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ある悪魔祓い師司教補佐の移転奮闘記  作者: 山坂正里
第二章  守護神付きの青年、北の町を歩き、火事と出くわす。
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 大聖堂の宿舎にたどり着いた俺と兄ちゃんとクリスさん。母子はモラさんとアンジェの部屋に寝かせた。たまたま今日、アンジェが夜勤だから、お任せした。また、猫も夜勤のため、見といてくれるってさ。かなり眠たそうだったが。猫って、基本夜行性なだけに、モラさんも掃除が終わったら、見てくれるって。

 今昼時だからね。夜勤担当のバルトさんは、昼ごはん兼夜ごはんを作りながら「坊も新入りも大変だったなぁ」と労ってくれた。大きな皿に乗せたクッキーを出してくれるなんて。いい人すぎるだろ。


「全くですよー。初日から『(ゲート)』に出くわすなんて」


 クリスさんが食堂で席に着きながら、なぜかプリプリと怒っていた。俺も兄ちゃんもそんなクリスさんの隣に並んで座っていた。いや、結構、ここも居心地悪い。

 いや、兄ちゃんは無邪気にクッキー食べてるけどさ。基本的に、兄ちゃんは人ではないから、飲食しなくても平気なんだけどね。合わせてくれているのか、いつも食べているよね。ここの悪魔達は、猫以外食べているのを見ていないけど。


「そうそう、ヴィルド司教とエドガー司教補佐ともお会いしたんですよー。こんな偶然なんてあるんですね」


 話を変えようと、ホケホケ陽気に笑う俺に、バルトさんは、俺やクリスさんの向かいに立ちながら、微妙な笑い方をされた。……何だろう。気になるじゃねぇかよ。


「あの少年なぁ。……『(ゲート)』絡みなら、ラザフォードちゃんに報告しに来るかねぇ」


 ポリポリと頭をかくバルトさん。やっぱり、あのヴィルド司教とも知り合いなんだ。確か、教会志望って言っていたし。悪魔祓い師の研修も受けねぇといけねぇからな。


「あの司教も、ここに来たことあるの?」


 無邪気にクッキーを食べながら、バルトさんに訊く兄ちゃん。クリスさんはそんな様子をニコニコ笑って見ているけどさ。やっぱり、クリスさんは子供好きだ。よかったよ、俺がその間に入って。


「……まぁな。それより、少年は新入りとか自称守護神とかになんか言っていなかったか?」

「ヴィルド司教は何も? 火事の方に関心があるようでしたから」


 クリスさんは、普通にバルトさんに受け答えしていた。しかし、兄ちゃんは「自称じゃないやい!」と怒っていた。


「あぁ、少年ならそうなるか。……いや、お前さん。守護神じゃねぇだろ。ちゃんと仕事しねぇと、そっちの新入り……死んじまうぞ?」


 みんなが手を付けていた紅茶をすすったんだが。舌にピリッと違和感を覚えた。とっさに口を離した。だが、咽喉(のど)の奥から何かがせり上がってきた。

 身体を二つに折り曲げ、思わず咳き込んだ。そうしたら、血が……。

 食道かどこか、傷つけたのか、血が出て……って毒かよ。

 遠くで紅茶のカップが割れる音と……クリスさんと兄ちゃんが叫ぶ声が聞こえた。

 昨日の悪魔達ではないが、ここの人間って、悪魔に対して容赦ないという言葉が蘇った。俺は、普通の人間なんだけどなぁ、と思いながら苦笑できたあたり、俺も慣れてきたぜ。

 兄ちゃんが傍にいない時、中央でこの手の嫌がらせは何度か受けたことがある。俺としても俺自身の命がかかっているので、毒消しの呪術式は真剣に学び、使える。少しくらい意識が危ない時でも、反射でできるくらいには慣れた。

 バルトさんは、わざと無味無臭ではないタイプで、即効性のものを使ってくれていたからな。そこだけは、いい人なのかもしれない。


「……って! 昨日会ったばかりの人間を毒殺しようとしないで下さいよ!?」


 さらさらーっと呪術式を描いて、発動させ、ムクリと起き上がっての俺の第一声。俺は怒っていいはずだ。俺はバルトさんに恨まれることをしたか? してないよな?! バルトさんの契約悪魔の猫を兄ちゃんがからかっていたようだが。恨むべきは俺ではないはずだ。監視不行き届きか?

 クリスさんってば、バルトさんに猛抗議していた。ここの良心は、あなたしかいないよ。

 騒ぎを聞き付けたモラさんもやってきて「キャッ!」と叫んでいた。

 割れたティーカップに紅茶も血もあたりに散乱していたら、そりゃね。

 兄ちゃんは泣きそうな顔をして「ジャン、平気?」って聞いてくれた。あぁ、目尻に涙溜まってるじゃねぇかよ。平気だよ、兄ちゃん。

 そういう意味を込めて、笑いかけて、ポンポン頭を二回叩いた。それに兄ちゃんは「子供扱いすんな」と唇を尖らせていた。


「おいちゃんだって、さすがにドシロートにはそんなことしないよー。慣れてるそうだって聞いたからだよ? 毒も軽めのやつだからね」


 反省の色ゼロのバルトさん。……いいですけどね。俺も慣れてますから。


「おっちゃ~ん。確かに、俺も手紙にはそう書かれてたって言ったけどよ。人死にはごめんだぜ?」


 食堂の入口にもたれながら、ぼやくラザフォード司教。朝と同じ服装で、頭に巻かれている包帯もそのまま。


「毒の耐性あるなしで、ラザフォードちゃんも作戦のたて方変わってくるだろ?」


 組織全体を思ってね。うわー、だからって試さないでー。悪びれた様子、まるでなしだね。


「おれがおっちゃんに伝えたのは、そういう意味じゃねぇよ。そういう目に遭っていたようだから、気を使ってくれって意味だよ! おっちゃん、最近デーモンに感化されすぎじゃね?」


 デーモンさんも「だから、試してね?」って取るのか。……くれぐれもその方に伝えないで下さいねっ?! 伝えた場合は、そうだって、はっきり言って下さいね?! 話を聞く限り、相当な人(?)らしいから! 俺もまだ、命は惜しいです!!


「新入りは、その手の訓練を受けた側ではないのな。盛られてるって気付くレベルだからな。耐性があれば、効くようなものでもないし」


 あー、バルトさんは「このくらい毒なら、飲んでも平気☆」って思って俺が紅茶を飲んだと思った人なのね。そんな訳ないでしょ!

 盛られたのは慣れた|(それも本当は嫌だ)|けど、毒には耐性なんか、ありませんよ。


「そうなると、罠張られた場合、やっぱ、悪魔連中を盾に使うしかないか。一番いいのはおっちゃんとデーモンに解呪してもらうのだけどな」


 罠って……そんな危険なのがあるんですか?


「罠系の呪術式にはなー。刀身が麻痺系とか神経系とかな。かすり傷を負っただけでアウトなのも。そりゃー、多種多様に?」


 ニヤリと邪悪で、ブラックな笑い方をされるバルトさん。この人は、それをかいくぐれるし、またそれを使っていた側なんだろうなって、なんとなく分かった。もろ、裏世界側の人間じゃねぇかよ。なんでこんな人も大聖堂内で働いてるんだよ。

 いや、もちろん悪魔達の世界や悪魔に転化する人間で、そういう人間がいない、とは言わないけどさ。だからって、そんな人間が、大聖堂内で働くのは、中央ではありえなかっただけに、さ。北部、すげぇって俺は思うだけさ。


「いや、いや。おいちゃんなんて、まだまだよ? 北部には、もっと恐ろしくて、おっかないのがいるよ?」


 あぁ、そのデーモンさんって人ね。その人、クリスさんがおっしゃるには、人間らしいが。本当に人なのだろうか、と司教ではないが、疑い出してきた。


「俺からすれば、おっちゃんも大概だけどね? ジャン、ごめんなー。猫がいたら、止めていたと思いたいけどな」


 ラザフォード司教は、モラさんに「ここは俺達がしとくから、もう上行っていいよ」と優しげに言ってから、俺に謝ってくれた。何だかんだ言っても、ここの責任者だからね。


「あー、平気っす」


 そういうしかねぇじゃん? 俺だって、いきなりで驚いたけどさ。今のところは平気だしさ。


「そうかー。チビスケがいない時、色んな目に遭ってたって手紙に書いてたからなぁ。あんまり、ジャン自身を試すってことはしねぇつもりだからな。おっちゃんも試すなら、チビスケも含めてな」


 ため息まじりのラザフォード司教にバルトさんはちょいと不満げな顔をしてみせた。


「ラザフォードちゃんは悪魔連中と別でも戦えるだろ? 新入りもそっちがよくね?」


 プロの悪魔祓い師ならそう思えて当然な。やっぱり、俺もそっちの方がいいよなー。もし兄ちゃんと分断されてもいいように、な。


「デーモンが相手だと、悪魔を祓うの後回しにして、封じるだけして、契約者を先に潰しに来るからな。俺も、訓練とはいえ、やられたぞ」


 呪術式とかの腕や勘を落とさないために、模擬戦闘なんかをする訳ね。そう再々、悪魔なんて出現する訳でもないからさ。

 もちろん、俺も中央にいた時にしましたが。一対五くらいでさー。相手、全員司教補佐とか。もう、嫌がらせに近かったな。模擬戦にかこつけて、契約者の俺を殺す気だったのかね? 直接、兄ちゃん相手だと部が悪いからって。おかげで、鍛えられましたけど。


「んー? おいちゃんの時は、真っ向勝負かけてくるぞー。ニャンコじゃ、契約のうちに入らんからなー」


 人によって、戦い分けるのな。さすが、デーモンさん。


「前さー。模擬戦闘で、デーモンに悪魔側の契約者役やらせたんよー。大聖堂内って場所指定したのが悪かったか。こっち、全滅したからな。……その翌日、悪魔連中を含めて、模擬戦参加した全員、仕事できないって大惨事に。……デーモンは普通に仕事していたけどな」


 生ける魔王伝説、侮れねぇ。怪談話の元凶、その人(?)なんだろうな。しかし、そんな人がいるなら、中央にだって話題に上がりそうだが。こっちだけで止まっているんだな。


「そういえば、そのデーモンさん。こっちで寝泊まりしてないのですね。別の宿舎ですか?」


 ここに寝泊まりしていたら、悪魔達が怯えているだろうから。みんな怖がっていたし。


「おう。デーモンは、確かじじい……枢機卿とかがいる宿舎と同じだったはずだぜ? あそこなら、さしものデーモンといえど、悪さもできねぇだろ」


 腕を組みつつ頷くラザフォード司教。おいおい、悪さって。デーモンさん、何してるの? ラザフォード司教の言葉のおかげで、デーモンさんが警邏隊所属説は消えたが。やっぱり大聖堂絡みの人|(?)|か。


「司教ー。だから、あの方だって、悪気はありませんって。ちなみにその模擬戦、俺は参加しなかったけど。司教とバルトさんはしたんですよねー」


 「ごしゅーしょー様でーす」と冷たいクリスさん。いいけどね。デーモンさんの肩を持つのは相変わらず。


「だからってさー。あいつ、マジで本気出すかねー。本気出さないと模擬戦じゃねぇって言うのは分かるけどさー」


 グチグチ言う司教に、バルトさんも便乗していた。


「おいちゃんと真正面からぶつかってんのに、後ろに立つからね。あれのせいで、あっちの理性がとんじゃったんよー」


 あぁ、デーモンさんの、ね。バルトさんとドンパチ()り合ってんのにね。そりゃー、ダメでしょ。そんな時、横槍入れられたら、本気出すよなー。


「ジャンもチビスケも、模擬戦する時は、デーモンなしか、味方側から始めるよ。あれがいきなり敵は……歩くトラウマ製造機の餌食になるだけだかんな」


 うーんと考える司教。こうみるといい人なんだよな、司教。


「いんやー。味方側でも、人外とその契約者ってだけでアウトだろ。倒しに来るぞー」


 味方側でもトラウマ作ってくれちゃう人かよ! もう、その人|(?)|なしで模擬戦お願いしますよ! 兄ちゃん、そういう強い人|(悪魔、神を含む)|を見ると、自分の腕っ節を試したくなるから。めちゃくちゃ困るよ!

 バルトさんの言葉に一理あるのか、司教も「だな。デーモンはそういうやつだったわ」と諦めたように言っていた。そこはちゃんと否定して下さいよっ?!


「なーなー。そのデーモン、おっちゃんより強いの~? 俺、勝てる気しないぞ?」


 ヘニャリと眉を下げる兄ちゃん。やっぱり、バルトさんが強いって分かるんだね。さすが。


「おう、強いぞ。悪魔祓い師としては、言わずもがなだが。人外より、人外らしいという言葉がまさに相応しい、デーモンだぜ? ここにいる連中も魔王って呼んでいるくらいだからな」

「おいちゃんも、北部ではそれなりにブイブイいわせていた方だけどねぇ。あっちは中央でかなりブイブイやらかしていたそうだからねー」


 司教とバルトさんは、兄ちゃんをからかうようにして脅していた。………兄ちゃんも「そ、そんなやつなの? ふぇぇー」と言って、本気で怯えているよ。昨夜、そんなデーモンさんがこの近くにいたそうだからな。司教がコテンパンにやられるくらいだし。……いや、もちろんラザフォード司教も強いんだけどね。実力的にすごいって、天空神からも大地神からも聞いてるし。


「中央って。……俺達もそこから来ましたけど。……そんな話、聞いたことありませんよ?」


そんなブイブイいわせていた人がいたなら、末端とはいえ、当然俺の耳にも、ね。


「ジャンがよー。悪魔祓い師の修道士になる頃には、すでに引退して、北部に来てただろうからな。そっちのチビスケが転化したのって、六、七年前くらいじゃね?」


 そのものズバリで指摘する司教に「……まぁ、はい」と肯定するしかなかった。デーモンさんが引退って、やっぱり、お年だったのかな。

 しかし、バルトさんと同じってことは、暗部、裏社会に通じている人なんだろうな。しかし、バルトさんがためらいなく俺に毒を盛ったってことは、デーモンさんにもやったんだろう。余計なことしてくれやがって、デーモンさんめ。


「あ、そういえば。ヴィルド司教、血液中の酸素濃度の調節、されませんでしたね。当然、されてますよね?」


 火事の死因って焼けるより、断然煙でってのが多いんだよ。そこで血液中の酸素が、不完全燃焼により発生した一酸化炭素ってやつに奪われちまうのな。そうすると各臓器に酸素が回らなくなるのなー。一番ダメージがでかいのは脳だけど。

 そうならないためにも、最初に酸素を与える呪術式描くっていうのは基本だけど。もしかしたら、俺が見ていないだけで、すでにされていたのかも。


「あー、上の妻子なぁ。そっかぁ」


 半目で、虚ろーに俺を見る司教。何か、あったのかな?


「ヴィルド司教が火事現場で救出された折に、きちんとされているよ。それから運ばれたようだからね。特に小さい子供の処置は、真っ先にしないと障害が残りやすいからね」


 もっともなクリスさんに、俺もほっと安堵した。そういえば、ヴィルド司教も後は目が覚めたら大丈夫的なことおっしゃっていましたもんね。


「ジャンくんも医療系の二級持ち? 俺と一緒だねー」


 楽しそうに笑うクリスさん。だけど、司教とバルトさんはそんなに。楽しいお知らせでもないでもないからな。


「そっかー。ジャンもそっち系か。まぁ、チビスケもチビスケだしな」

「となると坊と一緒に歩かせる訳にもいかんからな。別の司教補佐か修道士と歩かせるか?」


 治療できる者同士、歩かせるっていうのは、まずないからな。普通は、分けて歩かせるよ。


「モラさんとアンジェの契約者は外しとくか。デーモンが、契約者同士の密会かって飛んでくるからな」


 うんうん、と頷きつつ言う司教。バルトさんも「だな。新入りクラスだと来るな」って笑って同意していた。

そうか、来てしまうのか。……来られてしまうのか。

 デーモンさんって、ここでは本当に悪名高いな。

 こうなると、お会いしたくなるな。

 ……間違っても、お遭いしたくはないが。




 これで、2章は終わりです。ここまで読み進めていただきありがとうございます。

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