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(仮)世界一強い勇者と魔王。  作者: 桜餅葉 杏
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第二話 国王

時は早々と過ぎ、街の時計塔は午後一時を回っていた。


街を歩いていくと花冠を頭に載せられ、上質で貴重な資源から編み出されたローブ、いつか必要になるだろうと薬草や傷薬が入っている巾着をプレゼントされた。


さらに小さいがよく光ると渡された指輪の先にライトが付くものや、安全第一のお守り、軽いが足を守ってくれるというブーツ、通気性が良い帽子なども投げつけられるようにもらった。


一人ひとりにありがとうと言い回りつつも、少しの我が儘が心の底にあった。


こんなにたくさんのプレゼントなんかいらない、物であるなら新しい武器、なんでも良いのならマオに会いたい。


今何をしているのか、どこにいるのか。

正直全く検討がつかなかった。


幼い頃のユウは体も小さく、引っ込み思案だった。

それに比べてマオは気が強くて勇敢な、まるで勇者のような性格だった。

もしかして僕は、心のどこかではマオに憧れていたのかもしれないと心の中で笑う。


芝生が敷かれた広場に休憩スペースだといって机や椅子が置いてあり、人混みをかき分けてタイミングよく離れた四人席を狙って進んだ。


木製の長椅子に腰掛け、ふぅと息をこぼす。

ナツメも頬張っていた豚の肉を飲み込んでユウの隣に座った。


「人多いと疲れる」


眠そうな、垂れた目を細めてレイシアは言った。

学校では常に不動の成績1位だ。常に勉強しているようだから慣れないのだろう。


ユウが早めに帰ろうかとレイシアに促そうとした時、街にざわめきが起こった。

人々は道の中心を開け握手してください、とかお会いできて光栄です、と言葉をかけていた。


「もしかして」

「……宮殿の人がいるの?」


二人の声は興奮気味なのか、うわずっていた。

何かに導かれるようにフラフラと椅子から立ち上がり、人々の群れへと突っ込んでいった。

偉い人に興味が無いユウは、その場で騒ぎを見ていた。

騒ぎになっている人が誰だかわからないが、近くに来たのか余計に歓声が大きく聞こえた。


ふと何か大きなオーラが近づいてくる、というより空気が変わったのが分かった。

すぐに椅子から立ち上がり、慌てて花冠やらローブやらを脱いで姿勢を正す。


目の前が、人の道が開かれた。

その先から歩み寄ってくる者に、ユウは息をするのを忘れるほど緊張する。


純白のドレス、美しく輝いて綺麗な髪、顔のパーツは全て作られたもののように完璧に整っており、肌は触ったら溶けてしまうのではないかと思うほど白い、全てを持ち合わせたこの光の国の国王、ダイヤがニコリと微笑んだ。

そしてユウの前で歩みを止めた。


「は、初めまして国王様っ。あ、あの、お初にお目にかかります、ユウと申しますっ」


お辞儀は紳士のように華麗にできただろうか。

言葉をつまらせないで自己紹介できただろうか。

国王様の目を見て、優しく笑みをたたえられただろうか。


無理だ。


「そんなに緊張しないでください」


透明で、汚い部分など無い声が耳に届く。

ユウの頬に、ダイヤの手が触れる。

ユウはギュッと目をつぶった。


「貴方の活躍は、わたくしの耳にも届いております。

1人で街を越え山を越え、戦ってきたことを」


戦ってはいない。

剣は草を切ったり実を採るのに使った。

何か動物や怪しい人に出くわしても、全て逃げ切っていた。

だから、勇者ではない。

でも今、そんなこと言える空気ではない。


ダイヤは机に目を向けた。

そして薄いピンクの口紅が付けられた唇の口角があがる。


「街の方にたくさん愛されている貴方は、神様は如何なる時でも貴方を味方しておりますでしょう」


告げられる言葉に恐縮するしかなく、片膝をついて手を胸に当て、もう片方を背につけた。

立って聞くなんてできない。


「わたくしからも貴方に、贈り物をします」


手汗でベタベタな手を服で拭き、こんな手で申し訳ないと思いながらも両手を差し出した。


手に置かれたのは、柄の部分に鳥の形で青い石が埋め込まれた立派な剣だった。

鞘も一緒にいただく。


「幸せの青い鳥が象徴となる剣と、どんな災いがあっても決して破壊されることがない鞘。これからの冒険に大いに活用していただきたいと思います」


ありがとうございます、と震える声で言う。


今までの僕、みっともなさ過ぎだな。

こんなの頂いたらどんなに悪いヤツでも立ち向かわなきゃいけないじゃん。


「わたくしはこれで戻りますが、これからも貴方の活躍に期待しております。」


ダイヤはそう言って、強い瞳をユウに向けた。

ユウがなにを言い返すべきかと悩んでいると、ダイヤは消えていた。


「えっ、あ……」


ダイヤは体が弱い。

宮殿に帰す時だけ、代々伝わるテレポートできる道具を使用する。


ユウは何も言えなかった自分と、ダイヤがテレポートを使ったことの、二つの衝撃を受け呆然としていた。

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