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ある悪魔祓い師司教補佐の移転奮闘記  作者: 山坂正里
第三章  守護神付きの青年、北の洗礼を受けて、悪魔召喚の場に出くわす。
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3章です。10000字以下にできなかった……。

 夜、残念なことに俺は見回り組じゃなくて、居残り組だった。

 当然なことに|(なくても、全然構わないんだが)|俺の鍛錬もある訳で。居残り悪魔もいるのな。今日はウェスタとロベルトか。ここに所属する悪魔、ツートップじゃねぇかよ。ヒエラルキーでは魔王や魔神クラスのデーモンさんと比べたら、当然格下って言っていたけど。

 そりゃー、大地神や天空神クラスとタメ張れるのは魔王じゃなきゃできんだろうが。一つの国を守護して祭られていた神が堕ちて、悪魔になったら。人間に害なすモノとなり下がったら。とてつもなく、厄介だから。それはすでに災害だろうからな。


「……で、御二方は悪魔階級で何クラス? あの猫が自称男爵だけど、無印だよね?」


 俺はベッドに腰かけて話しかけている。そう、床の足元にうずくまる御二方に向かって、さ。……うん、分かってるさ。こうなるってことは、さ。

 一応、悪魔も強さなんかを位分けされているのな。上から、神、王、公、侯、伯、子、男って人間の貴族のように、な。それでも、めったに伯爵より上っていうのに遭遇しないけどね。それより下は、いくつかあるとしても、さ。俺も、公爵より上に会ったことねぇし。正直、神と王クラスは出遭ったら死ねるらしい。そう公爵位の中でも上位の大地神は語っていた。


「……チビスケ、つえぇぇぇ。自称守護神、やっぱ違うなぁ」

「子爵と男爵クラスじゃ、やっぱ無理かよ。当然だったよな」


 ブチブチ文句を言い出す二人。あぁ、やっぱ爵位持ちでも割と下位なんだね。


「……ちなみに、オメガの階位は? もちろん、二人よりか、下だよね?」


 通り名も気になるけどさ。そこは訊かないです。代わりに兄ちゃんのも言わなきゃいけなくなるし。


「確か、騎士だよな。ナイト、シュバリエ。それでも、男爵に近い上位の方だけどな」

「モラさんが一般の無印悪魔だかんな。アンジェは小悪魔。で、猫が見た目そのまま魔物な」


 あぁ、あの猫、無印どころかもっと下かよ。最下位じゃねぇかよ。ここの宿舎、下の階位総なめじゃねぇか。普通はそれが普通だけど。上級の爵位持ちと遭遇する方がマレだしな。子爵とはいえ、相当優位に使役しているラザフォード司教すげぇな。司教が司教になる頃は、悪魔三体と契約していた訳ではなかったそうだが。つまり、その時よりも司教はパワーアップしてるってことか。

 ――しかし、みんな思った以上に階位低いな。


「伯爵と子爵って、圧倒的にこんな差が出るのな」


 個人クラスの守護神って伯爵からじゃねぇとなれないんだと。兄ちゃんは伯爵だから、さ。俺は諦めにも似たようにため息をついちまったぜ。


「天空神は、侯爵で。大地神は公爵だったなぁ」


 ぽけーと回想していたが、兄ちゃんはとても楽しそうだ。そりゃあ、今日デーモンさんいないからな。


「ここに出現した最も強いやつも、せいぜい伯爵止まりだよ」

「あぁ、あの疫病のな。ってことは、チビスケ、同クラスかよ」


 御二方、嫌そうな顔してさ。俺もしょっぱい顔してるだろうな、きっと。

 伯爵祓えて司教、子爵なら司教補佐っていうのが通例だからな。本気で怒った兄ちゃんは祓えないって、中央の悪魔祓い師達もさじを投げている節があった。

 だからって、その分が俺に来るかよ!? なんて喚きたくなったが。


「なぁ、なぁ。そのデーモンって、天空神や大地神と比べて、どうなの? 俺、いっつも天空神に構ってもらってたんだけど」


 天空神は、何だかんだ言いながらも、俺や兄ちゃんの面倒も見てくれて。いや、もちろん口も悪いし、すぐ手も出るケンカっ早い神だったけど。……あれ、どこかの誰かに似ている気が。

 とにかく、ツンデレ満載の根はとてつもなく優しい世話好きの神だったさ。そんなんだから、過激なシンパも少なくなかったな。俺も兄ちゃんと契約してなかったら、天空神となら、天空神優位でも契約してたかも知んないし。

 兄ちゃんありきの生活だったから、まずその仮定も可能性もないんだけどな。


「だぁかぁらぁ。マジモンの魔王クラスだって。大地神も顔真っ青のな。下手したら、魔神でも通じるだろう、なんて俺達みんな思ってるぜ?」

「俺ら、三人がかりでしたけど、余裕だったみたいだ。そっちの本読みながらさ。バンバンガンガン呪術式使いやがって。俺達を動く的代わりにしやがって」


 ぷりぷりと憤慨中の御二方。デーモンさんに対する悪口はすらすら出てくるのね、あなた達。まぁ、経験者は語るってやつか。騙るではなくて。それでも呼称は魔王なんですね。魔神や魔神様じゃ語呂が悪いからって理由らしいが。しかし、どれだけあれな人|(?)|なんだろ。デーモンさん。


「俺らのことバカにしやがってさー」

「体とかも、スッパスッパ切りやがって」


 デーモンさんの嫌な証言ばかり増えていく。俺、やっぱりその人に遭いたくないな。魔王って、公爵の上じゃねぇかよ。大地神でも、中央では北の魔王って、言われて恐れられていた時代もあったっていうのに。

 その所為でか、本物の魔王や魔神クラスとはそう簡単にお会いできないそうだ。大地神はいい笑顔で「会ったら一度、自滅覚悟で、手合わせお願いしたいねぇ」と、かなりアレな発言していましたが。意外と好戦的な大地神……。

 司教でも祓えて伯爵、頑張って侯爵だからな。俺には当然無理ですが。

 そんなデーモンさん……大地神と戦わせたいかもしれない。喜んであの神は受けて立ちそうだ。その前に、天空神がキレそうだが。中央や別の地域に本気で戦ったら影響が出るとか何とかで。そして、止めようとして巻き込まれて。一番被害を受けるんだろうなぁ。貧乏くじを引いて、割に合わないことを押しつけられるのは、いつもあの神。階位的にも下だし、何だかんだ言っても世話焼きだし。……哀れ過ぎるぞ、天空神! でも、そんなあなたが大好きです!


「バルトも最終試験時、どっちとも本気出せんくてな。どっちかが死ぬからって、戦いたくないってさ」

「あぁ、言ってたなぁ。バルトに勝てんようなら、間違っても、魔王にケンカは売らん方がいいぞ」

 

 試験|(兄ちゃんは遊んでいたが)|は終わったのか、起き上がり、親切に教えてくれる悪魔方。そんな方々の尊い犠牲|(まだ死んでない)|のおかげで、俺や兄ちゃんも配慮してもらえているようだから、さ。もう感謝しかねぇな。


「夜、他の契約者との見回りも避けさせるか? 夜も俺達、基本一人でしているし。ラザフォードと一緒っていうのは、そうねぇな」

「チビスケをピンでしてもなぁ。魔王の気に触るようなことしたら、しつこく来るからな。オメガ、まだ来るって言って泣いてただろ?」


 御二方そろって、合掌。オメガ、お前、何したの? やっぱり、悪い意味での子供好きが原因なんだろうか? オメガが子供に嫌がらせじみたことをしていたが、それを見咎めたデーモンさんがぼこったと? それならいい人|(?)|なんだけどな。オメガが悪いです。ラザフォード司教との契約で、人に危害を加えられないそうだが。害のない範囲ってやつか? トラウマ的な心的なものだったら、害とかうんぬんっていうのはどうなるか分からんが。


「魔王のことをさ。人間に擬態しているだの、悪魔だの、魔王だの、魔神だの、俺らが好き勝手言ってもさ。別段、何もしてこねぇけどな?」

「魔王は、悪魔の俺らに言われたくねぇって射殺さんばかりに睨み付けてくるだけで、な。ほんと、オメガのやつ、何したんだろうな?」


 まさかの仲間の悪魔も知らない事実! 二人、顔を見合せて「なぁ?」と確認し合っていた。自分達は、今その地雷を踏まないって思っているのか、楽観視しすぎでね? 今襲われない幸せを噛みしめたいってやつか?


「俺もさぁ、非番の時、試しに訊いたんだけどよぉ。あいつ、錯乱してて、まるで答えられねぇのよ」

「そうそう。『くるぅ。きっとくるぅぅぅー!!』って騒いでてさぁ。自分から話すのを待ってんのね」


 あぁ、あきれてらっしゃる。俺も、同じ立場ならそう思うだろうし、今もそう俺も思うよ。オメガ、使えねぇ。


「……どっちにしろ、デーモンさんは要注意ってことだな」


 あんまり有益な情報はゲットできなかったな。とにかく、デーモンさんがどこに出没するか、分からないから気を付けろってことか。誘蛾灯のごとく、来るのを警戒しろってね。


「そういや、あの魔王。坊やバルトと仲良かったな」

「波長が合うんか、馬が合うんか知らんがな」


 新情報来たな。確かに、クリスさんはデーモンさんをフォローしたり、かばっていたりしていたから、なんとなく分かるかな。でも、バルトさんはちょっと意外かなぁ。どっちも本気出せないって言ってた仲だから? 最強同士?


「あ? バルトとは……元コンビだからな」

「そうそう、元同業者同士……だからな」


 そりゃあ、話も合いますね。そうですね。怖すぎるだろ。バルトさんと同業者って、もろ裏稼業の人間じゃねぇかよ。後ろ黒いことしてらっしゃる方じゃねぇかよ。


「ラザフォードって素でミラクル起こすこともあるけど、ドジ踏むこともままにある訳な。ラザフォードが契約者追いかけている時、うっかり罠発動させて、毒の刀剣? ラザフォードにあたりそうになったんよ」

「それを魔王が身を呈してかばってなぁ。耐性ないと致死レベルの猛毒だったらしいからな。ラザフォードは耐性なんてないもん。刺さってたら、かなりヤバかったと思うぜ? それこそ、即死じゃねぇの?」


 あれ? これを聞く限り、その魔王とかデーモンとかいうのいい人(?)じゃないか。どうして、悪魔達だけではなく、司教も嫌ってる風なんだろ?


「まだ続きあるぞー。後日、その契約者にラザフォード、瀕死の怪我負わされてな。三週間近く、意識不明の重体」

「そん時になー。バルトと魔王が完全に、その悪魔化希望の契約者を殺そうって結託しちまったんよねぇ」


 今となっては笑い話みたいに御二方、ケタケタ笑ってますけど! 北部大聖堂、物騒すぎますよ。殺伐としすぎだ!


「契約者とはいえ、人殺しダメって事前にラザフォードが釘を刺してたからな。そいつを悪魔に転化させて地獄みせたろうって意気投合してな。結構、無謀な作戦立ててたな」

「人殺したり、故意に悪魔転化させたり、ラザフォード自身、そいつにケガさせられたとはいえ、目覚め悪いからな。結局、ラザフォードが邪魔して、そいつは転化できなかった、とさ」


 「おしまい」とあっさりしめたロベルト。あれ、そうなの? それだけなの? あんま、司教がデーモンさんを嫌う理由分かんなかったなぁ。やっぱ、契約者殺しかけたとこ?

 デーモンさんの方が、ラザフォード司教を嫌いそうなんだけどね? こっちはラザフォード司教が死にかけたのにっ! そんなやつ、生かしておけるかってやつで。むしろ、なんでラザフォード司教、邪魔するのって怒りそうだが。

 それだけ、そのデーモンさんがラザフォード司教のことを愛してるのかもしれねぇな。ラザフォード司教がそれでいいのならってことで。表面的には|(←ここ大事)|身とその矛を引かれたってことだからな。

 そうなると、クリスさんではないが、デーモンさんの肩を持ちたくなるのも分からなくはないか。ラザフォード司教とは違う意味で、心の広い方っぽいからな。敵|(特に悪魔絡み)|には厳しく、味方(悪魔祓い師宿舎の方々と町民)には優しい的な意味で。ラザフォード司教は万人|(敵味方問わず)|に優しいようだが。ラザフォード司教なりに悪人|(悪魔等を含む)|にも更生の機会をという、深い考えがあるのだろうが。クリスさんや悪魔達は、ラザフォード司教はそんなことまで考えてない、と言いそうだが。……あれ、随分、辛口評価じゃない?

 そんな方だから、ラザフォード司教は、ここの職員やデーモンさんに愛されているのだろうけどな。


「で、そのデーモンさぁ。今ここにいないで、何してんのぉ?」


 兄ちゃんの言葉は、俺も知りたかったことで。いいタイミングだ。


「魔王? 今も悪魔祓いしてるぞ? 町で顔合わすこともちょくちょくあるし」

「そん時は襲ってこんけどね。一人の時や契約者と一緒の時はまずいぞー」


 あぁ、やっぱり気配感知したら、即攻撃か。気配、覚える気ゼロかよ、デーモンさん。魔王の異名を持つ方なら、覚えられるでしょ。……いや、そんな瑣末なものは、祓った方が早いってやつか? 大地神みたいなとこあるな。あの神も結構ブレブレで、気まぐれなとこあったからな。


「そういえば、モラさんやアンジェの契約者が町を歩いていても襲われたって聞いたことないな」

「模擬戦では参加しているか判断できなくて、間違って撃たれたことはあるって言ってたけどな」


 その場合、少し様子をうかがってからって司教も言ってた気がする。


「バルトや猫が得意なんだが、魔王も気配感知できねぇくらいに消すからな。それがまた不自然じゃない消し方で、いやらしいんだわ。ラザフォードが言う、暗殺者モードな」

「で、昨夜のが魔王モードな。あれでも本気出してないっていうから化物だよな。本気出したら、どうなるんだって聞いてみたいな。……いや、実演はしなくていいがな」


 青ざめて言うロベルトに、兄ちゃんは「やめろって!」と泣きそうになりながら文句を言っていた。

 昨夜昨夜ってみんな言うが、熟睡だったよな、俺。若干秋口だから寒かったっていうのはあるが。――今日はそうでもないな。


「呪術式って、相性っていうか得意系統あるよな。俺は風系だけどね。デーモンさんって、氷系か?」


 呪術式の系統は地、火、風、水の大きく四つ。風系の中に雷系は含まれるんだけどな。あと水系は治療系も含まれるし、地系由来の治療系もある。そう考えると色々混ざっているのな。俺が言う氷系は水系の一派に含まれているのかな。風系も合わせて使えないといけないのかもしれないが。

 そういう得意系統は、家系や出身地によって変わるらしい。今の中央の王家は天空神の親族…子孫だから、風系や雷系が多いそうだが。政略的な婚姻とかを繰り返していたため、どの系統が出ても不思議ではないそうだが。そう天空神や大地神からも教えてもらった。

 はっきり言って申し訳ないが、天空神の悪魔的な……人外としての階級は侯爵と低いのな? 北部の元神な大地神が公爵だし。……なりたて当初しかり、今しかり、弱小だったのな。領地も中央だけと狭かったそうだし。

 そんなんだから、周りの国の神々……今ではすべて悪魔扱いだが。東西南北の各地を治める神に正攻法で勝てる訳がなかった。そのための政略婚だったといえるかな。もちろん、その背景には暗殺、謀殺、呪い合戦なんて当たり前だったらしいが。歴史を紐解けば、結構どろどろしたものが見えるとのことだが。あんまり知りたくないかもしれない。


「魔王? いや、二つ名が混沌だから。二級クラスなら、全系統使えるっぽい」

「俺らでどかどか、ガンガン普通に試し打ちしてたから、間違いねぇよ」


 デーモンさん、やっぱり外道説が出てきましたよ!?

 二つ名っていうのは、天空神、大地神みたいに得意な呪術系統の名が付くのね。疫病の悪魔とかいう流行病を流行らせた悪魔は、治療系をこじらせたやつな。呪術式を悪い使い方をするとこうなるって典型例だな。


「試し打ちって、この本のやつか。デーモンさん、呪術式だけでも司教補佐クラス以上の実力者かよ」


 机の上に置かれていた初心者用の悪魔祓い師の心得と司教補佐の受験者用の呪術式が描かれた本を手に取った。パラパラ~と中を見てみたけどさ。これ、完璧にマスターしたら、二級普通に受かるよ。俺が見ていたやつより、レベル高いな、この本。これを機に勉強し直そうかな。


「ジャンはよー。二級以上のそれ、全部使えんのか?」

「ここじゃあ、使えねぇと、二級受からんぞ?」


 俺に向かって語る悪魔二人を見て、持っていた本を思わず落してしまった。俺、得意系統以外、二級以上使えない!

 クリスさんってすごい人だったんだー。体力ないからって、疑ってごめんなさい。


「……兄ちゃん! 俺、今日から呪術式、勉強し直すよ! 来年の春先に北部である司教補佐の試験受ける!」


 落とした本を拾って、じーっと見つめるぜ。やっぱり苦手な地系から攻めてみるか。

 デーモンさんではないが、全部使えるようになったる。そう、いっそうのこと自力でウェスタ祓えるくらいに……っ!


「あー、ジャン使えない人? そりゃぁ、あかんやろー。ラザフォードも、絶対に取り直して来いって言うなぁ。悪魔祓い師の二級の基準、北部って別地方より高いことで有名らしいからなぁ。坊も他のもそう言ってたし」

「独自に二級の前に準二級っていうのがあるくらい。それ受かんねぇと別の教会の司教補佐にさせねぇって鬼なルールもあるしな。うちで真面目に……バルトをキレさせないように研修受けたら、大概受かるレベルだけどな」


 バルトさんをキレさせるって、何したんだ、その人。恐ろしいよ。

 そういえば、中央でも研修で別大聖堂に行くっていうのがあったらしい。帰って来た悪魔祓い師達は口をそろえて「北部怖いっ!」だったが。やっぱり、バルトさんとデーモンさんの所為だろうな。

 北部で司教補佐取った人って、すごい人なんだって改めて分かったよ。この教本を見て、吐きそうになったよ。誰がこんなの使うんだよ。本当に発動できんのかって。


「複雑なものほどさー。どの系統も混ぜて使えねぇとあかんのかよー。地系、本当に苦手だ」


 なんだよ、このゴーレム(?)作れって。地系が主で、風系で動かすとかさー。中央でできるやついねぇよ。


「風と地。火と水。それぞれ相反だからな。相反同士になってるやつって兼ね合い難しいもんな」

「坊もラザフォードも、それは難しいって言ってたよな。普通、とっさに、こんなもんできるかって」


 うんうんと頷き合う悪魔二人。やっぱり難しいのかよ!

 一緒に覗き込んでくる兄ちゃんだけど。兄ちゃんも難しいって分かるのか、プクーっと膨れていた。


「こんなん簡単にできるの大地神くらいだろ。何で載せるんだよ」


 地系が得意な人ならできるかもねってやつだよね、この呪術式。


「せめて腕だけーとか合成して動かすなら、ともかくな」


 「できるかなぁ」と俺が呟いていると悪魔二人は「ラザフォードも雷系でな」「あいつも地系はそんなもんだ」と言ってくれた。よかったぁ。


「魔王はここで小さいゴーレム作ってな」

「俺らにオメガをブン投げてきてたな」


 ウェスタは小さいといいながら、膝丈ほどを手で示していた。ひょっとしなくても、デーモンさんは地系かもね。


「そういう創造系ってほとんど地系なんだよなぁ。地系といえば、北部で強い人いる? お手本見せてほしいよ」


 大地神が守護していたというだけあって、得意な人多いんだよね。だから、きっと誰かいるだろう。ただ、その人が暇かはわからんが。


「やっぱ、魔王だろうな。きっと快く応じてくれるだろう」

「あぁ、きっとな。動く的として喜んでくれるだろう」

「却下っ!!」

「ダメだろ、それ!!」


 ウェスタ、ロベルトの意地悪な言に俺と兄ちゃんは即座に拒絶しちまうぜ。全く、何言い出してんだよ、こいつら。たとえそうでも、絶対嫌だし。トラウマ植え付けられたくねぇよ。

 一応、軍や大聖堂、教会内に呪術式の開発部なる呪術式を研究する部署もあるが。そことも悪魔祓い師はかかわりあるからな。午前休日の時、行ってみるか。ちゃんと挨拶もしときたいし。


「……ひょっとして、ヴィルド司教、そこか?」


 開発部なら、新しく画期的なものを生み出したり、昔の資料から探し出したりすれば、年齢も関係ないもんな。

 うんうんと俺が納得していると、悪魔二人はぼそぼそと耳打ちしていた。


「中央では、内緒なんだな。その、子供司教の肩書き」

「知らねぇ方が、精神衛生上、いいこともあるもんな」


 うんうん二人だけで納得して! そっちの方が悪いよ! 俺にも教えろよ!!

 ピクリと肩が跳ね上がった。割と近くにモラさん、アンジェ、そして目の前にいるウェスタとロベルト以外の悪魔の気配。

アンジェは今日、外回りだったけど、火事場での母子の警護のため、オメガと交代したんだ。やっぱり、相手女性なだけに、気を使わせないのはモラさんとアンジェだろうからって。

 猫とオメガは外回りで、こんな時間に帰ってくるとは思えないから。

 つまり……それ以外ってこと?

 兄ちゃんと目を合わせるとコクって頷いてくれた。

 本を閉じて立ち上がり、ドアを開けていた。兄ちゃんは、弾丸のように飛び出して。司教の隣、モラさんとアンジェの部屋っていわれた部屋へと突っ込んで行った。……いや、ドア開けようよ! 兄ちゃんの形にドア、貫通しちゃったよ?!

 ドアを開け、俺、ウェスタ、ロベルトの順に室内に踏み込んだ。

 暗紫色に光る呪術式から出る、小さく古の趣のある白亜な門。……『(ゲート)』がこちら側に開いていた。

 出てきたと思しき悪魔、もしくは魔物……なのか全身頭からすっぽりと黒の布をまとい、体形が全く分からない。人の形をしたようなモノ。大きさは、モラさんくらいで。兄ちゃんより、ちょっと大きいくらいか?

 正直、強いのか、弱いのか。……どっちか分からない。こんな狭いところにモラさん、アンジェ、兄ちゃん、ウェスタにロベルトと悪魔五体もいるからさ。気配も混在としていて、どれがどれかも分からなかった。


「お前、女性を狙ってきたな!」


 果敢に正体不明の敵に近距離で掌底を放つ兄ちゃん。内部から破壊する系の呪術式をその掌に描いてるな。

 火事現場……もしかしたら『(ゲート)』の向こう側へ行った人? こっちに帰ってきちまったのか? それか誤って『(ゲート)』を呼んだと同時に開いてこっちに来ちまったか。

 ベッドの上には、眠る赤子を胸に抱き、怯えながらもその赤子を護ろうとする母親。そしてそんな親子を護ろうと、前に立つモラさんとアンジェ。

 『(ゲート)』の傍にいた人間って、自然『(ゲート)』を召喚しやすく、開きやすいからな。だからこそ、しばらくの間、悪魔祓い師宿舎の宿泊が義務付けられてんのな。

 兄ちゃんの掌底が当たるほぼギリギリで、その敵はかわした。呪術式にも触れず、その影響下である呪術式場にも外れるくらいの位置。距離にして、ほぼ二、三歩分なんだろう。流れるようにかわされたから、兄ちゃんは勢いを殺せず、宙に浮いた。

 敵もあんな動きができるなら、反撃だってできただろうに、全くしなかった。いや、兄ちゃんも俺達も、ましてやベッドの傍にいる者達なんて、全無視だ。その敵の興味は、その敵の向かい側にあるようだった。


「こんの……っ!」


 コンマ数秒で体勢を整え、兄ちゃんはまた敵に突進していた。さっきの呪術式は消して、今度は腕力に物を言わせて。


「チビスケ、そいつじゃねぇよ!」


 俺の後ろに立つ、白いチュニックにゆったりとしたズボンのラザフォード司教。騒ぎを聞きつけて、来てくれたんだ。無造作に寝ていたのか、若干髪に変なあとが付いている気がする。

 敵と思っていた人は、兄ちゃんの出した腕をつかみ、後ろに放り投げた。そう『(ゲート)』に向かって。

 元々、小物な悪魔が通ってきたのか、兄ちゃんがぶつかって閉まり、呪術式もろとも消えた。

 その敵だと思っていた人が見ている先にいるのは、黒い糸のようなものに絡まれ、縛られていたモノだった。同じく黒服を着た男。こっちは、二十代半ばの黒縁眼鏡をかけた青年だ。右腕の二の腕から先が消失しているのか、袖がぺったんこだった。

 黒服の人は対悪魔捕縛用の呪術式を使っていたんだ。兄ちゃんが、呪術式を使っていたのに動かしたため、一度緩んだのか、その悪魔は残っていた左腕で捕縛用呪術式を解いた。

 北部の人間に多い黒髪黒瞳のその悪魔は、多勢に無勢と判断したのか、窓を体当たりで割り、逃亡を図っていた。

 その後を追ったと思しき、さっきの黒服の人。早すぎて、俺の視力では追えなくて。窓から跳んだの? なんて言いたかった。

 今の人(?)って……。


「モラさん、アンジェ遅くなった。平気か?」


 ベッド傍へと近づく司教。二人とも「大丈夫です」と応えていた。どっちも怖かったのかプルプル震えていた。……その怖かった元凶は、突然現れた悪魔か、それとも黒服の人(?)のどちらか分からないが。

 司教は「そうか」と和らいだ表情を見せていた。だが、すぐに真面目な顔をして母親に向き合っていた。


「……お怪我はありませんね。おそらく、戻ってこないでしょうが。部屋を変えて様子をみましょう」


 まるで別人?! ラザフォード司教、態度も人によってちゃんと使い分けできるんだな。

 ここだけ窓はガラスだったから。破って出て行った音で、眠っていた他の悪魔祓い師の人達も起きていた。ドアの外から、こっち見てるよ。


「ウェスタ、悪い。さっきの……デーモン追ってくれるか? おそらくさっきの悪魔、騎士クラスだろうから。デーモン、間違えてか故意にか、オメガの方に行くかもしんねぇからな」


「……ラザフォードがそう言うならな。やっぱアレ、魔王かよ」


 悲壮感漂うウェスタは、窓のさんに脚をかけ、飛び降りて行った。悪魔って呪術式を使わなくても空も飛べるもんね。人間には無理ですが。


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