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ある悪魔祓い師司教補佐の移転奮闘記  作者: 山坂正里
第二章  守護神付きの青年、北の町を歩き、火事と出くわす。
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2章です。

 一番鳥の鳴き声と同時に俺は目を覚ました。がっつりベッドの上で寝れたおかげで、疲れも取れたよ。

 机と椅子。そして俺が寝ていたベッド以外、家具が置かれていない部屋なんだよ。北側に石英か動物の角か骨を薄く切った物がガラス代わりに張られている窓だ。その対面は俺が入ってきた木製のドアな。

 で、その窓近くの机の隅にいるロベルトとオメガ。こっちに背を向けて座り、プルプル震えていた。

 そして、俺の腰にべったり抱き付き、こっちもプルプル震えている兄ちゃん。

 ……一体、俺が眠っている間に何があったんだろう?


「バッカ、ジャン。なんで、一人で寝てんだよっ?! めっちゃ怖かったんだからな?!」

 

 兄ちゃん、本当にその手の話がダメなんだな。それで暴れてねぇよな? 思わずドキドキしちまったぜ。

 ……もちろん、悪い意味でな。冷静な分析として、ない……と思いたいね。


「……兄ちゃん、バカ言ってないで。俺、顔洗ってくるから。邪魔しないでね」


 兄ちゃんを軽くいなし、外に出ようとするが、今度はロベルトとオメガが俺の前に立ちふさがっていた。誰かが迎えに来るまで出ちゃダメってか?


「い、今出たら、魔王が来るかもしれねぇ!」

「気を抜くな! 今……近くに魔王がいるぞ!?」


 そういう魔王こそ、祓ったり退治したりするのが俺らの仕事だろうが。……というより、お前ら、自分達のこと棚に上げすぎじゃねぇ? 人間止めているお前らは何なんだ。


「ジャン、本当にここ恐ろしいんだぞ?! 夜町を散策していたら、誰もいないはずの路地から炎の球が飛んできたり、突然地面が崩れたりだなぁ!」


 思いっきり怪奇現象だな、それ。おそらくすべて呪術式の類が原因だろうが。もちろん、それをラザフォード司教にも報告しているのだろう。それでも、何の音沙汰なし? いや、原因は分かっているんだろうけどな。多分、おそらく、絶対、その魔王なんだろうなぁ。何らかの対策とかしないのか? 


「……で、ロベルトとオメガはなんで怖がってんの? 兄ちゃんが暴れた訳じゃないだろうが」


 兄ちゃんが暴れたら、この部屋も無事で済むと思えないし。


「この宿舎の外で、あの魔王の気配が……」

「魔王は新手の悪魔の気配を感知して、やって来たんだ」

「お、お前、止めろよ?!」


 ロベルト、オメガ、兄ちゃんの順に話しているが。……なんとなく納得だ。

 そうか、兄ちゃんも感知したんだ。


「当たり前だろ?! 本当にここ……化物がいるなっ?!」


 兄ちゃん半泣きで。よっぽど恐ろしかったんだなぁ。そんな中、俺は熟睡していた訳か。秋口だからか、真夜中、ちょっと肌寒かったような気は俺もしたが。いくら北部が王都より寒冷とはいえ、そこまで今まで別の村で感じなかっただけに違和感はあるが。

 人に擬態しているとラザフォード司教も言っていたが、擬態を止めたのだろうか? そうじゃないと、兄ちゃんもここまで怯えないだろうし。本気になった天空神や大地神と身近に接していただけに、ここまで怯えるのも尋常じゃないというか。もうそれ、本当に化物なんだろうな。大地神より強いのって、この近辺の国にはいないよ?

 こうなると、俺が二級受かっているのに、疑念しか感じなくなってきたぞ。俺、まるで感知できなかったし。


「でもさ、その魔王だか化物だか……。こっち来なかったんだな。何してたんだろう?」


 俺が小さく漏らすと三人とも大きくビクビクッと震えたかと思うと、小さくカタカタ震えていた。

……もしかしなくても、聞いちゃいけなかった?

 コンコンとタイミングよく|(?)|控えめにドアがノックされた。多分、クリスさんかな。


「おーい、ジャンく~ん。起きてるかぁ~い」


 あぁ、やっぱりクリスさんだ。だから、そんなに怯えなくても。三人とも、クリスさんだよ? クリスさんが豹変する訳じゃないんだから。


「はい、今開けますね」


 ダメだ、ダメだとばかりに俺にしがみついて、首を横に振る兄ちゃん。

 確か、大地神が面白半分に語ってくれた内容で。ある種の魔物の中には、初めて訪れることになる家とか部屋とかは、その住人に招かれないと入れないとかね。中には、知り合いの声色を真似て開けさせようとするパターンもあるとか。で、ドアを開けたらその魔物が……。なんてありがちなやつだ。

 ……兄ちゃん真に受けて、一人で部屋にお留守番していた時、俺や天空神相手でも警戒してた気が。「嘘だ! 俺は騙されない!」って言って、開けてくれなくてねぇ。内側から鍵かけてるし。天空神が「いい加減にしろよっ!」とキレて、ドアごと破壊していたが。……そういうところは短気なんよね、あの神。

 一方の大地神は、その話を聞いてケタケタと兄ちゃんと天空神を指さして笑ってましたが。「何やってんの、キミ達ぃ♪」って言って笑だけで、自分の話が原因だというのを忘れている節があった。いや、あの神なら、そんな些細なこと、平気で棚に上げるか。神棚に祭っちゃうよな。しかも、自分自神の。……本当に、無責任な神だったなぁ。

 ここでは、悪魔二人は明か、ホッとしているようだけどな。その怪談話、マイナーなのか知られていないようだしな。それとも、大地神の創作か? ……あり得る。

 俺がドアを開けて顔を見せると、ほっとしたような表情を見せるクリスさん。ほらね。全く、兄ちゃん、ビビりすぎ。


「あぁ、ジャンくん。ぐっすり眠れたみたいだね。昨夜だったら、こいつらも何もしなかったかもしれないけどね」


 苦笑するクリスさん。えっと、なんで? 俺、実際、ぐっすりだったし。変なこと、されてないよ?

 二階の部屋から一階の広間へと向かいながら話しているが。悪魔達や兄ちゃん来ないなぁ。まだ怖がっているのかな?


「いってぇぇぇ! そこ触んな、バカ猫!!」


 今の声、ラザフォード司教? 何してんの?

 広間のソファに座り、頭とか腕とか太腿とかに包帯を巻かれている司教。猫が、その太腿にタッチしたのが原因らしく、その怪我(?)に響いたらしいと。

 しかし、司教があんな怪我をするなんて。一体、何があったんだろう? 他の職員はたいして気にしていないようだけど。


「おぉ、ジャン起きたか? クリスに睡眠薬盛られたって聞いたが。……割とすっきりしているようだな」


 フレンドリーなラザフォード司教はありがたいけど。

 ――クリスさーん!! 何しちゃってくれてんの?! 気付けない俺も俺だけど!


「疲れていなければ、効かない薬だったんだけど。ジャンくん、ぐっすりだったって言うからね」


 苦笑してもダメですよ! 俺、変なの盛られてたとしても、気付かないのか。それは……嫌だなぁ。


「坊が時々飲んでいる、眠っている間、何があっても起きんくて、後々残らんやつだろ? ……なら安心だな」


 猫の契約者のバルトさんは、そうおっしゃっているが。まるで違うもの|(命にかかわる系)|を盛られる可能性だってあったよね?! そっちの心配してもいいかな?


「あー、だったら俺がデーモンにケンカ吹っ掛ける必要なかったよなー。ジャンの本当の意味で、最終試験時にデーモンと戦わせる予定だったんだが。デーモンの強さ、どれくらいか量りたかったんだけど」


 それで返り討ちに遭ったんですか。本当に容赦ねぇな、デーモンさん。


「……あの、司教。もしかしなくても、それ。この宿舎の近くでしました? 兄ちゃんと悪魔達、妙に怯えてたんですけど」


 怪談話しながら、露骨にその元凶と思しき気配感知したら。……あぁ、なるわな。


「おうよ。しかし、ガチであそこまでやらかしてくるとはな。……リクエストが悪かったのかもなぁ」


 何だかんだ言っても、司教と仲良くない? そのデーモンさん。司教、普通に頼み事してるし。デーモンさんも、安請負してるようだし。


「どんにゃオーダーしたにゃ? バルトも思わず振り返ってたにゃ。吾輩は、バルトの頭に駆け上がったにゃ」

「俺も足がすくんだよー。帰って、ラザフォードの援護してやろうかと思ったけど。俺がいても、動く的になるしかないからな」


 キシシと笑うウェスタ。ここの悪魔の中でも最強なんじゃねぇのか、あんた。


「おう、魔王モードでよろしくって言ったら、この様だかんな。クリスが止めに入らなかったら、ヤバかったかもな」


 ケラケラ司教笑ってますけど、シャレになりませんよ!


「全部打ち身と打撲くらいで済んでますし。ちゃんと加減してくれてましたよ」


 クリスさん、そのデーモンさんをかばうんですね。ラザフォード司教、結構痛い目に遭わされてますが。


「ま、デーモンも。野良の契約者相手なら……これくらいじゃ済まんだろうけどな」


 あぁ、立場もあるラザフォード司教だからこれくらいで済んだと。


「しかし、司教。司教なら、公爵クラスくらい、一人で祓えるようになって下さいって言われましたでしょう? 頑張って下さいよ」

「いや、あいつ魔王クラスの上の魔神クラスだもん。大地神より格上だよ、絶対。天災以上に面倒な歩く厄災製造機だし。トラブルメーカーだし。無理言うなよ」


 ……デーモンさん、人じゃない説が濃くなってきましたが。扱いが酷い。自称、公爵クラスの悪魔か……一人で何の契約もなしに歩かせちゃダメだろ。いや、クリスさんいわく、本人|(?)|は人間だと自称しているらしいが。


「なんだ。オーダーも暗殺者モードにしとけばよかったのに。ラザフォードちゃんもそういう契約者や悪魔に慣れといた方がいいだろ」

「絶対ヤダ! 俺死ぬよ?! 死んじゃうよ!?」


 猫を肩に乗せたまま言うバルトさん。それにキャンキャン吠えて噛み付く司教。そんなに怖いんか、デーモンさん。


「あぁ、今回の魔王の被害者、ラザフォードだったんだ。バカだなぁ」

「ラザフォードからケンカ吹っ掛けたんだろうねー。契約者の場合、魔王は様子見てからしか仕掛けないから」


 のんびり二階から降りてきた悪魔二人と兄ちゃん。立ち直った?


「まぁ、普段の巡回の時はそうかなぁ。演習日は遠慮なく、誰彼お構いなしにボコボコ撃ち込んで来るけどな、デーモンのやつ」


 悪魔三人、そしてここの職員達はみんな経験者なのか、表情が暗くなったよ。いつもはフォローを入れるクリスさんですら、遠慮がちだった。


「全体のレベルアップを目指していらっしゃるから。そこは……手厳しいけどさぁ」


 そうか、優しい方ではないのか。話聞いてたら、そうだろうけど。


「じゃあ、司教。今日は大事を取って、たまりにたまったデスクワークをよろしくっす。俺はジャンくん達と中央区付近でも散策しときますね」

「えー、クリスしろよ。そういうのは苦手なんだって」


 うん、そういう細かいのは苦手そうだ。顔しかめて嫌がってるよ。現場主義っぽいからね、司教。


「サインとかだけで済むように整理しときましたよ」


 クリスさんがおかんに見える。有能だね。さすが、司教補佐。ラザフォード司教の右腕。


「……しゃーねぇな。適当にやっとくよ。急ぎのはねぇんだろ?」


 「ねぇっす」と答えるクリスさん。


「あ、すみません。これ、昨日渡すつもりだったんですけど。すっかり忘れてたです」


 中央の枢機卿から司教や枢機卿に手紙を渡してねって言われていたのに。何だかんだあったから、忘れてたよ。

司教も「そんなんあったんだ」って軽く言って、受け取ってくれたよ。

 よかった、よかった。


 読み進めていただき、ありがとうございます。

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