第三話 闇の国
しばらくの静寂──いや、ユウが緊張や戦闘目的で剣を使ったことがないのに、国王であるダイヤから真新しい剣を貰ってしまったことの罪悪感で周りの音や声を遮断していたのかもしれない。
我に返ったのは、いつの間にか戻ってきていたナツメに頭を叩かれた時。
痛みで剣を持っていた手で頭を抑えようとしてしまい、慌てて剣を両手で抱えた。
「動揺しすぎだろ、ユウ」
次に背中を叩かれた。
どうして僕はナツメと友達になれたのだろう。
「でも確かにダイヤ様、美しかったなぁ」
「確かにな、あの雰囲気とかさ。帰りには消えちまったし」
「そうだね。それにそれに」
二人はダイヤの美しさ、神々しさやテレポートの能力、ユウがいただいた剣について語り合っていた。
ユウがまだ呆然と剣を眺めていると、雲一つない空に黒く重たい雲がかかった。
雷が鳴りそうに、ゴロゴロと嫌な音もする。
今までダイヤが来たことの歓喜が嘘みたいに静まり、今度は不安げにどうしたのかしらと心配する声が上がった。
春の嵐、雨が降るのではないかと店を片付け始める人も出てきた。
ダイヤのことからどうやって話が飛んだのか、そら豆について語っていたナツメとレイシアも話をやめ、こわばった顔になっていた。
だがさすが頭の良いレイシアだ、すぐに突然の黒い雲について口を出した。
「晴天から突如黒い雲がかかり雷の前兆……ただの天気の不調でなければ、もしかして」
「闇の国の奴、か」
ナツメが珍しく結論を出すと、レイシアは小さく頷いた。
闇の国は晴れという天気がない。
常に黒い雨が降り続け、一週間に一度は酷い嵐が国を襲う。
闇の国は、光の国のように国王や女王とは呼ばない。
代わりに、国を治める者は魔王と呼ばれる。
住まいも宮殿ではなく、黒い海が打ち当たる断崖絶壁の上に建てられている城である。
手下などもおらず魔王はたった一人でその城に住み続け、国に無断入国する人がいないかを監視しているらしい。
外に出て食料を買わない代わりに、魔王にはどんな魔法も使えるため、その魔法で食べたいものなど希望するものを出していく。
自分の国は無断入国禁止なのに、他の国、つまり光の国に来る時は無断で入国し、人々を恐怖の渦に巻き込む、とレイシアは説明をすると胸に手を当てた。
「この感じ、なんか知ってる」
ユウがぽつりと零す。
ナツメとレイシアもしばらく唸って記憶をたどった後、思い出したように手を打った。
「何年前だっけな」
「初めてで恐くて、家に篭っちゃったんだよね」
レイシアが困ったように笑った。
ユウは近くのおばさんが祈るように手を組んでいたのが目に付いた。
ボソボソとなにか唱えているようで、よく聞こえないが一言だけ確かに聞けた。
──十三年前の悲劇がおとずれた。
「じゅう、さんねん……まえ」
両親が離婚し、僕ら双子も離れ離れになった年だ。
そういえば、こんなくらい空だったっけ。
幼いながらも家族が離れていくことに恐怖を感じて、正直覚えていない。
「あぁ、十三年前だったか」
ナツメがそう言った時、一人の男が静かな声で、でも皆に知らせるように大きな声で。
「魔王だ」
辺りは騒然となった。
遠くから三つの黒い塊がこちらにやってくる。
塊の正体が何かわかるのに、時間はかからなかった。塊の正体は人間だ。
「空中浮遊?」
どこかの女が言った。
前回は宇宙船みたいなので所々壊されたのに今回は人間か、と不幸を願うような声も聞こえた。
空中浮遊をする三人は、空高くからこちらに向かうのがわかる。そして高度を徐々に落として広場に静かに着地し、ユウとレイシアとナツメの前に並んだ。
魔法は魔王しか使えないのではなかったのか。
何故他の二人も空を飛ぶことが出来るんだ。
思わず剣を背中に隠す。
「ここが光の国か、初めてきたぜ」
三人のうちの誰かが、そう言った。
見える口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
オーラとかよく分からないけど、なんとなく黒く感じた。
「闇の国から来たのか」
いつもより強い口調でナツメは問う。
ナツメと向き合っている体が震えた。
声を押し殺して笑っているようだった。
「そうだよ」
声は、どこまでも奇妙な雰囲気を感じさせた。
同じ黒い男も、ダイヤと同じように机に目をやる。
「ハッ、誰かの誕生日か?プレゼント?それともゴミの寄せ集めか?」
その発言が気に障ったのか、ナツメが肩を震わせた。
「ふざけんな、これはこいつの誕生日のプレゼントだ!ゴミじゃねぇ」
庇うように言ってくれたのはありがたいが、こいつ、の部分で指をさされてユウはしどろもどろする。
気のせいか、僕の前に立っている人がピクリと体が動いたような。耳打ちで、僕に向けられた言葉なんだし刃向かうことはしなくていいよと言う。
本当は少し傷つくさ。でも大事にする程ではない。