じゃあさ、一つ頼みてぇことがあるんだけどよ」
「……何?」
多分力になれることはない。
でも再開した今だ、聞いてあげるしかないだろう。
マオは六人全員に聞かせる等に、狭く円を作ってコソコソと話し始めた。
「実は最近、天空に新しい国だか都市ができたらしい。創りがどうなっているか、そもそもその国を創った人が不明らしい。最近出来たんだぜ?」
「なんで知ってるの?」
レイシアがマオに問うと、マオは当たり前だろとでも言うような顔で言った。
「だって俺、魔王だから。魔王にはどんな情報も流れてくるんだぜ?」
「マオが、魔王だったの……?」
ユウがゆっくり、言葉の意味を確認するように言った。
ナツメの隣にいた男が口を開く。
「闇の国では魔王は世界一だと言われている。ユウとマオは世界一の双子だな、最強だ」
マオは自慢げに仁王立ちしたが、レイシアの隣の女が早く天空の話の続きしなさいよと先を促した。
あぁそうだとマオはまた声を潜めて話し出した。