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ある悪魔祓い師司教補佐の移転奮闘記  作者: 山坂正里
第六章  守護神付きの青年、守護神と共に魔獣遣いと戦う。
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 兄ちゃんだけ、アンジェとモラさんと同室が一番しっくりすると思ったが。兄ちゃんが「絶対に、いや! ジャンと一緒じゃなきゃ、ヤダ!!」と言ってごねた。じゃあ、反対に俺も兄ちゃん達と同室となると、俺が物理的に死ぬ。いや、司教と悪魔トリオに殺される。

 夕方、他職員達と一緒にくじを引き直して、部屋割りし直そうとなった。いや、本当に申し訳ないくらいだよ。


「ジャンの心意気は立派だけどにゃー。バルトにチャレンジする前に、三トリオ相手に勝てるようににゃるにゃー。まずはそこからにゃ」


 ダイニングの机の上に突っ伏す俺。椅子に座っている俺の膝の上に座る猫。タシタシと前脚で膝タッチしてくれるけどさ。……可愛いじゃねぇかよ。俺は、別にそんなに言うほど猫が好きな訳ではないんだが。かといって、犬が好きって訳でもないが。そんなに動物とかは好きじゃあない。

 まさか、芋の皮をむいている時に、ナイフとかその他呪術式とか飛ばしてくるなんて。俺もそれらをかわそうと頑張ったよ。バルトさん、何してくれちゃうのよ。

 今は、兄ちゃんとバルトさんが楽しげにしていることだろう。兄ちゃん、タフだ。


「ジャンの焦る気持ちも分からにゃくもにゃいけどにゃー。かにゃり、寝不足がたたっているにゃ」


 確かにここ数日、まともに寝てないが。俺は平気だ。まだ、な。


「魔獣遣いのことは、確かに気になるが。……チビスケも新入りも無理だけはするな」


 温かい飲み物が入ったマグカップを俺の顔横に置いてくれるバルトさん。こういう時は、優しいですね。お礼を言って、ありがたく、ちょうだいしたよ。


「新入りはさー。即死じゃなければ、毒を盛られても死にゃせんのか?」


 飲もうとしたお茶、思わず中空で止まっちゃったぞ?! なんてことを、言い出すの、バルトさん!! また、毒盛られているのかと思ったら、飲めねぇよっ!


「いやいや。今日はまだ入れてないよー。今後の参考のために、世間話だと思ってくれていいからさ」


 偉く物騒な世間話ですね! そんな世間話、普通はしねぇよ!! しているのは、バルトさんとヴィルド司教様の間だけでしょ! ……ヤベェ、普通にしてそうだよ。しかし、参考って言われても、俺が酷い目に遭うのが前提みたいで嫌なんですけど。そして、今まだって言いませんでした? この後入れる予定なのか? 一気に飲めなくなったよ。


「そりゃー、即死じゃなきゃ、俺も大体は自分で治せますし。意識があって、手さえ動いてくれたら……何とかなるとは思いますが」


 それでも、限界は知りたくないなぁ。俺、普通に死ぬぞ。死んじゃうぞ。

 台所から元のサイズ……十二歳の姿に戻った兄ちゃんは、俺の隣の椅子に大人しく座った。そして「お菓子ー」と机をバンバン叩いていた。兄ちゃん、行儀悪いからやめてね。


「ただ守護神のチビスケが人外ってだけで、ジャンは悪魔祓い師ににゃったのだろうにゃ。チビスケは元々、病気をにゃおすのが専門にゃのだろうにゃ?」


 振り振りと尻尾を振って猫が見上げてくれるが。……正解だ。

 六年前、中央が感染のピークだった頃。俺が黒死病にかかって死にかけた。兄ちゃんは、そんな俺を助けるために『(ゲート)』を開き、くぐって還ってきた。そのため、人ではなくなった。

 だから、今回の魔獣遣いに対し、激しい憤りを覚えている。元々ケンカっ早い兄ちゃんが、いつにも増して、魔獣遣いに殺気だっているのも、その所為だ。黒死病を流行らせ、この北部の住人に危害を加えるのが目的なら、絶対に許せない。


「……こんにちは。報告書を持ってきました」


 モラさんの案内を断ってきたと思われるヴィルド司教様とエドガー。今日は二人連れだっているんだな。よかったな。

 猫は、俺の膝の上からバルトさんの肩上に移動して。……いや、うん。一番安全なの、そこだもんね。


「おう、少年。ご苦労さん。ラザフォードちゃんに渡しとくよ」

「よろしくお願いします」


 昼、司教がいない時はバルトさんが処理するのか。クリスさんも司教と一緒に枢機卿にお伺いに行っていたからな。それから、ヴィルド司教様に打診しに行くって言っていたが。今ここに来られてもね。


「その報告書って、この前の悪魔のですか?」


 昨日起こった地下や今までの地下絡みの報告書じゃないんだろうな。中央での、俺の仕事。半分はそっち絡みだっただけに。北部での進度・進展が気になるんだけどな。

 バルトさんに書類を手渡したヴィルド司教は俺の質問にも「はい」と肯定してくれた。書類を届けるだけの雑事って司教自らがする仕事ではないと思っていただけに、意外に思ったんだよ。エドガーに押し付けるかなって。そのためのお付きの補佐でもあるだろうし。


「ジャン司教補佐。昨日、エドガーを使い魔から助けていただき、ありがとうございました」


 きっちり俺を見て、深々と頭を下げるヴィルド司教様。……ちょ、止めて下さい!


「そもそも、俺や兄ちゃんがヴィルド司教様の捕らえた悪魔を逃がすような真似をしたのが原因なんですから。……その節は、本当に申し訳ありませんでした!」


 俺、立ってヴィルド司教様より深く頭を下げちまったぜ。ほら、兄ちゃんも一緒に謝って!!

 小さい姿のまま、兄ちゃんも頭をペコンと下げてくれたよ。


「私が油断しておりましたので。そのことはお気になさらぬよう」

「そうそう。ジャンさんと守護神は悪くないよ」


 ヴィルド司教様の後ろで、まるで悪びれた様子もないエドガー。


「私の忠告もきかずに、一人で歩いていたエドガーが悪いのだが」


 エドガーを軽く睨むヴィルド司教様。


「うぅ、分かってるよ」


 エドガーも、ヴィルド司教に言われて、反省はまるでしていないようだが、自覚はしているようだった。


「それより、魔獣遣いのことはラザフォードちゃんから聞いたか? 少年も関係者だろう?」


 報告書を猫と一緒に見ながらのバルトさん。そうだよね。ラザフォード司教もその事を頼みに行ったんだから。


「……はい。もう怪我もないようですね」


 兄ちゃんを一瞥後、すぐに視線もバルトさんに戻ったヴィルド司教。噂通り、悪魔嫌いなんだね。兄ちゃんは神だけど、大聖堂からしたら、公式には認められないからね。


「……まぁ、人外は頑丈なのが取り柄だからな。それで、やっぱり、あの悪魔、監禁していたんかぁ。あん時の中央担当、誰だぁ?」


 バルトさん、げんなりだよ。猫もため息ついちまったよ。


「ラザがいたからにゃ。チビスケでも、魔王が隠しにゃがらだったから、余計わからんにゃ」

「うるせぇよ、クソ猫。さしもの俺をいらないやつ扱いすんな」


 お昼時だから帰ってきたのね、司教とクリスさん。ちゃっちゃと食べて、見回り行くのね。


「ラザフォードちゃんに坊、おかえりー。しかしなぁ、少年。そういうことなら、おいちゃんだけに、こそっと教えてくれたらよかったのに。ラザフォードちゃん達には黙っとくよ?」


 ブラックな笑い方をするバルトさん。やっぱり、去年の恨んでいるんだ。


「昨夜お伝えしたかったのですが。……これ以上、遠隔で使い魔を操られても困りますので」


 だからもういないんですね、その悪魔。ご愁傷様です。


「うるせぇよ、デーモン。じじいと結託して、悪魔祓い師を試すようなことばかりしやがって。お前だって悪魔祓い師だろうが」


 どかりと乱暴に椅子に座る司教。……やっぱり天空神と似ているよ、この方。同じことを身内にされたら、こんな感じに不貞腐れるところなんて、もうそっくり。


「実際と同じにって枢機卿もおっしゃってましたでしょう? ヴィルド司教がこっちの味方なら、すっげぇ心強いんすけどね」


 絶賛深いため息のクリスさん。大聖堂の悪魔祓い師同士、そういう交流会があったら、楽しそうですね。ディフェンス側とオフェンス側に分かれて。……いや、楽しんじゃダメなんだけどね。勉強になるよね。


「……それでは、また後ほど」


 ペコリと一礼して、エドガーを連れて行っちゃったヴィルド司教様。いや、うん。すごく意味深なんですけど。


「おっちゃーん。もうご飯にする! あー、分かっててもムカつく!! デーモンめぇぇぇ。早くどっかの教会に異動になれ!!」


 あぁ、大地神にからかわれた後の(以下略)。こっちに八つ当たりしないところは好感持てるよ。いや、もちろん天空神もしないけどさ。


「司教、仕方ないですよぉ。ヴィルド司教の方が、断然格上で人格者だからって拗ねないで下さい」

「クリス、お前、そんなに暇になりたいか、こらぁぁぁ。俺は、普通!! デーモンが化物なんだよ! あいつは人格者じゃねぇよ。細かいことを気にしねぇだけ! 無頓着なだけなの!」


 大地神にもお遊びとはいえ、勝てる人(?)だからね。ヴィルド司教様の性格、悪く言ったらそうかも知れなくても。そこまで言わなくても……。


「大体、今までの司教試験は各魔王の呪術式の発動で十分だっていうのに。あんな複雑怪奇なのをだぞ?!」


 司教、バンバンと机を叩いて語らないで。俺もパターンだけは覚えられても、発動できねぇよ。できてもコントロールできねぇよ。


「その所為で司教試験の時って毎年、怪我人多数だそうですよね。天空神だけでなく、大地神もコントロールしこねたのを止めに入ることも多々ある、とおっしゃっていましたよ」


 本当に大きな呪術式になると、国を滅ぼしかねないのもあるらしいから。もちろん、大地神も天空神もそういう類のものを使えなくもないらしいが。


「……なぁなぁ。本当にさっきのが、デーモンで魔王なのか? やっぱり、そんな風には見えなかったぞ?」


 兄ちゃん、なんて恐ろしいことを。


「チビスケー。だから、人間に擬態してるんだって。エドガーも傍にいたから、なおさらな」


 司教までそんなことを言って。ヴィルド司教様は人間でしょうよ。……いや、多分。有能だろうし。うん。疑って……ないよ?


「じゃあ、本性を出したら、牙とか角とか生えるのか?!」


 キョトンと首を傾げて。……兄ちゃんや天空神、ならびに大地神だってそんなの生えないでしょう。バカ言わないでね。


「あぁ、生える生える。背中に翼とか尻尾とか見えるぜ」


 司教、面倒になったからって食事しながら、適当なこと言い出した?! 兄ちゃんが真に受けて「ジャン、こえぇよー!」って泣きついてきたよ! 兄ちゃん、冗談だよ!!


「……司教ぅー、伯爵も怖がってますから、からかっちゃダメっすよ。生えないから、大丈夫だよー」


 クリスさん、優しい。兄ちゃんも「本当に?」って聞き返しているよ。


「……おいちゃん、あの黒い司教服が時々、翼に見えなくないこともないんよ?」


 バルトさーん!! なんてこと言うかな?! 兄ちゃん、また「ふえぇぇぇぇ」って言って、俺に抱きついてきたよ。御二方、からかわないでっ!


「今度、魔王モードのデーモンに遭わせてやるよ。……疑いようがないから」


 キシシと人が悪い顔で笑われる司教。……それ、自動的に俺も一緒ですよね。絶対に嫌なんですけど。


「兄ちゃん、兄ちゃん。ヴィルド司教様のことも気になるかもしれないけどさ。今は魔獣遣いのことだよ」


 微妙な顔をされた司教とクリスさん。……なんか、ありました?


「魔王クラスの魔獣遣いか。いやはや、怖いねぇ。それこそ、少年の出番だろうな」


 うむうむと腕を組みつつ、頷くバルトさん。猫もバルトさんに同意なのか「魔王にゃら、容赦にゃく()ってくれるにゃ」と言ってくれた。………いや容赦なくって。殺しちゃあダメでしょうよ。背後関係、洗えないよ?


「そのあたりは大丈夫だろう。デーモン、死体から情報を取り出した方が手っ取り早いって言い切っていたからな。……俺は、デーモンに司教位を与えたじじいに、そのあたりのモラルとか情操教育とか、どうなってるんだって問いただしてぇよ」


 大地神並の合理主義者っ! がっつり割り切ってらっしゃるんですねっ!


「エドガー司教補佐がいて下さっているおかげで、大分丸くなったんだけどね? いらっしゃらなかった時は………悪魔連中へのあたり、半端なかったなぁ」


 いつもはフォローするクリスさんまでっ?!


「ジャンもチビスケも。くれぐれも魔王を刺激しちゃダメにゃ」


 そう結んでくれた猫。うん、分かった。気を付ける。


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